月に願いを AI
さすがに車を使ったせいか、少し走るとすぐ目的地までやって来た。
わたしが二十五年前に、そして何年もしてから夜見川君が亡くなった場所。車をちょっと離れた所に停めると、わたし達は事故現場の辺りまで歩いて行く。
見上げると、漆黒の空に浮かび上がる月が綺麗だった。
「……志穂ちゃん、アレを出してもらえるかな?」
「ああ、アレね。はい、どうぞ」
「ありがとう」
志穂ちゃんから手渡された物を受け取る。
それは、二十五年前に四人で持っていたペンダントだった。
「これが、夜見川君の……?」
わたしの手に持つペンダントは古びて、ところどころが錆び付いていた。ザラザラした手触りで年月の経過を味わうと、それだけで切なくなる。
感傷に浸りかけたわたしに、志穂ちゃんが口を開く。
「そう。夜見川君の遺品の中にあったんだけど、燃やさずにあたし達が預かっていたの」
わたしは夜見川君のペンダントを探して森をさまよっていたわけだけど、実物は生きた本人がずっと持っていたんだよね。こんな所で実物が見つかるなんて、本当に皮肉な話だなって思う。
わけもなく夜見川君のペンダントを振り子のように揺らしてみた。その向こう側には、わたし達の過ごした青春時代が丸ごと詰まっている気がした。
いつかに出会った女性の幽霊を思い出す。時にはわたし達を恐怖させ、時には導いてくれた存在。そんな彼女にも出会ったきっかけがある。それがこのペンダントだ。
わたしは手渡されたものとは別の、自分の首にかかった同じペンダントを握りしめる。わたしのペンダントは峠の森で何年も迷っているうちにすっかり錆び付いてしまった。
あーあ、嫌になるな。でも、そんな思いもここで終わる。
二十五年前は幽霊を呼び出すためにこのペンダントを持って来たけど、それが可能なのであれば、わたし達共通の思い出の品が夜見川君を呼びだすことだって出来るはず。
月を見上げる。二つのペンダントを握りしめて、夜見川君の顔を思い浮かべる。大好きで、愛おしくて、二度と忘れられない顔。そんな彼を思い浮かべながら、わたしは強く念じる。
――お願い、出てきて。
今までにないくらい強い想いを込めて祈ると、周囲の空気が変わっていく気がする。風は止み、竹川君と志穂ちゃんが戸惑い気味に周囲を見回していた。
「おい、なんか揺れてないか……?」
「地震? それは、困るんだけど」
竹川君と志穂ちゃんがざわついた刹那、わたしの体から青い光が生じはじめる。
「亜衣ちゃん……!」
心配した志穂ちゃんが、悲鳴に近い声を上げてわたしのことを見つめる。わたしは大丈夫だよとでも言うように頷いてこたえた。
わたしを包む、青い光の量が増していく。
光はどんどん強くなっていって、月明かりよりも、車のライトよりも眩しくなっていく。思わず目をつぶると、瞼の裏にある暗黒の向こうで、青い光がこれでもかと輝いていた。
刹那、ぶわっと風が吹く。風が止んで、舞い上がった砂埃が落ち着いた頃にゆっくりと目を開けると、誰かの足が視界に入った。
いや、それは「誰か」なんじゃかない。それは明らかに、わたしの知っている人物のものだった。
息が詰まる。あれからきっと何年も経っているのだろうけど、彼のパーツは頭のてっぺんからつま先まで憶えている。だって、それだけ好きだったんだから。
恐る恐る視線を上げると、年は取ったはずなのに、どこか懐かしい顔があった。
「夜見川、君……?」
わたしを見つめる、どこかはかなげな視線。
――そこに立っていたのは、かつてわたしの愛した夜見川君だった。
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