第6話 戦士?

 痛い……苦しい……悔しい……。

 傷は腐り、毒が腹を蝕む。耳はちぎれ、視界はかすみ、鼻も効かぬ。

 なぜこうなった、我を喚んだのはお前たちだろう。

 なぜ我を追いやる。なぜ我から奪う。我はお前たちの望み通りにしていたというのに……。

 なぜ、なぜ、なぜ……。


 戻りたい。仲間たちのいる故郷へ。父よ、母よ、兄弟たちよ、今はどうしているのか。みなに会いたい。

 ここでは何も得られない、我が消えてしまう。この魂さえも。


 森を彷徨い、乾いて泥水をすすり、飢えて木の皮を食んだ。力は衰え、もはや走ることすらかなわぬ。これまでか――

 黒く染まっていく視界の中、大きく開いた口が見えた。無機質な生命を感じさせるその化け物は――


          ◇◆◇◆◇


「あんちゃん、本当に何もしてないんだよね?行商さんの話、覚えてるよね?」


「本当だって!通路が増えてからは何もやってなかったんだって!」


 ダンジョンが拡張してから5日。餌やりは止めている。

 俺としては少々物足りないながらも、毎日楽しく周っていたんだ。


 鉱石と木材はとりあえず溜め込むことにした。たぶん売れるんじゃないか?

 食べきれなくなった果物を乾燥させたり、取れたミルクを使って超絶うまいパン粥を作ってみたりと、俺たちの生活は豊かになりつつあった。


 そんなある日。いつも通りダンジョンにやってきたら突然成長していたわけだ。


「それじゃあ中を確認するが、ほんとに来るのか?最初の時と違ってちゃんと魔物がいるぞ?」


「確認しておきたいの。もしかしたら甘く考えてたのかもって」


「まぁ大丈夫だとは思うが、俺の前には出るなよ」


 覚悟を決めて入口をくぐる。

 中はもう坑道じゃなくて洞窟だ。人が4人並べるくらいの広さ。天井だって人間2人分くらいだ。朝一番で入った時は驚いてすぐに出てしまった。


「すごいね……どうやったらこんな風に変わるんだろう」


「もっと宝箱いっぱい開けてエネルギーを絞ればよかったのかなぁ」


 宝箱の使い道が無いんだよな。二人が食べて、保存食を作るくらいしか使い道がない。鉱石とか木や草がさっさと売れたらいいんだが。


「これはもう、公開した方がいいかもしれない。冒険者達を呼び込む段階に――」


「っ!――何か来るぞ!下がれ!」


 気配が迫る。軽快に地を蹴る音、荒い息遣い、獣の低い唸り声が響いた。

 目の前に現れたのは、三匹の灰色の狼だった。


『グルルル……』


「狼!?でかいな!」


「あ、あんちゃん……!」


 でかい。頭の高さは俺の胸くらいか?立ったら俺よりデカそうだ。

 ナイフみたいな牙を剥き、赤く濁った瞳がでぎらりと光っている。

 いきなりこんなのに出くわすなんてな。これまでとは違うって事か?誰が育ててやったと思ってやがる。これはお仕置きが必要だな。


「やだ……無理だよ、こんなの……死んじゃう……!」


 フレアが背中にしがみついて震えている。なんか昔もこんな事もあった気がするな。


「離せフレア、どうってこと無い。見てな」


 貰い物の小さなナイフを構えて一歩前に出た。こんなでかい魔物と戦うのは初めてなのに、恐怖はまったくなかった。


 狼の一匹が唸りながら低く構える。次の瞬間――


『ガルァッ!』


 ガッ!

 凄まじい勢いで地面を蹴り、灰色の弾丸が俺に向かって飛びかかってくる。

 フレアが悲鳴を上げるより早く、俺の体はすでに動いていた。


 狼の動きは低く素早い。屈んでも意味が無いし、飛んだり横に回避すればフレアが危険に晒される。

 狼の狙いも分からない。普通なら首か、連携を考えて足か、もしくは陽動か。考える暇も与えてくれない。


 だったらどうするか?簡単だ。

 狼が何かをする前にぶっ飛ばせばいいんだよ!


「オラァ!!」


 狼よりも更に早く、踏み込んだ足を軸にして蹴りを叩き込む!何度も何度も繰り返した、走りながらネズミを蹴り殺す一撃だ!


『ギャン!』


 鈍い衝撃音とともに狼の体が横に弾かれ、通路の壁に激突した。


「え……?」


 フレアの呆けた声が聞こえる。


 残る二匹が同時に動いた。

 左右から挟み撃ち、群れでの動きに慣れた連携。以前の俺なら絶望したかもしれない状況だ。


 だが――


 こちらから右の狼に距離を詰め、腰を沈めて下から跳ね上げるように右拳を突き上げて、顎を抉るように砕いた。

 伸びた体を捻りながら左足で地面を蹴り、寸前まで迫った左の狼の額を右拳で撃ち落として地面に縫い付ける。

 骨を砕く手応えと、柔らかいものを潰す嫌な音が響いた。同時に二匹とも煙となって消えていく。


「……は?」


 残った一匹――最初に壁に叩きつけられた狼が、よろよろと立ち上がる。

 その瞳に恐怖はない。こいつらに感情は無いんだろうか?まぁ、無い方がいいが。

 ゆっくりと歩み寄り、こちらを見上げる狼の首筋に軽くナイフの先を当てる。


「悪いな。一撃でやれなかった」


 出来るだけ痛みがないように、素早く深く切り裂いた。

 血飛沫が弧を描いて石床に落ちる前に、狼は煙となった。後には血も残らない。


 こんなものか。大分強くなったが、俺の成長のほうが早かったようだな。

 ダンジョンさんのこれからのご活躍を心よりお祈り申し上げます。


「……あんちゃん、いつの間に……そんなに強くなったの……?」


 フレアのお褒めの言葉……ではなく、下から睨みつけて問い詰める構えだ。


「特別なことをしたわけじゃないんだ。毎日走って、魔物を蹴飛ばしたり叩き潰したりして、ちょこちょこ殴られてたら……こうなってたんだよ」


「………」


「いや、ダンジョンを周り始めてから体の調子がいいなぁとは思ってたんだ。それがこの間の変化以来加速したっていうか、魔物と戦うことに慣れたっていうか……でもあんな大物は始めてだぞ?」


「……今はいいや。それよりあんちゃんが強いなら安心だね。奥を見に行こうよ」


「お、おう」


 なんだ?怒ってるのか?うーんそんな感じじゃないかな?よくわかんねぇな。

 フレアも強くなりたいとか?ナイナイ、トラルならまだ……あいつはブチ切れそうだな。


「行こうよ」


「あぁ。広くなってるが、とりあえず分かれ道になってたところがどうなってるかだな」


 今は気を引き締めて進もう。これはもう、紛れもないダンジョン探索なんだから。








――――――――――

かなり出遅れですが、一応カクヨムコンに出してます。

読者選考だけでも通りたいと思ってたりします。

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