祝い

まこわり

第1話 俺の妹は可愛い

 俺は近田川こんだがわ史寿ふみとし。俺にとって最もめでたいこと、それは妹が生まれたことだ。


 3歳年下の妹だ。赤ちゃんの妹は俺が手を差し出すと、指をギュッと握ってくれた実に可愛い。


 成長してからも可愛い。幼稚園のお遊戯会でも、母親がスマホで撮った動画を見せてもらったが、お婆さんの役だというのに、飛び抜けて可愛いかった。


 小学生になってからも可愛い。憎まれ口をたたくこともあったが、それも含めて可愛いかった。  

 卒業アルバムを見せてもらったが、ダントツだ。妹が「このコの方がモテていた」と言ったが、それはクラスの男子がおかしいだろう。まあ、兄としては、モテないほうが安心ではあるが。


 中学生になってからは、陸上部で走り幅跳びの選手として活躍した。成績も学年でいつも一桁順位だった。可愛いくて、スポーツ万能で成績も良いなんて、神の化身かなんかだろ。俺のことを「あにい」呼んでくるのが可愛い。口癖なのか、呼ぶときに「ネ」とアタマに付けて呼んでくるのが、さらに可愛い。


 高校は、地元でもトップの公立へ進学した。ダンス部に入って日々練習しているらしい。リフトアップという技で男子生徒に身体を支えられることがあるのが、兄としては不安要素だ。


 妹の16歳の誕生日に向けて、大学1年生の俺はバイトで稼いだ金でプレゼントを探し求めた。学校にも持って行けるものという妹の希望で、好きだというキャラクターのキーホルダーと高級洋菓子店のクッキーを買った。妹の喜ぶ顔が見たいから早く渡したい、でも、誕生日は来週だ。

 妹がどんな顔をするかなと、想像しながら歩いていたら、俺は赤信号に気づかず横断歩道に飛び出してしまった。



 * * *



歩蘭あゆら、お兄さん残念だったね……」


 私は近田川こんだがわ歩蘭あゆら、兄がいたが、先週交通事故で亡くなった。


「そのキーホルダーって?」

 友達が私のスマホについているキーホルダーを指して言った。


「うん、あにいの形見になっちゃった」

歩蘭あゆらが好きなキャラクターだね」


「うん、大きな目が可愛いの」


 私が好きなキャラクターは、大きな目が特徴のクマのキャラクター『目玉グマ』。キャラ設定として、一緒に暮らしているアオイトリをいつも心配して見守るため目が大きくなったらしい。


 私は、兄が残してくれた目玉グマのキーホルダーをスマホに付けて肌見放さず持っていた。


 兄が亡くなって一ヶ月ほどったある日。私は青信号に変わった横断歩道を渡ろうとした。しかし、誰かにじっと見られている嫌な気がして、逃げるように走って横断歩道を渡りきった。

 その直後、身体が風圧でよろけてしまうほどの猛スピードで、1台のコンパクトカーが赤信号で交差点を突っ切っていき、電柱に衝突した。辺りは騒然となった。


 もし、歩いて横断歩道を渡っていたら、間違いなくかれていた。


 さっきのは何の視線だったんだろう? 私はふと、スマホを見た。目玉グマが、「無事でよかったね」と言ってくれたような気がした。

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2026年1月1日 07:09
2026年1月2日 07:09

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