美形すぎる第一王子に溺愛されています~まさか婚約破棄してきた第二王子がざまぁ展開になるなんて~
犬塚あゆむ
婚約破棄~からの~
侯爵家の三女に生まれた私、マリッサ・デインは特に何の不自由もなく生きてきた。
そう、今、こんな事が起こるまでは……。
「君とは婚約破棄させてもらう」
私の婚約者は第二王子ライリー・グレイレイク様。ライリー様のお誕生日パーティーの事、その傍らには私の知らない大人しそうな女性が寄り添っていた。
――ああ、そういう事。
ショックだった、動けなかった、声が出なかった。
腹が立った、殴ってしまいたかった、大声で罵倒してやりたかった。
でも、何とか出たのは小さな声だった。
「どうして……ですか……」
「俺はこのセピア・アーンを愛している」
「私が……何をしたというのでしょう……こんな仕打ち……」
「お前は目つきが悪い、俺の事をいつも睨んでいるようで気分が悪いんだ!!」
え、なんですの、その子どものような答えは。五歳の頃婚約してずっとずっとこの人と結婚するんだ、幸せになるんだ……そう思っていましたがよく考えたら……
――この人の好きな所を一つも言えないわ!!
「では、婚約破棄の件承知いたしました。お幸せに、ライリー様」
「おい!! お前!! マリッサ!!」
受け入れてあげたのにまだ何があるというのだろう……ハッとした私は最高のお辞儀を披露してから振り返って歩き出した。そう、私の人生はここからなんじゃないかと思うほどに晴れやかな気持ちだったのだ。扉を開いて外へ出た瞬間口から出てきた言葉……
「ヤッターーー!! あんな腹黒王子大っ嫌いーーー!!」
言ってやった!! フフッ。
「ぶふっ!! クッ、アハハハハハッ!!」
あ、き、聞かれた!! 誰!?
「いや、先程の弟の事謝りたいと思ってね。それにしても……クスクス」
私は血の気が引いた。第一王子リュディガー・グレイレイク様だ。
リュディガー様は温厚で優しく顔も凄まじく良く色気も、まさに魔性の王子。一部では『ときめき王子』だなんて言われている。そんな王子に見られるなんて、弟の王子の悪口を言っているところを……終わった?? 私の人生はさっき始まったばかりなのに。
「いや、君いいね。マリッサ」
「名前を……」
「そりゃあ知っているよ。弟の、腹黒王子の婚約者”だった”んだからね」
いやぁぁぁ!!
「それで、君に話があるんだけれど」
さようなら私の幸せ。
「はい、リュディガー様」
冷汗が……温厚な方ほど怒ると怖いと聞いた事がある。どなられる?? 叩かれる?? まさか処刑!? ドレスを握る手が汗で湿っていく。リュディガー様から目が離せない。
え、何、リュディガー様が膝まづいて私の手を取る。何がはじま――――
「マリッサ・デイン嬢、僕と婚約してはくれませんか」
え?? は??
「い、いやですわ、リュディガー様ったら御冗談を……冗談……です……よね」
「こんな失礼な冗談を女性に言う訳ないだろう」
立ち上がってニコッと笑ったリュディガー様の美しさにまた言葉が出ない。
「マリッサお嬢様」
迎えに来た使用人の声でやっと動けるようになった。
「使用人が失礼しました。リュディガー様、ではまた」
「返事がまだだが……」
「まぁ、本当に……ではリュディガー様が本気だと分からせて下さい。御冗談ならこのまま無視してもらって構いませんわ」
「うーん。そうか、分かった」
うっ、その笑顔、本当にずるいですわ。
「では今度こそ本当に失礼いたします」
「マリッサ」
名前を呼ばれ、手を引かれて、髪に口付けされた……。
「じゃあマリッサ、おやすみ」
「……おやすみなさい」
何……何だったの。もう婚約破棄の事とか頭から吹っ飛んだわ。というかあの女誰?? 本当に。まぁいいか私にはもう関係のない事だし。
リュディガー様は本当に馬鹿みたいに女性から人気がある、そりゃあ第一王子だし……とも思うけれどそんなレベルではない。なのに……婚約者が出来た事がない。王族、貴族の婚約は愛だの恋だのは関係ない事が多い、いや、ほとんどがそうでしょう。なのに……何故それが許されているんだろう。まぁそういう事もあって私にあんな事言うはずないのだ。
と、完全に冗談だと思っていたのだけれど……
「おはよう、マリッサ」
「えーと……おはようございますリュディガー様……何か??」
三週間後、突然リュディガー様がデイン家に来たのだ。私は慌ててメイド達に朝の準備をしてもらって今、ここにいる。
「遊びに行こう、マリッサ」
「は……」
「ぷっ、くくくっ、本当に面白い反応をするよね君は」
「はぁ……今日もお美しいですねリュディガー様」
「あははっ!! 何だい急に」
「いえ、別に……」
「僕が遊びに誘うのは実は初めてなんだ。だから緊張しているんだよ??」
「へ……緊張、ですか??」
「ああ、そうなんだ。だから早く『イエス』が欲しい」
嘘でしょう……あ、でもこの方なら向こうから誘ってくるから自分からは誘ったことがないって事かしら。それならありえるのかしら。
「違うよ」
心読まれた!!
「ではどうして今、私をお誘いに??」
「君が言ったんじゃないかマリッサ」
「え、何をでしょう」
「僕の気持ちを分からせろ、と」
「あ、えっと、あー……」
言った、確かに言ったわ!! だって本当にこんな事になるなんて思わないじゃない。でも……少し面白い。ライリー様とはお庭を散歩する程度の事しかしたことがない……何を、何処へ行くんだろう。
「分かりましたわ。そのお誘いお受けしますわ、リュディガー様」
「本当か!? ありがとうマリッサ」
ううっ!! 駄目です、この笑顔に慣れる日はくるのでしょうか。
「では今日は僕と一緒に街に出よう」
「街……いっ、行きたいです!!」
前のめりになった私を見てまたリュディガー様はクスクス笑っていた。
「何がそんなにおかしいんですかぁ~」
馬車へ乗りながらまだ笑っているリュディガー様にむくれて言う。
「気にしなくていい。マリッサは可愛いなと思っただけだ」
「かっ、かわっ」
焦ったのと馬車が動き出したことで椅子から転がり落ちそうになったところ、リュディガー様が優しく抱えてくれた。
「いっ、あっ、ああー……すみませんっ!!」
すぐに離れようとしたのにリュディガー様が離してくれない。彼は一体私をどうしたいのだろう。
「あのー、リュディガー様??」
「ああ、これはすまない。あまりに愛らしくて離したくなくなっただけだ」
だけ!? だけ、ですって!? この人どうして急にそんな事ばかり言うのよー!!
座りなおした私の脳内は混乱していた。訳が分からないのよ。だってあの日までリュディガー様との関わりなんてほとんどなかったもの。
「どうしてって顔しているね」
怖い!! どうしてバレるのよ。
「それは……そう思うでしょう」
「ハハッ、それもそうだな。話そうか」
「是非!! お聞かせ下さい」
ふっと笑ったリュディガー様の表情がより柔らかくなる。
「僕はねマリッサ、君の事がずっと昔から……そうだな、子どもの頃から好きだったんだよ」
アレ、何、告白されている?? いやいやいや。
「どうして婚約者をつくらなかったと思う??」
「……分かりませんが……女性嫌いなのかと」
「あははっ!! そんな事はないよ」
「そうなんですか、では何故」
「君の事が好きだからだよ」
また言った!!
「何故ですか、からかわれているんでしょうか」
「昔、君に言われたんだよ……「リュディガー様はとても男らしいですね」って」
「そんな……事で??」
「そんな事ではない。その頃の僕は女の子のようだとずっと言われていてとても落ち込んでいたんだ」
「そうだったんですね。女の子のようって嫌だったんですか??」
「それはそうだよ、まだ幼かったし僕は男なのに可愛い可愛いと言われて正直自信をなくしていた」
「でも君に出会った……あの時あの瞬間、恋をしたんだ。でもマリッサが弟の婚約者だと知っていたからね、だからどこかの御令嬢と婚約しようと思ったんだけれど……無理だったんだ」
「第一王子であるリュディガー様が婚約しないのは問題になっているのでは??」
「もうできるから問題ない」
「え??」
「マリッサ、ずっと僕の傍にいて欲しい」
ひぃぃっ、そんな美しい顔で綺麗な声で何を言うんですか!!
「でも私どうしてそんな事を……??」
「剣を振っていたんだ。いつもは似合わないとか言われていて剣の練習などやめてしまおうかとも思っていた」
「そうだったんですね……でも……本当に格好良かったんだと思います」
「ありがとう、マリッサ。愚弟のお陰で気持ちを伝えることが出来た。アイツは馬鹿だな」
「そんな……ありがとう、ございます」
そんな風に言ってもらえて心が熱くなった。やっぱり私傷付いていたのね……。
■ ■ ■
「私、幸せになるって決めたんです。あのライリー様に婚約破棄をされた時に」
何度目かの婚約をリュディガー様から申し込まれた時私は勇気を出して言ったのだ。キョトンとした顔をした彼はまたおかしそうに笑う。
「もうっ、笑わないで下さいっ」
「いや、すまない」
「別に……もういいですけれど」
「だが何を言っている?? 僕はマリッサを世界一、幸せにする為に傍にいたいと言っている」
「なっ!? うう~……」
「ククッ、本当に可愛いな、マリッサ」
「もう!! リュディガー様!!」
「悪い悪い、だが本当の事だ」
よし、決めましたわ!!
「では、よろしくお願いします」
「……何がだ??」
「何って!!」
天然なんですの!?
「あ、そ、そうか。もしかして僕の婚約者に……!?」
「ええ、そうですわ」
「やった!! マリッサ!! 本当にありがとう」
笑いながらソファーに座っている私を後ろから抱き締める。私……ライリー様の事で怖くなっていたのかもしれないわね。受け入れられまで時間がかかってしまった。けれどリュディガー様は信じてくれていた。愛してくれた、ずっと気持ちを伝え続けてくれた……。
「こんな私を選んでくれて……リュディガー様、ありがとうございます」
「僕の婚約者を『こんな』とは何だ。こんなに素敵な女性はこの世にマリッサ、君以外存在しない」
「なっ!? 褒めすぎですわ……」
「そんな事あるものか!! ああ、嬉しすぎるこの胸の高鳴りをどう表現したものか」
こんなに喜んでくれるなんて……私は本当に幸せになれるのよね……嬉しいわ。
「一月後、婚約を発表するパーティ―を開こう」
「早くありませんか??」
「全然早くなんてないよ、明日でもいいくらいだ!!」
「明日って、クスッ」
「ああ、君の本当の笑顔はそういうのなんだな。本当に愛らしい。可愛くて誰にも見せたくなくなってきたからパーティーはやめておこうか……」
「もう!! また御冗談を」
「パーティーをやめようという所だけは冗談だが」
二人で目を合わせてから一緒に笑った。こんな穏やかな気持ち、久しぶり。この人、リュディガー様とならきっとずっとこんな気持ちでいられるのだろうと確信した時だった。
「私、その、リュディガー様の事……愛していますわ」
「マリッサ……僕ももちろん愛しているよ」
楽しみが待っていると日々が過ぎていくのがとても早く感じる。今日は婚約発表の日……ああ、早く会いたい、リュディガー様。
城に着くと思わずあの日を思い出した、あの忌々しい婚約破棄を。惨めな気持ちを。
「ああー、やっぱりいくら今が幸せでも腹は立つものね……」
「そうなのかい?? 僕のお姫様」
「リュッ、リュディガー様!! すみません」
「謝る事はない、今は幸せだと思ってくれているのだろう」
「それは、もちろんですわ」
「許さない!! 許さないわよ!!」
突然背後から怒声が聞こえて反射的にその声の方へ振り返る。
「あなた……」
リュディガー様が私を守るようにその声の主の前に立ちふさがった。
「許さないわよ!! リュディガー様との婚約なんて!!」
「リュディガー様?? どういう事ですの??」
「分からないよ、弟の婚約者セピア・アーンという事しか……」
「やっぱりそうですよね……ライリー様の婚約者であるあなたが何を言っているの??」
「君に許してもらわなくても別に関係ないんだけれど。僕とマリッサは愛し合っている、それが全てだろう」
「当然ですわね」
「うるさい!! うるさいうるさい!! リュディガー様と一緒になるのは私なの!!」
興奮しているライリー様の婚約者が何を言っているのか全く分からない……。
「おい!! どうして君が兄上と一緒になるだなんて言っているんだ!? 君は僕の婚約者だろう!?」
あ、婚約者様登場ですわね。でもこの状況……どうするおつもりなのかしら??
「マリッサ!! お前が何か言ったのか!?」
「おい、例え弟でもマリッサに危害を加えたりなんかしたら……殺すぞ」
「ヒッ……す、すみません兄上」
「分かればいい」
こんなに怖いリュディガー様見た事ないわね。
「私を無視するな!! リュディガー様、リュディガー様、私の事を愛していたのではないのですか??」
「どうしてそう思った?? 何故僕が君を愛する?? 分からないな」
「だって、あんなにお優しくしてくれたではないですか!! 私を愛してくれたからでしょう!?」
「さぁ、分からないな。僕の特別はいつだってマリッサだけだ」
「俺の婚約者だろう、セピア、君は!!」
なんて醜い……女もライリー様も……。本当に……ざまぁですわ!! 笑いをこらえるのに苦労しますわ。
「笑ってもいいんだぞ、マリッサ」
「あら、リュディガー様は何でもお見通しなのですわね」
「マリッサの事ならね、ははっ」
こんな騒ぎになってこの二人が結婚するとは思えない。破局、いいえ、破滅ですわね。
「リュディガー様、愛しています」
「マリッサ、愛しているよ。ずっと僕の傍に……」
「ええ、もちろんですわ!!」
「折角のパーティーなのにこんな事になってすまない」
「謝らないで下さい……私はとっても幸せですわっ!!」
美形すぎる第一王子に溺愛されています~まさか婚約破棄してきた第二王子がざまぁ展開になるなんて~ 犬塚あゆむ @ayumu-inutsuka
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