誓いを祝いに代えて

路地猫みのる

01. ある花嫁の憂鬱

 新しい年を寿ぐ花火が、夜空に打ち上がる。

 ピカピカ、チラチラ……舞い落ちる火花を眺めながら、エリーニア王女は、ため息をついた。


 国王である父は、その後、広場で演説の予定がある。

 王妃である母は、王族を代表して貴族の新年夜会に出席し、次兄アルフェリムはそのエスコートをしている。

 長兄にして王太子であるオライアスは、年末に起こった問題の対応のため、執務室にこもって政務を執っている。


「こんなことでは、いけないわ」

 エリーニアのつぶやきを、傍らに立つ青年は聞き逃さなかった。

「愛しいエリー。どうして新しい年の始まりに、そんなに悲しい顔をしているんだい?」

 やわらかな声も、甘ったるい呼び名も。愛しい婚約者の存在は、エリーニアにとって喜ばしいものだ。

 だけれど。

 自分が嫁いだ後の、家族の関係を思うと、心安らかにはいられない。

「ねぇ、ジューク。私は、もうすぐあなたのお嫁さんになるわ。でも、あなたの家族になるからといって、お父様とお母様の娘であることをやめるつもりはないし、ずっとお兄様方の妹でいるつもりよ」

 ジュークと呼ばれた青年は頷いた。明るい薄茶色の髪に、色とりどりの花火が降り注ぐ。

「そうだね。君は、僕の家族の『家族』になる。僕は、君の家族の『家族』になる。大家族になるね」

「えぇ、そう、そのとおりよ」

 エリーニアは、ぎゅっとジュークの腕に抱きついた。

 もうすぐ失明するかもしれない……そう医師に宣告されても、彼の穏やかで優しい気質は変わらなかった。エリーニアは、そういう彼を愛しているのだ。


「でも、今夜を見て。みんな、お仕事、お仕事。このままでは、家族がバラバラになってしまうのではないかしら」

 国民的な行事も、誰かの誕生日も、公式行事。問題は日々起こるし、地方への視察など、王都を離れることもある。すべて大切なことだと分かってはいるが。

 朝餐ちょうさん会だけが、ほとんど唯一の家族の場となっている現状が、もどかしい。

 幼いエリーニアが、あの手この手で欠席をとがめるため続いている、はかない伝統である。エリーニアが降嫁したら、みな仕事を理由に欠席するかもしれない。

 特に、王太子オライアスと、第二王子アルフェリム。

 母親の違う男兄弟たちには、一種の緊張感がある。彼らに距離を取らせ、その隙間に入り込んで権力にあやかりたい、そういう連中は多いのだ。

 ジュークが、そっとエリーニアの肩を抱き寄せた。

「愛しいエリー。病める時も健やかなる時も……家族は、増えることはあっても、離れることはない」

 エリーニアは、ちょっと背伸びをして、婚約者の頬に口づけた。

「そうね、家族って、そういうものよね」


 夜空にチラチラと舞い落ちる花火は美しいが、その寿命は一瞬だ。

 一瞬の閃光より、細く長く続く明かりを人生の道しるべにしたい。


 エリーニアは、兄たちに宿題を出すことにした。

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