ディバクレイン

小野でん

第1話 プロローグ

 太陽系の中心に位置する恒星――太陽。


 光と熱によって地球を照らし、植物の光合成を生み、様々な生命を育んできた。自然の中で生きている人類にとって、生活に大きな恩恵を与えてくれる太陽を神の象徴として崇め、信仰の対象とされてきた。


 人々の精神的支柱として存在する太陽はこの日、いつもと異なる表情を見せる。


 太陽の左側面。そこに類を見ないほど巨大な黒点群が多数出現していたのだ。

 黒点の周囲で放たれるまばゆい輝き。黄白色の光が踊るように舞い上がる中、一際大きい爆発現象が起こった。


 太陽フレアである。


 今回は幸いにも地球に影響が無い方向での爆発だった。

 太陽の表面で起きた爆発現象。そこから放出された電磁波や高エネルギーの粒子は、そのまま宇宙の彼方に消えていく。


 しかし、忘れてはいけないのは太陽も自転しているということである。


 そして……。


 その巨大な黒点群が地球に向いた時。

 日本ではちょうど昼に差し掛かった頃であった。


 巨大な紅炎が轟々と不規則なリズムで立ち昇る中、蓄えられていた大量のエネルギーが一気に解き放たれる。


 その威力は水素爆弾30億個分。

 想像できる範囲をはるかに越えたその威力は数千年に1度の確率で発生するといわれるスーパーフレアだった。


 前兆は確かにあった。

 だが、仮に前兆に気付いたとしても次の爆発の発生時期について事前に知ることはできない。それに現在の科学技術力ではスーパーフレアそのものを防ぐことなど到底不可能なのである。


 人類が取れる手段。それは発生後の災害に備えることしかなかった。



 約8分後。

 スーパーフレアによって放出されたⅩ線などの強い電磁波が地球に到達。


 地球の上空にある電離圏が乱され、携帯電話は使用不能となり、薄型携帯カメラに成り変わる。


 インターネットやテレビなどは視聴できず、情報が途絶。同時に警察無線、消防無線、110番や119番を含むすべての通信が使用不能になる。

 更に電力会社では設備の誤作動により広域停電が各地で発生し、照明はもとより、冷蔵庫、エアコン、電子レンジなどの生活家電が使えなくなり、人々の不安や恐怖を更に煽る形となってしまった。


 また、電気の供給がなくなったことで鉄道やバスなどの多くの交通機関が運行を停止。各地で帰宅困難者が発生し、その数は数千万人にもおよぶ事態となり、文明社会は大混乱に陥ってしまったのだ。



 通信の復旧が見込めず、混乱が続いたまま夜が明けた次の日。

 正しい情報の不足により多くの人が不安を抱える状態の中、様々な噂が飛び交い始めた。


『電力の復旧は最低でも二ヶ月はかかるらしいぞ』

『連絡が取れないから食料等の救援物資はすぐには届かないんだって』

『自衛隊の派遣が決まったらしいけど、地方は後回しにされるみたいよ』


 拡散される色んな話。当然その中には事実も含まれていた。


『夜中に〇〇銀行のATMが壊されて、現金が盗まれたみたいよ』

『○○のコンビニや○○食料品店に強盗が押し入って食料が盗まれたらしい』


 監視カメラによる録画や、警察への連絡が不可能になった今、これを好機と判断した一部の愚かな者達により秩序が乱れ、治安が悪化。取り締まる側は災害に追われて人員が不足し、犯罪に対して後手後手に回って対応が遅れていた。そのため、犯人は捕まっておらず、無事逃げおおせている。


 一番厄介なのが嘘の中に本当のことが混ざることで、嘘が本当らしくなり嘘だと見破ることが難しいことであった。


○○人外国人は置いている荷物を奪い取って逃げるらしいから、もし○○人外国人を見かけたら気を付けろ』

『○○の避難所で痴漢行為があったみたいで、どうやら犯人は○○人外国人みたいよ』


 置き引きや痴漢行為は本当に起こったことだが、犯人が○○人外国人であるというのは事実ではなかった。

 一個人が差別的な感情を持っていなくても、周囲にそのような意識を持っている人がいるという事実を皆知っている。それが故に噂話を積極的に否定しづらくなり、どんどん噂が広まっていた。


 こうした虚偽の情報が負の感情を煽る中、埋もれてしまった事実があった。


『災害発生時にMMORPGにログイン中だった人達って、そのまま意識が戻ることなく死んだらしい』


 この地に残された生者は、この地を去った者達のその後を知らない。


 MMORPGにログイン中だった人達はスーパーフレアの影響で肉体という名の牢獄から精神が解き離れたということを。


 この地を去った者達は、自分達が置かれた状況を知らない。


 太陽フレアのエネルギーによって地球から何万光年と離れた世界に降り立つことになってしまったことを。


 この現象が太陽神の奇跡となるのか、あるいは呪いになってしまうのか、それは本人次第であろう。


 地球を照らす太陽は、今日も変わらず燦々と輝いていた。

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