気まぐれクリエイツ

古河楓@餅スライム

第1話 人は癖に勝てないのだよ!

 暗闇の中に、モニターの光だけが虚しく光っている。

 静寂の中に響くのは、せわしなく叩かれるマウスのクリック音のみ。

 椅子に座った少年は、画面を瞬き一つせずに動向を見つめ……。


「だあああああ~!!!!」


 いきなり叫びだした。


「何事ッ!」

「事件か!!」

「ワッツ!?」


次の瞬間、一斉に室内灯がついたと思えば、周囲で突っ伏していた人々が驚きの声を上げながら起床する。まるで蜂の巣をつついた後のような大パニックは数分続くと、一人だけテンションが違う少年に注目が集まる。


「お、おい……どうした……」


静寂の中、ある一人の男が恐る恐る質問を投げかけると、少年は鋭い目線を男に向けて……こういった。


「こいつ……ホロが黒髪ロングじゃなかった!!!」


そういうと、少年は号泣会見の議員のような鳴き声をあげながら、机に突っ伏してしまった。


「なんて?」

「それだけ?」

「いや、これはキツイぞ」


泣き崩れた少年を見た周りの人々は、次々に困惑と同情の声をあげる。しかし、その比率は明らかに困惑の声が多い。

理由は簡単……彼らは少年とは別の存在……オタクじゃないのだ。


ここは私立創華学園パソコン室。少年――葛西恭弥は所謂オタク。学園内でも有名なクリエイター部の部長。そして、困惑の声をあげている男たちは彼の同級生。学園祭を前に動画編集を彼から教えてもらっている生徒たちだ。


現在時刻は午前5時。昨夜0時に生徒全員が眠気に負けてお亡くなりになってからというもの、葛西はひたすらギャルゲーの攻略に勤しんでいた。しかし……推しているキャラのエンディング後に獲得できる一枚絵は、葛西の求めているモノではなかったのだ。

そんな状況で大声が上がったら、男しかいない密室は阿鼻叫喚の地獄絵図。誰もが寝不足の中で右も左もわからず、ただひたすら混乱するしかない。



「あれ? 何やってんのコレ?」

「おかしいことになってます~」


そんな中、パソコン室に2人の女子生徒が入って来た。彼女らは謎に活気があるパソコン室に入るや否や、一般生徒と同じように困惑の声をあげる。が、その中でひときわ目立つ存在……葛西に目をやる。


「葛西、またなんかやったのね」

「データでも消し飛んだんですかね~」


呆れと暢気のダブルコンビは一番奥にある葛西のパソコンの画面をのぞき込む……。

そこには、露出度が高い服を着た黒髪ツインテールの女の子が、こちらに向かって手を差し伸べている一枚絵が……。


「これ……あんたまたギャルゲーやったのね?」

「わぁ、可愛いですです~」

「かわいい、だが違う!!!」

「「!?」」


暢気な女の子の感想を聞いた途端、崩れ落ちていた葛西のスイッチが入る。


「俺が好きなのは黒髪ロングなんだ! ツインテールは違う! 2本の束は違うんだ!!!」


その言葉に、二人の少女は固まる。かたや何を言ってるんだこいつという顔。もう一人は別にどっちでもいいじゃんという顔。彼と彼女たちの温度差はまさに赤道直下と南極のようだ。


「中身がよかったら髪型変えてもいいじゃない!?」

「違う! ロングじゃなかったら清楚感が足りない!」

「女の子の変身願望をわかってあげてください~」

「そんなもの捨ててしまえ!!!」


そこから始まるのは激しいレスバ。それをみた部員と生徒たちはまた困惑の声をあげる。


ここは創華学園クリエイター部。

異才と変態が集まる、全国屈指の学生クリエイターの集まる魔境である。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

気まぐれクリエイツ 古河楓@餅スライム @tagokoro_tamaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る