雨かと思ったらスライムだった -梅雨の季節は命がけです-

@nama_kemono

第1話 晴れ時々スライム ところにより悲鳴

「おお~い! リク、死ぬ気か!?こんな雨の中をびしょ濡れになって…」


 たかが雨に濡れたくらいで大げさだなぁ。


 その時はそんな程度に思ったのだが、その数分後に俺はその言葉の意味を知った。


「ん? うぉ! 痛て、痛てててて…」


 雨に濡れた服が少し溶けかかっていて、腕や顔などが軽く炎症を起こしていたためヒリヒリと傷んだ。


「何だよ、これ!」

「なんだってスライだよ、おいおい、リクのとこは降らなかったわけじゃねーよな」


 そのまさかだよとは言えなかった。

 言った所で信用されるなんて思えなかったからだ…現世から転移して来たなんて。



「しかし大地の女神さまも不公平だよなぁ、俺たち人間や人間が作った物には加護をくれないって。おかげでスライが降るたびに避難しなきゃならねえ」


 

 村の青年サムは、スライを知らない俺に色々教えてくれた。


 大地の女神の加護が与えられた物はスライに溶かされない。

 大地の女神の加護は人間と人間が作った物には与えられない。


 そのため、どの家の屋根も草木をもぎ取って上に被せているだけだ。人の手で色々加工すると大地の女神の加護が無くなってしまうらしい。

 またスライムは強い風が吹いているときは降らない。これは大地に雨として帰る既成本能から、風で飛ばされ加護の及ばない所へ行かないためと言われている。


 そうでなければ、台風の時なんかスライが吹き込んで大惨事になっていただろう。

 しかし、それはそれで見たかったかもしれない、特に隣のリーネさんとアーネさん姉妹など特に。


「きゃ――――!」


 樹の下で雨宿りをしていたら悲鳴が聞こえた。俺は濡れるのも構わず、悲鳴が聞こえた方へ走り出した。


悲鳴は美人姉妹で有名なリーネさんとアーネさん達だった。


 リーネさん達の家に入ると、2人は怖さのあまり互いに抱き合い、目をつぶって震えていた。


「どうしました?」

「食事の支度をしていたら台所にあの黒くてすばしこいものが…」

「お願いします、アレを…」


 俺はピーンと閃いた。

 黒くてすばしこくて、女性が苦手なアレ。この異世界でもGのやつはいるんだな。


「任せて下さい、俺がチャチャっと退治しちゃいますから」


 俺の言葉に安堵した2人が俺を見て言った。


「ありが… きゃー!!」


 しまった、ずぶ濡れのまま来たから服が溶けかけていた。コレが二次被害と言うものか…


 取り敢えず台所にあった葉っぱで即席のパンツを作って全年齢対応にした。


 よし、コレでなんとか格好がついた。

 この後格好良くアレを退治すれば、感謝で俺の事を好きになったりして。

 スレンダー美人のリーナさんもいいが、メリハリのある可愛いアーネさんも捨てがたい。


 そんな妄想を抱きつつ、改めてG退治に台所に入った。


 しかし辺りを見回すが見当たらない。耳を覚ますとカサカサと僅かに音が聞こえた。

 俺は徐ろに音のする方に向き直った。


 すると、黒くて、すばしこい何かが、カサカサと音を立てて動いていた。


 そーっと近づこうとした時、リーナさんが叫んだ。

「あ、それ以上近づいちゃダメ!」

「え?」


 俺が近づいたら、それは巨大なピンク色のハートになって、窓から外に出て飛んでいった。

 それを見た2人は、なんとも言えない顔をしていた。


「あ、あの〜、アレは…」

「「………」」


 2人揃って押し黙って互いに目配せをしている。


「あんたが言いなさいよ」

「おねーちゃんが説明しなよ。あ、やばい!あの大きさだと村のみんなに見られたかも!!」


 暫くするとサムら、村の人達が様子を見にやってきた。


 そして家の中に居た葉っぱパンツの俺を見ると、ある者はニヤニヤ笑い、ある者は泣き、ある者は汚いものを見る様な目をした。


「違うの!アレはアタシやおねーちゃんじゃなくて、コイツ!コイツだから!!!」

「ハイハイ、そーゆー事にしとくから」

「どっちだ?どっちと…まさか両方か??」

「穢らわしい…」


 村の人達がそれぞれ好き勝手言って帰っていった。


「あの~、状況が分からないんだけど…、説明してくれる?」


 アーネは「あ”あ”??」と俺を睨んで自分の部屋に行ってしまった。仕方ないとリーネが説明してくれた。


「さっき窓から飛んでったのは『ウィルオウィスプ』よ、近づいた人の感情の内容や強さに敏感に反応して、ある程度強い感情に反応したら消えていくの」

「強い感情?それって…」

「そっ、つまりみんなには私達の誰かが、えっろ~い事をものすっご~く考えていたってバレバレだったって事」

「ウィルオウィスプは感情が逆流するから、最初怖いと思っちゃって思わず悲鳴をあげちゃった」


 とりあえず、物理的には危険はないそうなので一安心だ。


「それよりあんた、あの色であの大きさって、何を考えていたのかとっくりと聞かせてもらうわよ!」


 今の俺の感情は恐怖一色だった。

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