神罰の英雄たち

@A-non

第0話 プロローグ

夜の森を裂くように、ひとつの光が落ちた。



誰もそれを見ていない。



それが後に世界の均衡を揺らすものだとは、


まだ誰も気づかない。




光の中心には、生まれたばかりの赤子がいた。


泣き声も上げず、淡い緑の粒子に包まれ、眠っている。




その様子を見下ろす影が複数いた。




「………成功か」




「数多くの犠牲も強いられてきたが…ようやく…。

この子が我々の最後の希望だ…」


「ヤツらに気づかれぬよう、平凡な人族に紛れ込ませる」



赤子の額に触れる指先から、古い光が消えていく。




一人の男は優しい目で赤子を見ながら言った。


「いつか自らの運命に気づく時が来る。

その日まで穏やかに過ごせ」




「フィエル、この子を運んでくれるか?」




フィエル「はい。お任せください。必ずや平和な人族の元に…」




「この森を出れば必ずヤツらに狙われる。

…どうか…生きてくれ」




フィエル「この子が無事託されるなら私の命など安いものです。

……必ず、報告に戻ります…!」




静かな合意の後、彼らは夜の霧に溶けるように姿を消した。












夜更け、庭先に置かれた小さな籠から、

かすかに泣き声が聞こえた。

ウォード夫妻は互いに顔を見合わせた。


「誰が…?」




籠の中には、赤子が包まれていた。髪は銀髪、

手足は小さいのに、不思議な力を感じさせる気配があった。



赤子を抱き上げると、楽しそうに手を振って笑った。

周囲の気流がその手に合わせて、踊るように渦巻く。



ウォード夫妻は息を呑んだ。


普通の赤子ではない――




息をするように魔法を使っている。




ふと目をやると、そこに青年が倒れていた。

銀髪で耳が長く、先が尖っている。

見たことのない種族だった。




青年「そ…その子を…お願い…し…す…。

どう…か…普通…の…子とし…て…」




青年は微かに微笑むと、その場で息絶えた。




夫妻は互いに得も知れぬ使命感を感じていた。




そこから十年――


とある少年の運命が、世界の鼓動と静かに同調し始めていた。

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