俺は今日もパンを拾いにダンジョンへ通う
無職無能の自由人
第1話 俺のダンジョン
ガイン!ガイン!
僅かな灯りを頼りに、岩を砕く音が響く。
俺は今、村に内緒で一人で坑道を掘っている。
誰も俺の崇高な目標を理解出来なかったからだ。なんと愚かな奴らだ、俺が救ってやらねばならん。まったく仕方ねぇな。
そして俺は昨日も一昨日もその前も、今も無心で地を掘り続ける。
疲れた体に鞭を打ち、機械の様にピッケルを打ち下ろす。それは無限に続くかの様にも思えたが――
ガキィィン!!
「でででっ!でたぁぁぁぁぁ!!!」
突如!俺の目の前に現れたのは輝く黄金!僅かな灯りなど無視して自ら輝く魔法の鉱物!
暗い地の底!カンテラの暗い灯りしか無かった坑道全体が突如輝き出す!
俺のピッケルが掘り当てた黄金色の鉱物が未来までをも明るく照らす!その鉱物とは―――!
「ダンジョンエナジーだぁぁぁぁ!!!」
ダンジョンエナジー!それはダンジョンを生み出す謎の鉱物!掘り出せば勝手にダンジョン化するのだ!詳細は知らん!
「やったぞ!みんな驚くぞぉ!」
家では妹のフレアが俺の帰りを待っている!すぐに安心させてやろう!あんちゃんはやり遂げたぞ!
こぼれ落ちたダンジョンエナジーの欠片を拾い、全速で家に帰った。
「あんちゃん今日は早かったね。いい加減諦めて働きなよ、あたし恥ずかしくって…」
「フレア見ろ!ダンジョンエナジーだ!これで俺達は大金持ちになるんだ!」
「ニゼクお兄様!あたしずっとニゼクお兄様を信じてたよ!」
豪華な食事は無かったが、二人で思いっきり喜びあった。
そして3日後。坑道は立派なダンジョンに成長していた。
「うむ!これで村も安泰だな!」
「えぇぇ……、前に見たダンジョンと違うくない?入口が狭くて立って入れないし……」
「細かいことを気にするなフレア!さあ中を見てみるか。きっとお宝がいっぱいだぞ!」
フレアが強く言うので、村のみなに伝える前に二人で探索することにした。
心配性な奴だ、あんちゃんに任せておけば大丈夫なのにな。
◇◆◇◆◇
入口は狭くて、二人で横になる幅も無い。俺が前になり、屈んで入口をくぐった。
フレアも同じく、ため息をつきながら後ろからついてくる。
「…あんちゃん、これ本当にダンジョンなの?」
「決まってるだろ。ほら、壁が硬い岩になってるぞ」
中は少しだけ広くなっていて、ようやく背筋を伸ばせた。
天井は低めだけど、立って歩けるくらいの高さはある。
一本道の坑道に見えるが、カンテラも無いのに全体が明るい。間違いなくダンジョンだ。
「すげぇ! 本物のダンジョンだぞフレア!」
俺は拳を握りしめて喜んだが、フレアは顔をしかめて天井を見上げた。
「…狭すぎ。これ、立って歩くのがせいぜいだよ? 冒険者さん来ても帰っちゃうんじゃない?」
「何言ってるんだ、ダンジョンは遊びに来るところじゃないんだぞ」
冒険者とはダンジョンや秘境を冒険する者達だ。このダンジョンに彼らを吸い寄せて、村に活気を呼び込むのが俺の目的である。
ではなぜ冒険者はダンジョンに潜るのか?ダンジョンにはそれだけの魅力があるのだ。
「先に進もう。宝箱を探すんだ」
「探すほど広くないけどね」
狭い一本道を進む。
俺が10日ほど一人で掘っただけの坑道とほとんど変わってない。
だが土だった壁は、今は全面ごつごつした岩に変わっていた。
触るとひんやりして気持ちいい。ダンジョンは生きてるって言う人もいるよな、じゃあこれはダンジョンの肌か?触りまくったら悪いかなぁ。
ワクワクしながら少し進むと――あった。
「宝箱だ!」
「やった!お金になるものお願いします!」
古びた木の箱に鉄の留め具。
ダンジョンと言えば宝箱だろ!
何故こんなものが発生するのか、なんか色々言われているらしい。
だがそんな物は知るか。ダンジョンには宝箱がある。それだけ分かればいいんだよ。
「開けるぞ!」
俺は我慢できず、勢いよく蓋を開けた。
大きな箱の中には……ぽつんと置かれたパン。
「おぉ……!」
「へ?」
手に取ったそれはほんのり温かくて、フカフカの感触が伝わってくる。
思わずちぎって一口かじった。
「ちょっ!?危ないって!」
柔らかくて、ほんのり甘くて、
腹の底から力が湧いてくるような美味さだった。
「フレア! 食え食え! すげぇうめぇぞ!」
「えぇぇ?大丈夫なのかなぁ……」
妹に半分押し付ける。
フレアは半信半疑でかじって目を丸くした。
「……うそ、めっちゃ美味しい……」
二人でしばらく、ほの明るい通路の真ん中でパンをむさぼった。
幸せだった。
「いいダンジョンだな!」
「いや駄目でしょ、パン一つって。まぁ、とにかく進んでみようよ」
奥へ進むとすぐに突き当たりに辿り着いた。やっぱり浅い、俺が掘った時間を考えたら当然だ。拡張はされてないようだな。
そしてそこにいたのは――スライムが一匹。
村の外を歩いてたらたまに見かける、子供でも倒せる最弱の魔物。
ぷるぷる震えて、こっちを見上げている。
二人で顔を見合わせて、同時に右足を上げた。
べちゃっ
スライムはあっさり潰れて、くたりとただの水たまりみたいになってしまった。
他に魔物は居ない。他の道も無いし、宝箱も無い。つまり終わりだ。
「……うん」
「うんってなんだよ……」
「まぁ……こんなもんだよ。あんちゃん、落ち込まないで。ダンジョンが簡単に出来るならそこら中ダンジョンだらけになっちゃうよ」
妹に慰められて、俺たちは一旦家に引き返した。
ダンジョンエナジーを掘り当てた時、俺は本気で思っていたんだ。
このダンジョンを目玉にすれば、村に人が来る。
店を出したり、宿屋をやったり、掘り出したもので取引も増える。
みんな笑顔になって、村が賑わう。
俺は……この村を救えたんだって。
もう掘りたくても、ダンジョンの壁は硬い岩になって跳ね返される。
これ以上、何もできない。
家に帰っても力が抜けて何もやりたくなくなってしまった。だがいつまでも腑抜けてはいられない、明日からはまた畑に力を入れないとな。
ふと、あの時食べたパンが頭に浮かぶ。
あれはよかった。美味しくて、食べると活力が湧いてくる感じがした。
フレアを見ると、あいつも落ち込んでいるようだ。
馬鹿な俺みたいに簡単に信じたわけじゃないんだろうけど、希望を見せちゃったもんな。
俺なんかよりも、あいつに元気になってもらいたい。
「……もう一回、行ってみるか」
俺は一人、再びダンジョンへ向かった。もしかしたら宝箱が復活しているかもしれない。
ダンジョンに宝箱は……あった。
でも、さっきあった場所とは少し違う。そう言えば宝箱の場所はランダムなんだったか。どうせなら数もランダムだとよかったんだが……。
思いながら開けると――今度は果物。
拳サイズの赤い実が三つ。アグーの実だ。秋頃に実る果実なんだけど、今は春だ。何でもありなんだろうか。
「場所も、中身も……変わるのか」
興味が湧いた。
一番奥まで行って、スライムをまた踏み潰して、外に出る。
手元には果物が一つだけ。まだ足りない。
三度目。
すぐに入り直したのに、宝箱は再び置かれていた。今度は小さなパン一個。
ちっちゃいけど、ちゃんと焼きたての匂いがした。
俺は通路に座り込んで、じっとパンを眺めた。
たったこれだけ。
金貨も魔法の剣も、強い魔物も、冒険も、何もない。
ただ少しの食い物。
それでも――
何度も入れば、何度も宝箱が出てくる。
一日五回でも入れば、飢えることはない。
少なくとも、俺とフレアは生きていける。
このダンジョンは……無意味じゃない。きっと役に立つはずだ。
「十分だ。100回でも1000回でも繰り返してやろうじゃねぇか」
ここからが、このダンジョンの物語の本当の始まりだった。
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