『九人(くにん)の食卓 〜お箸が足りません!〜』
春秋花壇
『九人の食卓』
『九人の食卓』
朝陽が差し込む
狭い廊下に
脱ぎ捨てられた
小さな靴下が三つ
洗面所の鏡には
三つの世代の顔
歯磨き粉の蓋が開いているだけで
今日も誰かが 小言を言う
カチリ、と鳴る
炊飯器の音
それはこの家の
静かな開戦の合図
「じいじ、お腹すいた!」
「パパ、ぼくのシャツは?」
飛び交う声は
昨日より 少しだけ賑やかだ
足りないのは
お箸だけじゃない
時間も
おかずも
ひとりになれる 静けさも
それでも
湯気の向こうに溢れている
誰かのための お節介と
急須から注がれる 熱いお茶
五十二歳の溜息を
七十五歳の背中が受け止め
二十九歳の迷いを
二歳の指先が ほどいていく
昭和の頑固と
令和の自由は
ひとつの鍋を囲み
言葉より先に 混ざり合う
「いただきます」
その声が九つ重なれば
昨日の喧嘩も
今日の隠し味に変わる
不揃いな椅子に座り
不揃いな夢を語りながら
私たちは今日を
お腹いっぱい 生きていく
明日もきっと
お箸は足りないけれど
この食卓のどこかに
あなたの居場所がある
幸せは
分け合うほどに
何度でも
おかわりしたくなる
やさしい味がする
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