『俺達のグレートなキャンプ219 異世界から勇者を召喚して勇気づけよう』

海山純平

第219話 異世界から勇者を召喚して勇気づけよう(外道に)

俺達のグレートなキャンプ219 異世界から勇者を召喚して勇気づけよう(外道に)


「よっしゃ! 完成だああああ!」

石川が懐中電灯を地面に向けながら、満足げに立ち上がる。夜のキャンプ場。焚き火の明かりが揺らめく中、彼の足元には直径三メートルほどの巨大な魔法陣が描かれていた。

いや、魔法陣と呼ぶにはあまりにも酷い。

円の中に歪んだ五芒星。その周囲を取り囲む謎の文字列。よく見ると「勇者カモン」「ビビるな」「元気出せ」「魔王ヤっちゃえ」「根性見せろ」などと、マジックペンで雑に書かれている。さらに円の外側には「お疲れ様」「頑張れ」「応援してるぞ」という励ましの言葉まで。

「...石川、これ本当に召喚できるの?」

富山が腕を組んで、不安そうに眉をひそめる。その表情は「絶対無理でしょ」と言いたげだが、長年の付き合いで学んだ諦めの境地が顔に滲み出ている。

「できるできる! 骨董品店のおじいちゃんが『本物だ』って言ってたんだから!」

石川が羊皮紙をパタパタと振りながら自信満々に答える。その羊皮紙、よく見るとコーヒーのシミがついていて、明らかに「古く見せるために汚しました」感が漂っている。

「その自信の根拠が薄すぎるんですけどおおお!」千葉がツッコむ。が、その目は期待で輝いている。「でも、面白そうですね! 異世界から勇者! ロマンありますよ!」

「だろ? わかってくれるか千葉!」石川が千葉の肩をバシバシ叩く。

「私だけまともな感覚残ってるのかな...」富山が頭を抱える。

隣のサイトから若いカップルがこちらを見ている。男性が彼女の耳元で何か囁くと、彼女がクスクスと笑う。完全に「変な人たちがいる」という目だ。

「よーし、じゃあ準備するぞ!」

石川が小瓶から謎の粉末を魔法陣の中央にパラパラと撒く。キラキラと光る粉。どう見てもクラフトショップで売ってるラメパウダーだ。

「それ百均で買ったやつじゃない?」富山が冷静にツッコむ。

「細かいことはいいんだよ! 雰囲気が大事なの!」

石川が謎のカードを掲げる。そこには下手くそな絵で勇者らしき人物が描かれている。明らかに石川の自作だ。

「じゃあ行くぞ! 呪文を唱える!」

「呪文!?」富山と千葉が同時に声を上げる。

「おう!」石川が羊皮紙を広げる。そこには...

『異世界の勇者よ、我らの呼び声に応えよ! 困っている者を助け、勇気を取り戻すのだ! いでよ、勇者ーーーー!!』

と、RPGのオープニングみたいな文章が書かれていた。しかも明らかにマジックペンで手書き。

「うおおおおお! 異世界の勇者よおおおお!」

石川が両手を天に掲げて叫ぶ。その勢いに圧倒され、富山と千葉も思わず身構える。

「我らの呼び声に応えよおおおお!」

魔法陣の周囲で石川がぐるぐると回り始める。まるで祈祷師のような動き。ただし全く様になっていない。

「困っている者を助けええええ!」

「石川さん、声でかいです!」千葉がツッコむが、もう止まらない。

「勇気を取り戻すのだああああ! いでよ、勇者ーーーーー!!」

石川が魔法陣の中央に手をかざす。

その瞬間。

「...何も起きないね」富山が冷静に言う。

「...」石川が固まる。

「そりゃそうですよ」千葉が肩をすくめる。「さすがに異世界召喚は...」

その時だった。

ビリビリビリビリッ!

空気が振動する。いや、マジで振動した。

「え!?」三人が驚いて魔法陣を見る。

ラメパウダーがふわっと浮き上がり、魔法陣が淡く光り始める。

「嘘でしょ!?」富山が後ずさる。

「マジかああああ!?」千葉が興奮して拳を握る。

「キタああああああ!」石川がガッツポーズ。

光がどんどん強くなる。周囲のキャンパーたちも異変に気づき、テントから顔を出す。

「うおおおお何あれ!」「すごい光!」「花火?」「いや違う!」

ざわざわと周囲が騒がしくなる。

そして。

ドゴォォォォン!!

閃光と共に、魔法陣の中央に何かが現れた。

煙がモクモクと立ち込める。いや、煙じゃない。これは転移の際の魔力の残滓...っぽい何か。

「来た...来たぞ!」石川が目を輝かせる。

「マジで来ちゃった!?」富山が信じられないという顔。

「すげええええ!」千葉が前のめり。

煙が晴れていく。

そこに立っていたのは...

「...はあ? ここどこ?」

二十代前半くらいの青年だった。ボサボサの黒髪。目の下にクマ。猫背。全体的に覇気がない。手には立派な剣を持っているが、持ち方が頼りない。そして何より、顔が暗い。すごく暗い。根暗オブ根暗という感じだ。

「お、おおおおお! 勇者様だああああ!」石川が興奮して駆け寄る。

「は? 勇者?」青年が怪訝そうに眉をひそめる。「ああ、そうだよ。一応な」

めちゃくちゃテンション低い。

「一応って!」富山がツッコむ。

「いや、だって俺、勇者なんてやりたくないし」青年がため息をつく。「なんで俺があんなヤバイ化け物と戦わなきゃなんないの? 岩に刺さってた伝説の剣を抜いただけなのに」

「え」三人が固まる。

「魔王討伐なら、他にいい人材いるだろ? 何の為の軍隊だよ。王国の精鋭部隊とかいるじゃん。なんで剣抜いただけの一般人の俺が行かなきゃなんないわけ?」

愚痴だ。これは愚痴だ。しかもすごい根暗な愚痴だ。

「ちょ、ちょっと待って」富山が混乱した顔で言う。「あなた、本当に勇者なの?」

「そうだって言ってんじゃん」青年が面倒くさそうに剣を見せる。「ほら、これが伝説の聖剣エクスカリバー的なやつ。光るし」

剣が淡く光る。マジもんだ。

「すげええええ!」千葉が目を輝かせる。「本物の聖剣!」

「でもさあ」青年が剣を地面に突き立てる。「これ抜いた瞬間、王様に『お前が勇者だ! 魔王を倒せ!』って言われてさ。は? って感じだよね。俺まだ農家の手伝いしてただけなのに」

「農家...」富山が呟く。

「そうだよ。俺、ただの農民。戦闘経験ゼロ。魔法も使えない。体力も普通。というか運動苦手」青年が自分の細い腕を見て苦笑する。「こんな奴が魔王と戦えるわけないじゃん。魔王、超強いんだぞ? 火とか吐くし、空飛ぶし、配下に化け物いっぱいいるし」

「それは確かに...」千葉が頷く。

「無理無理無理。絶対無理。俺、初めて魔物見た時、腰抜かしたもん。スライムだよ? スライム。あの雑魚中の雑魚に怖くて近づけなかったの。それなのに魔王? 冗談でしょ」

青年がどんどん愚痴モードに入っていく。

「しかも王様、『お前は選ばれし者だ』とか言ってさ。知らんがな。勝手に選ぶなよ。俺、平和に農業してたかったのに」

「あの...」富山が恐る恐る聞く。「それで、今どういう状況なんですか?」

「ああ、今? 今、魔王城の前」青年が親指で後ろを指す。「一応、パーティー組んで魔王城まで来たんだけど、怖くて入れなくて。で、仲間たちが『少し休憩しよう』って言って、俺一人で見張りしてたら、いきなり光に包まれてここに」

「魔王城の前で休憩って...」石川が呆れる。

「で、結局何? ここどこ? まさか魔王の罠?」青年が警戒した目で周囲を見回す。

「違う違う!」石川が手を振る。「ここは現代日本のキャンプ場!」

「...は?」青年が固まる。

「俺たち、君を召喚したんだ! 勇気づけるために!」

「意味わかんねえ」青年が頭を抱える。「勇気づける? 何それ。というか現代日本? 異世界じゃん。俺、異世界転移しちゃった系? 逆に?」

「まあ、そうなるね」千葉が笑う。

「最悪じゃん...」青年がうなだれる。「ただでさえ魔王と戦いたくないのに、今度は帰れなくなったってこと?」

「いや、帰れるよ! 多分!」石川が適当に言う。

「多分て!」富山がツッコむ。

「とりあえず、名前聞いてもいいですか?」千葉が優しく聞く。

「...タクヤ」青年がため息混じりに答える。「本名は異世界の言葉だから、日本語で言うとタクヤって感じ」

「タクヤさん!」石川がタクヤの肩を掴む。「俺たち、君を励ますために召喚したんだ!」

「いや、いらない」タクヤが即答。

「早い!」三人が驚く。

「だって、励まされたって魔王倒せるようになんないじゃん。現実は現実。俺、弱いもん」タクヤが自嘲気味に笑う。「応援とか精神論じゃどうにもなんない。魔王、マジで強いの。全身鎧で覆われてるし、剣効かないし、魔法バンバン撃ってくるし」

「それは...確かに厳しいね」富山が同情的に言う。

「でしょ? だから俺、思ったんだよね」タクヤが真剣な目で言う。「無理ゲーだって」

周囲のキャンパーたちが集まってきている。「何あれ?」「コスプレ?」「撮影?」とヒソヒソ声が聞こえる。

「タクヤさん!」石川が突然ビシッとタクヤを指差す。

「な、何?」タクヤがビクッとする。

「勝てないなら、正面から戦うな!」

「...え?」タクヤが目を丸くする。

「暗殺しろ!」

「暗殺!?」タクヤ、富山、千葉、そして周囲のキャンパーたちが一斉に驚く。

「そうだ! 正面から戦って勝てないなら、裏から攻めればいいんだよ!」石川が目を輝かせる。「魔王が寝てる時に刺せばいい!」

「それは...でも...」タクヤが戸惑う。

「石川、何言ってんの!?」富山が慌てる。「勇者が暗殺とか!」

「いいじゃん! 勝てばいいんだよ! 手段は選ぶな!」石川がタクヤの肩を掴んで揺さぶる。「な? タクヤ! 正面から戦って死ぬより、確実に勝てる方法選ぼうぜ!」

「で、でも...勇者が暗殺って...」タクヤが困惑する。

「勇者だからこそだ! 民を守るためなら、手段は選ばない! それが真の勇者だ!」石川が力説する。

「石川さん、それ勇者の定義おかしくないですか!?」千葉がツッコむが、目は笑っている。

「まず!」石川がタクヤの前にしゃがみ込む。「魔王軍に仲間になったフリしてもぐりこめ!」

「は!?」タクヤが驚く。

「そうだ! 『俺、王国に嫌気がさしました! 魔王様に仕えたいです!』って言って潜入するんだ!」

「そんな簡単に信じるわけ...」

「大丈夫! お前、弱そうだから逆に怪しまれない!」

「褒められてないいいい!」タクヤがツッコむ。

「でさ、魔王軍に潜入したら、まず情報収集だ!」石川が指を立てる。「魔王の寝室の場所、警備の配置、魔王の弱点、全部調べろ!」

「スパイじゃん...」タクヤが呟く。

「そして、魔王が油断してる時を狙う! 寝てる時がベストだけど、風呂入ってる時とか、トイレ入ってる時とかでもいい!」

「魔王もトイレ行くの!?」千葉が素朴な疑問を投げかける。

「行くだろ! 生き物だもん!」石川が断言する。

「でも...暗殺って...」タクヤがまだ躊躇している。

「いいか、タクヤ!」石川がタクヤの両肩を掴んで真剣な目で見つめる。「お前が正面から戦って死んだら、誰が魔王を倒すんだ? 民は苦しみ続けるんだぞ?」

「それは...」

「でも、お前が暗殺に成功したら? 民は救われる! 平和が訪れる! お前は英雄だ!」

「暗殺して英雄って...」富山がボソッと呟く。

「手段がどうであれ、結果が全てだ! 歴史は勝者が作る!」石川が熱く語る。「魔王を倒した後、誰も暗殺のことなんて気にしないよ! みんな『勇者が魔王を倒した!』って喜ぶだけ!」

「...確かに」タクヤの目に光が戻り始める。

「あ、ヤバイ。説得されてる」富山が心配そうに見る。

「でもさ」タクヤが不安そうに言う。「俺、暗殺とかしたことないし...失敗したらどうすんの?」

「大丈夫!」石川がニカッと笑う。「失敗しても逃げればいい!」

「それじゃ意味ないでしょ!」タクヤがツッコむ。

「いやいや、一回失敗しても、また潜入すればいいじゃん! 『あの時は魔が差しました、すみません!』って言って!」

「許されるわけないでしょ!?」

「じゃあ変装しろ! 髪型変えて、ヒゲ生やして、声も変えて!」

「無理無理無理!」タクヤが頭を抱える。

「あとさ」石川が急に真面目な顔になる。「暗殺が無理なら、毒を使え」

「毒!?」タクヤが驚く。

「そう! 魔王の食事に毒を混ぜるんだ! お前、料理できる?」

「...まあ、農家だったから、一応」

「完璧じゃん! 魔王軍の料理人として潜入するんだよ!」石川が興奮して拳を握る。「で、魔王の食事を作る役になって、毒を混ぜる! 完璧!」

「それ、もはや勇者じゃなくて暗殺者じゃん...」富山がため息をつく。

「いいんだよ! 勝てば官軍!」石川が叫ぶ。

「石川さん、めっちゃ外道なこと教えてますよ!」千葉が笑いながらツッコむ。

「でもさ」タクヤが少し前向きになってきた。「毒って、効くのかな? 魔王だよ?」

「効く効く! 絶対効く!」石川が断言する。「どんなに強い生き物でも、体内から攻撃されたら弱い! これは生物の基本!」

「本当かなあ...」

「大丈夫! もし普通の毒が効かなくても、超強力な毒を使えばいい! 異世界なら、すごい毒草とか毒キノコとかあるだろ?」

「まあ、確かに...」タクヤが頷く。

「それを大量に混ぜるんだ! 魔王がガバッと食べて、『ぐああああ!』ってなる!」石川が演技する。

「ちょっと想像したら面白くなってきた...」タクヤが小さく笑う。

おお、笑った! 初めて笑った!

「だろ? 楽しいだろ?」石川がニコニコする。

「でも...やっぱり不安だなあ...」タクヤがまた暗くなる。

「待ってろ!」石川が急にテントに走る。

「何持ってくるの!?」富山が叫ぶ。

数秒後、石川がクーラーボックスを持って戻ってくる。

「これだ!」

石川が取り出したのは...おにぎり。ラップに包まれた、コンビニで買ったようなおにぎりだ。

「...おにぎり?」タクヤが首を傾げる。

「そう! このおにぎりを食べると、作戦成功率が上がるんだ!」石川が大真面目に言う。

「上がるわけないでしょ!」富山がツッコむ。

「いや、マジで! このおにぎり、俺の地元富山県の米で作ったやつなんだ! 富山の米は最高に美味いから、食べると元気が出る! 元気が出ると作戦成功率が上がる! 理論上完璧!」

「理論もクソもないでしょ!」富山がツッコむが、もう諦めている。

「タクヤ、食え!」石川がおにぎりを差し出す。

タクヤがおにぎりを受け取る。ラップを剥がす。中身は...鮭。普通の鮭おにぎりだ。

「...」タクヤがおにぎりを見つめる。

そして。

パクッ。

一口食べた。

「...!」タクヤの目が見開かれる。

「どう?」石川が期待の眼差し。

「...美味い」タクヤがポツリと言う。

「だろおおおお!」石川がガッツポーズ。

そしてタクヤは、もう一口、また一口と、どんどんおにぎりを食べ始めた。

むしゃむしゃむしゃ。がっつがっつがっつ。

すごい勢いだ。まるで数日何も食べてなかったかのように。

「うまい...うまいよこれ...」タクヤが涙目になりながら食べる。

「もう一個あるぞ!」石川が別のおにぎりを差し出す。

「マジで!?」タクヤが目を輝かせる。

梅干しおにぎり。タクヤはそれも一瞬で平らげる。

「もっとないの!?」タクヤが勢い込んで聞く。

「あるある!」石川がクーラーボックスから次々とおにぎりを取り出す。

昆布、ツナマヨ、明太子、おかか。タクヤはそれらを次々と食べていく。

「美味い! 美味すぎる! 異世界の食事、保存食ばっかりで不味かったんだよ!」タクヤが感動している。

「でしょでしょ! 日本の食事は最高だろ!」石川がドヤ顔。

「これ食べたら、なんか元気出てきた! やれる気がする!」タクヤが立ち上がる。その目には、先ほどまでの暗さがない。

「おお! 成功率上がってきてるじゃん!」石川が喜ぶ。

「わかった! 俺、やる! 魔王、暗殺する!」タクヤが拳を握りしめる。

「マジで!?」千葉が驚く。

「ちょっと待って! おにぎり食べただけで暗殺決意するの!?」富山が慌てる。

「うん! 石川さんの言う通りだよ! 正面から戦って負けるより、確実に勝てる方法を選ぶべきだ!」タクヤが力強く言う。「俺、魔王軍に潜入する! で、料理人になる! そして毒を盛る!」

「外道勇者の完成じゃん...」富山が呆然とする。

「俺さ、ずっと悩んでたんだ。なんで俺が戦わなきゃいけないのかって」タクヤが真剣な顔で語る。「でも、わかった。戦い方は自分で決めればいいんだ! 誰かに決められた方法じゃなくて、自分のやり方で!」

「そうだそうだ!」石川が拍手する。

「正面から戦うのが勇者? 違う! 結果を出すのが勇者だ!」タクヤが叫ぶ。「魔王を倒して平和をもたらす! それが俺の使命!」

「かっこいい!」千葉が感動している。

「かっこよくない! 内容が暗殺だから!」富山がツッコむ。

「石川さん!」タクヤが石川の手を握る。「ありがとう! 俺、目が覚めた! 勇気をもらった!」

「お、おう! 頑張れよ!」石川が握手を返す。

「魔王軍に潜入して、料理人になって、毒を盛る! 完璧な作戦だ!」タクヤが目を輝かせる。「あと、もし毒が効かなかったら、直接刺す! 寝てる時を狙って!」

「完全に暗殺者の思考じゃん...」富山がため息。

「じゃあ、俺戻るね!」タクヤが聖剣を握る。

「え、もう?」千葉が驚く。

「うん! 早く作戦実行したい! 仲間たちも待ってるし!」タクヤがニコニコしている。完全に別人だ。

「ちなみに、仲間たちには何て説明するの?」富山が聞く。

「『トイレ行ってた』でいいかな」タクヤがあっさり答える。

「どんだけ長いトイレだよ!」三人がツッコむ。

「じゃあ、行きます!」タクヤが剣を掲げる。「えーと...戻れ!」

すると、また魔法陣が光り始める。

「おお! 本当に戻れるんだ!」石川が感心する。

「ありがとう、みんな! 特に石川さん!」タクヤが笑顔で手を振る。「おにぎり美味かった! これで魔王倒せる!」

「頑張れよおおお!」石川が叫ぶ。

「暗殺勇者、タクヤ! 行ってきます!」

ドゴォォォォン!

光と共に、タクヤが消えた。

静寂。

しばらく三人は呆然と魔法陣を見つめていた。

周囲のキャンパーたちも唖然としている。「今の何?」「マジック?」「CG?」とざわざわしている。

「...行っちゃった」千葉がポツリと言う。

「行っちゃったね」石川が頷く。

「...ねえ」富山が二人を見る。その目は疲れ切っている。「なんでキャンプで外道勇者を育てたんだろ」

「外道じゃないよ! 勇気づけたんだよ!」石川が反論する。

「どう見ても暗殺者を育てたでしょ!」富山が叫ぶ。

「でもさ、タクヤさん、最後笑顔だったじゃん!」千葉が言う。「最初あんなに暗かったのに!」

「それはそうだけど...」富山が頭を抱える。「でも、内容が内容だからね...」

「いいじゃん! 元気になったんだから!」石川がニカニカする。

「石川の価値観、たまに怖いよ...」富山がため息を1:14吐く。

「ところで」千葉が真剣な顔で聞く。「タクヤさん、本当に成功するんですかね?」

「大丈夫大丈夫!」石川が親指を立てる。「おにぎりパワーがあるから!」

「あるわけないでしょ!」富山がツッコむ。

「でもまあ」石川が魔法陣を見ながら呟く。「タクヤ、いい目してたよな。最後」

「そうですね」千葉が頷く。「覚悟決めた顔してました」

「...まあね」富山も認める。「最初の根暗な感じとは全然違ってた」

「だろ? 俺たちのグレートなキャンプ、大成功じゃん!」石川が両手を広げる。

「成功の定義がおかしい気がするけど...」富山が苦笑する。

その時、隣のサイトのカップルが拍手しながら近づいてきた。

「すごかったです! あの演出、どうやったんですか!?」男性が興奮して聞く。

「え、演出?」石川が首を傾げる。

「そうです! 光る魔法陣と、人が消えるやつ! プロジェクションマッピングですか!?」女性が目を輝かせる。

「あ、ああ...まあ、そんな感じ?」石川が曖昧に笑う。

「すごい! YouTuberさんですか? 撮影してるんですか?」

「いやいや、ただのキャンプですよ」千葉が手を振る。

「でも、あのコスプレの人、演技上手でしたね! 最初の暗い感じから、最後の明るい感じへの変化、リアルでした!」

「ですよね!」石川が嬉しそうに答える。

「また撮影するんですか? 次も見たいです!」カップルが期待の眼差し。

「まあ...気が向いたら」石川が笑う。

カップルが去った後。

「...演出で済ませていいの?」富山が心配そうに聞く。

「いいんじゃない? 真実言っても信じないだろうし」石川がクーラーボックスを片付ける。

「確かに」千葉が頷く。「『本当に異世界から勇者を召喚しました』って言っても、『頭おかしい人』扱いされるだけですもんね」

「でしょ? だから黙っとこう」石川がニヤリと笑う。

「ところでさ」富山が魔法陣を見ながら言う。「また召喚できるの? この魔法陣」

「どうだろ? やってみる?」石川が目を輝かせる。

「やめて! 今日はもう十分!」富山が止める。

「じゃあ次のキャンプでやろうか!」

「次もやるの!?」富山が驚く。

「当たり前じゃん! 『俺達のグレートなキャンプ』はまだまだ続くんだから!」石川が拳を握る。

「次は誰召喚するんですか?」千葉が興味津々。

「うーん、魔法使いとか? エルフとか? ドラゴンとか?」石川が指を折って数える。

「ドラゴンは無理でしょ! サイズ的に!」富山がツッコむ。

「じゃあ小さいドラゴン!」

「それはもはやトカゲ!」

三人が笑い合う。

夜空には満天の星。焚き火の炎が揺らめく。魔法陣はまだ地面に残っている。

「...タクヤ、頑張れよ」石川が小さく呟く。

「成功するといいですね」千葉が星を見上げる。

「暗殺成功を祈るって、なんか複雑な気持ちだけどね...」富山が苦笑する。

「いいじゃん! 結果的に平和になるんだから!」石川が言う。

「まあ、そうだけど...」

その時、魔法陣がふわっと光った。

「え!?」三人が驚く。

光の中から、小さな紙切れがふわりと現れた。

「何!?」石川がそれを拾う。

そこには、下手くそな字で書かれていた。

『潜入成功しました! 料理人になれました! ありがとう! タクヤより』

「マジかああああ!」石川が叫ぶ。

「早い! 早すぎる!」千葉が驚く。

「というか、手紙送れるの!?」富山が呆れる。

「すげえ! タクヤ、やるじゃん!」石川が手紙を掲げる。

「でも、これからが本番ですよね」千葉が真剣な顔。

「うん。タクヤ、頑張れ」富山も祈るように呟く。

「よっしゃ! 今日のキャンプは大成功だ!」石川がガッツポーズ。「異世界から勇者を召喚して、勇気づけて、暗殺者に育てた!」

「最後おかしいいいい!」富山と千葉が同時にツッコむ。

その後も、三人は焚き火を囲みながら、タクヤの話で盛り上がった。

「タクヤさん、毒草見つけられるかな?」

「大丈夫でしょ! 農家出身だし!」

「でも異世界の植物だからわからなくない?」

「それもそうか...」

「失敗したらどうなるんだろう?」

「その時は...逃げるしかないね」

「逃げられるの!?」

「知らん!」

「無責任すぎる!」

ワイワイと笑い声が響く。

そして数時間後。

また魔法陣が光った。

「また!?」三人が飛び起きる。

新しい手紙。

『魔王の好物、調べました! 明日、特製料理を出します! ドキドキします! でも頑張ります! タクヤ』

「おおおお! 進展してる!」石川が興奮する。

「明日って...もう実行するの!?」富山が驚く。

「早い! タクヤさん、行動力ありますね!」千葉が感心する。

「頑張れタクヤああああ!」石川が夜空に向かって叫ぶ。

「声でかい!」周囲のキャンパーから苦情。

「すみませええええん!」

そして翌朝。

三人がテントから出ると、魔法陣の横に、またまた手紙が落ちていた。

「これは...!」石川が拾う。

手紙には、震える字で書かれていた。

『成功しました! 魔王、毒で倒れました! でも、とどめは仲間が刺しました! 俺、暗殺勇者にはなれませんでした! でも、魔王は倒れました! みんな大喜びです! 俺、英雄になりました! でも真実は墓場まで持っていきます! 本当にありがとう! おにぎり、最高でした! タクヤ』

「...やったああああああ!」石川が叫ぶ。

「成功したああああ!」千葉も叫ぶ。

「よかった...」富山がホッとする。

「でも結局、仲間がとどめ刺したんだ」石川が笑う。

「まあ、それでいいんじゃないですか」千葉が言う。「タクヤさんは毒で弱らせた。それも立派な貢献ですよ」

「そうだね。タクヤ、よく頑張った」富山が手紙を見つめる。

「おにぎりパワー、すげえ!」石川が拳を握る。

「そこ!?」二人がツッコむ。

そして三人は、手紙を大切に仕舞い込んだ。

「さて、撤収するか」石川がテントを畳み始める。

「次はどんなキャンプするんですか?」千葉が聞く。

「うーん...次は、妖精を召喚して環境保護について語り合うとか?」

「それは普通...いや、普通じゃないか」富山が苦笑する。

「じゃあ、ゴブリン召喚して焼肉パーティーとか!」

「ゴブリン食べるの!?」

「冗談だよ! 一緒に食べるの!」

「それもどうなの...」

ワイワイと笑いながら、三人は撤収作業を続ける。

魔法陣は地面に残ったまま。いつか消えるだろう。でも、この場所に確かに異世界との繋がりがあったという証。

そして、一人の根暗勇者が暗殺勇者(未遂)として生まれ変わった場所。

「俺達のグレートなキャンプ、最高!」石川が叫ぶ。

「次も楽しみですね!」千葉が笑う。

「...まあ、悪くなかったかな」富山も小さく笑う。

こうして、史上最もおかしなキャンプは幕を閉じた。

でも、彼らの冒険はまだまだ続く。

次はどんなグレートなキャンプが待っているのか。

それは、また次回のお楽しみ。

「よっしゃ、次のキャンプ場はどこにする!?」

「沖縄とか行きます?」

「いいね! 沖縄で竜宮城から浦島太郎召喚しようぜ!」

「それもう意味わかんないいいい!」

賑やかな声が朝のキャンプ場に響く。

彼らの旅は、まだまだ続く。

グレートに。

おわり

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『俺達のグレートなキャンプ219 異世界から勇者を召喚して勇気づけよう』 海山純平 @umiyama117

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