婚約者を寝取られた姉が真の聖女だった!? ~祖国の人たちが戻ってきてと言ってももう遅い!~

mimiaizu

第1話 聖女伝説

ジュンメウキ王国とバッファロード王国。両国の間には数百年前から語り継がれる聖女伝説があった。


聖女が守護天使ビトールを召喚し、大悪霊アポルターガイストをショーツカ大森林の奥地に封印して世界を救ったという伝説。封印された場所は祠として、厳重に封印を守られるようになった。


聖女伝説は信仰にもなっており、両国は聖女を重視し聖属性の魔力を持つ女性を聖女候補とする慣例があった。


しかし、聖属性の魔力を持つ女性は滅多に確認できないということもあって、聖女が不在ということもよくあった。


聖女探しが優先されて、封印の祠の守りも疎かにされる。


最早、聖属性の魔力を持つ女性を確認したらすぐに聖女認定という形に変わってしまった。


身分や性格などを一切考慮しないで、見つければすぐに聖女に決まる。後先考えることもなく。


少なくとも、ジュンメウキ王国はそうなってしまった。


聖女伝説の弊害……一人の公爵令嬢はそのように思った。





黒目で緑色のウェーブの掛かった長い髪、人形のように整った顔を併せ持つ、類まれな美少女。それが彼女、ジュンメウキ王国の公爵令嬢シシラ・アリゲイタ。



「はぁ……」



今日も彼女はため息を吐く。その理由は、目の前にあるテーブルの上の課題の山。これを置いたのは妹の侍女をしている者だった。



「アビスお嬢様からの伝言です。『明日提出するから』……というわけでお願いしますね」


「……了解」



公爵家に仕える侍女とは思えないほど素っ気ない態度で言い放ち、返事も聞かないで去っていく。咎められてもおかしくない言動だが、シシラはもう気にしない。言っても無駄なほどシシラの立場は低いのだから。



「これほどの量を明日までに……アビス……」



シシラは課題の山を睨みつけた。どう考えても、令嬢が一人で一日で終わらせられる量ではない。しかし、このような状況はもはや日常茶飯事であり、シシラはすぐに気持ちを切り替えることにした。



「仕方ないわね。今日も徹夜か。全く、あの子ったら……」



徹夜で課題に取り組むことすら、もはや慣れてしまっている。それほどまでに、シシラの立場は弱い。妹であり、聖女でもあるアビス・アリゲイタと比べれば。





シシラの妹アビス。シシラの実母が亡くなった後に父が再婚してできた義母との間に生まれた娘であり、見た目は可愛くて華奢な少女だ。ただ、性格は非常にわがままで自己中心的な性格だった。それというのもアビスが聖女に選ばれたことが要因なのだ。



聖女になる前のアビスはシシラと同じように『公爵令嬢』として生まれ育てられた。ただ、義母と父はアビスのことを溺愛していたとシシラは見ている。そんなアビスへの溺愛がより大きくなったのは、アビスの魔力検査の時のこと。アビスの魔力が聖属性だということが判明したのだ。



魔力の属性において聖属性とは光属性の上位互換であり、極めて稀有な聖女の魔法が使える。更に、一国に数十年に一人か二人しか現れたことがない。そのため、発見されれば確実に聖女認定されることになる。当然、アビスはその様になったということだ。



アビスが聖女に認定されてから両親の溺愛具合は酷くなり、何でもわがままを聞いた。花よ蝶よと甘やかす、そのせいかアビスの性格はとても我儘になった。というか確実に溺愛が原因だろう。聖女という特別な立場を自覚してからは姉や周りを見下すようになるまで時間はかからなかった。



アビスが溺愛される一方で、シシラは公爵家で立場が無かった。妹のアビスが聖属性に対してシシラの魔力属性は光属性。十分に希少な魔力属性なのだが、アビスに比べてシシラの魔力量の方が少なくいため、シシラが魔法で活躍する機会は無いとされ公爵家では蔑まされる立場になってしまったのだ。



そんな立場のシシラは、妹のアビスが面倒に思ったことを何でもかんでも押し付けるようになった。学園の課題や与えられた聖女の仕事まで、アビスの仕事の殆どはシシラに丸投げされる状態だった。本来ならば許されることではないのだが、アビスが聖女だからということで、両親にも妹にも反論すれば折檻される。



シシラは理不尽な折檻を受け続けるようになってから、家族に愛を求めるのを諦めた。だからといって、婚約者に愛を求めたりはしない。シシラには公爵令嬢として婚約者が決まっていたのだが、光属性とはいえ魔力量が少ないことに不満を抱かれて仲良く慣れず、挙げ句にはアビスと堂々浮気されているのだ。この国の王子にだ。



「最悪な家……最悪な国に生まれた……自分の運命が呪わしいわ……」



シシラの精神は何もかも諦めてしまった。国単位で。


それでいて、自由になることを密かに願っていた。

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