氷菓

ヒマツブシ

氷菓

 冬に食べるアイスが好きだ。

 特に、氷菓と呼ばれるような、かき氷を固めたタイプのものがいい。


 肌で寒さを感じながら、外でそれに齧り付くと、冬を丸ごと食べているような気分になる。


 冬は嫌いだ。

 この時期には、よくないことが起こる。


 去年は実家の猫が死んだ。

 その前は祖母も亡くなった。

 子供の頃、親父がいなくなったのもこの時期だ。


 寒さに負けて家の中に閉じこもっていると、嫌なことばかり思い出してしまう。

 だから、どんなに寒くても外に出るようにしている。


 人混みも嫌いだ。

 幸せそうな顔。自分とは程遠い世界の住人たち。

 なるべく人混みを避け、薄暗い住宅地の隙間を通り抜ける。


 途中のコンビニでアイスを買う。

 袋をゴミ箱に捨て、齧り付きながら歩く。


 体が冷えていくのがわかる。

 自分が意味のないことをしているように感じる。


 食べ終えて、残った棒を咥えながら一息つく。

 吐く息は、先ほどより白くなっている。


 自分はまだ生きている。

 体の熱がこの寒さに立ち向かい、その痕跡を外に現している。


 その白さを眺めながら、家に帰る。


 伽藍堂の家の中は冷え切っていたが、外よりは幾分かましだった。

 電気と暖房器具をつけ、コートを脱ぐ。


 手持ち無沙汰に持ち歩いていた棒をゴミ箱に捨てようとしたとき、そこに「あたり」の文字を見つけた。


 当たりが出たのは、いつぶりだろう。

 子供の頃からずっと食べ続けているが、ここ数年、当たった記憶はない。

 子供の頃より、今の方がよく食べているのに。


 ふと、小さい頃、初めて当たったときの記憶を思い出した。

 当時はまだ元気だった親父に見せて、自慢したような気がする。


「お前は運がいいな」


 そんなことを言われた気がした。


 昔と少しデザインの変わった、「あたり」の印字を見つめ、水で少し洗い、台所の端に置く。


『運がいいから大丈夫』


友人がそんな鼻歌を歌っていたのを思い出す。


誰の歌だったか。


そんなことを考えながら、冷え切った体を温めるため、シャワーを浴びた。




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氷菓 ヒマツブシ @hima2bushi

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