神秘探偵の眼

花道優曇華

第1話「資産家の裏①」

天変地異とは宇宙より飛来した未知の隕石の数々による大地の破壊。隕石を研究

するうちに発見された細胞は神性細胞と名付けられ、生物に移植すると特殊な力に

覚醒することが分かった。これによってあちこちから孤児や育児放棄された子ども、

自ら志願した人間を多数集めて、人間に細胞を移植すると言う人体実験が各国で

開始された。そんな能力者、適応者たちを戦力にして三度目の世界大戦が起こった。

天変地異と戦争によって、かつての平和は形だけのものになっている。戦争や

そんな天変地異などは歴史であり、身をもって知る人間などほとんどいないのが

現代だ。人種を問わず人が集合し、作られた新たな都市ラプラスにて全ての物語が

進められる。ラプラスのセントラルエリアは特に発展しており、様々な重要機関や

建造物が集結している。


「鬼の絵…」


豪邸に招かれた二人組。探偵チーム、オディール・オデット。白と黒の二対の白鳥が

合わさった紋章を掲げる探偵。神秘探偵と呼ばれる凄腕に高い報酬を出した豪邸の

持ち主は資産家の一族である。一族の祖先が大戦のあとに復興のため、多額の

出資を行ったことで今も尚、地位を築いており、大富豪になっている。

伊集院家に突き付けられた殺害予告。最近、ニュースでも取り上げられる集団、

彼らが起こした事件現場には必ず鬼の絵がある。集団の名を鬼神衆。最初こそ

ただの不良チームとして扱われていたが徐々に引き起こす事件の規模が大きくなり、

調べるうちに背後にもっと大きな組織の陰があることが分かった。


「君が探偵かね」

「はい。弥勒院沙羅と申します。こちら、私の助手の火燈ひとぼし かがりです」


左右で異なる色の瞳、オッドアイは非常に珍しい。義眼であるとも知らず、伊集院家

当主は彼女に対して失礼なことを考えていた。

欠損や傷物では無いし、オッドアイは珍しくて高値が付く。年も若い、顔も良くてスタイルも悪くない。これぐらいの年齢を好む客も多いし、上手くいけば相場より

高く売り飛ばせる。探偵を名乗るだけの頭脳もあるのだから、入って来る金は―。


「―引き受ける事は前提で、警察や、それこそ政府に要請できるのでは?伊集院家は

それだけの力を持っていると記憶していますが」


手に入るだろう大金に思いを馳せていた男は我に返った。伊集院善治、当主たる

彼は一つ咳払いをしてから話し出す。


「大事にしたくないのだよ。国の組織を動かせば、騒ぎが大きくなる。家の名に傷を

付けたくなくてね」


あくまでも家を守るためという建前を押し通す。本心は我欲塗れな思想だ。分かる

はずが無い。徹底的に証拠は隠しているし、いざとなれば揉み消すだけだ。これまで

だって上手くやって来た。そうやって彼は周囲の人間全てを侮って来た。張り付けた

笑みを彼は疑わなかった。全てが見透かされている事に気付かない。


「私には仕事がある。私の使用人が案内してくれるぞ」


老執事が部屋に入って来た。使用人兼ボディーガードの男、元・皇国軍陸軍大佐

眼龍がんりゅう 鋭一えいいち。退役した後、伊集院善治がスカウトして今に至る。彼と共に屋敷内を

見て回る。


「凄いですね。軍人さんだったんですか」

「えぇ、自慢ではありませんが大佐まで昇進しました。貴方の助手も一般の仕事に

就いていたわけでは無いでしょう」


的を射ている言葉に沙羅は目を丸くするが、当の本人である篝は全く表情が

動いていない。これまで彼が大きく感情を表に出す瞬間を見たことが無い。今回も

彼の表情が動くことは無かった。それを見て、鋭一は確信したようだ。


「…ふむ、あまり人の心の内に踏み込むのは良く無いか」


通された中庭。細かな部分まで手入れの行き届いた青い草原に赤い鬼が描かれ

美観を損なっている。この絵を伊集院善治と眼龍鋭一は犯罪の予告として捉え、

依頼をしたようだ。沙羅は青い瞳を閉じて、ジッと現場を見つめる。やがて彼女は

口を開いた。


「貴方ほどのボディーガードならば、鬼神衆のチンピラなど敵では無いのでは?」

「買い被り過ぎですよ。奴らには頭領と呼ばれる指導者がいる。たった一回ですが

かつての仲間がその頭領と鉢合わせし、そして殺された」


共に軍人として働き、戦場を生き抜いた仲間。鋭一の齢は六十手前。それでも彼の

実力は衰えていない。長きにわたって培った戦闘経験がより一層、彼を強く

しているのだろう。それは彼の仲間も同じ事。国軍士官学校の筆頭教官を務める

人間がそう簡単に負けるはずが無い。そんな男が頭領と呼ばれる人物と鉢合わせし

死んだのだ。


「復讐とか、考えてますか」

「今の私は伊集院善治の従者。それだけですので」


その事件現場にも例に漏れず、鬼の絵が描かれていたという。調べれば当時の情報も

分かりそうだ。案内された客室は広々としており、ベッドも二つ容易されていた。

ここで寝泊まりしても良いそうだ。鋭一以外にも従者は複数存在し、食事等の準備を

進める。屋敷を一通り見て回っただけ。それだけでも多くの情報を手に入れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神秘探偵の眼 花道優曇華 @snow1comer

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ