エピローグ Gaku
死んだはずの同級生が次々と現れて、二十五年前に果たせなかった想いを実現させてからまた去っていった。
……そんな与太話、どこの誰が信じるのだろう。
夜見川と上城さんが去ってから、しばらく俺は抜け殻のようになっていた。いや、それは志穂も同じことか。
あの二人は「向こう側」で幸せにやっているのだろうか? 幽霊とか正直よく分からないけど、霊でも幸せにしていてくれたら何よりだと思う。
あれから不思議なことは何も無くて、他の誰かから夜見川や上城さんの姿を見たという話は聞いていない。いや、当たり前か。
俺はどこか説明のつかない切なさを抱えながら、日々の仕事に勤しんでいる。いつまでも悲しんでいるわけにもいかない。志穂だけじゃなくて、息子も養っていかないといけないんだから、抜け殻になっているわけにもいかない。
そう自分に言い聞かせて、なんとか奮起して前のメンタルに戻りつつある。だけどこうやって休日に家で疲れて横になっていると、どうしてもあの峠での出来事が頭をよぎってしまう。志穂はそういう感じではないので、やっぱりこういうのは女性の方がメンタル強めに設定されているらしい。
「ねえ、お父さん。ちょっといいかな?」
ボケーっとしていたら息子の
「おう、どうした?」
「あの、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なんだ、ポケモンカードならお母さんに相談しろ」
「違うって。あの……今度の祝日に、
愛翔は言いながら目を伏せる。月美津峠と聞いて、俺の眠気が一気に覚めた。これは、歴史が繰り返すってやつなのか?
「なんだ、まさか肝試しにでも行くのか?」
「肝試し?」
「ああ、あそこは幽霊が出るっていう噂があるからな」
「そんなんじゃないよ」
「なんだ、違うのか」
俺は思わず拍子抜けする。肝試しじゃないというのなら、何をしに行くと言うのだ。
「あのさ、あの峠に伝説があるらしくってさ。その……あの峠に行って愛を誓った男女は永遠に結ばれるっていう話があるみたいで、本当かどうか確かめてみようって話になって……」
「なんだ、女の子と行くってことか」
ようやく話が見えてきた。たしかにあの峠にはポジティブな噂も多々ある。どうせ後付けなんだろうが、心霊スポットを見に行って本当に憑かれて帰ってくるよりはよっぽどいい。
しかし愛翔もそういうことを考える年になったか。考えてみたら、俺と志穂も付き合ったのは中三だもんな。そう考えるとニヤつきそうになるので堪えながら言う。
「おう、行って来い。大事な彼女にカッコいいところを見せてくるんだぞ」
「まだ彼女じゃないって。友達だから」
「まだ、だろ? そんな悠長なことを言っていないで、さっさとモノにして来い」
「ありがとう。とりあえず、仲間に連絡しておくよ」
そう言って愛翔は自室へと去っていった。俺の時代とは違って、LINEでも使って連絡するんだろうな。いい時代だよ。俺の頃は親が出ないかビビりながら好きな子の家に電話したんだから。
しかし、その伝説って初耳だな。出どころはどこなんだろう?
もしかして――
いや、あいつらなら、それもありえるかもな。
あの二人は本物の幽霊に会ったとか言ってたし、そういう不思議な力を持っているのかもしれない。俺も拝んでおこうか。息子の恋をなんとか応援してくださいって。
あいつら、向こうでは元気にやっているのかな?
向こう側がどんな世界かは知らないけど、誰にも気兼ねなく幸せにしていてくれたらいいな。
……ワンチャン、また会えるかもしれない。
今度、志穂でも誘ってみるか。
月の見える夜に、もう一度ペンダントを持って。
窓の外を見ると、真っ青な空に白い月が浮かんでいた。俺は目を閉じて、愛する仲間たちの幸せを願った。
【了】
あの日の月に君を見る 月狂 四郎 @lunaticshiro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます