いつまでも変わらない笑顔 AI
「本当に来るかな、竹川君」
夜空に浮かぶ月を眺める。あの時と同じように、ことあるごとに月へ祈るのが習慣になっている気がする。
夜の峠で、わたしは竹川君と志穂ちゃんを待っていた。さすがに風が冷たいというか、もう冬だよね。わたしって死んでいるらしいけど、それなら今まさに感じているこの寒さは何なの?
愚痴モードに入りかけていると、竹川君と志穂ちゃんが車で来た。良かった。寒い夜道を徒歩で移動することにならなくて。
車が止まると、サイドウインドウが開く。凛々しい顔をした竹川君の顔が出てきた。その奥には志穂ちゃんの姿も見える。
「待たせたな、寒かっただろ。とりあえず乗れよ」
「うん」
「亜衣ちゃん、あたしも来たよ」
「わー志穂ちゃん、ホントにありがとう!」
車に乗り込むと、お互いに再会出来たことを喜ぶ。夫婦二人は前の席に座っていたので、わたしは後部座席を使わせてもらった。
車に乗り込むと、目的の場所へと移動する。
「本当に来てくれたんだ。ありがとう」
「友達なんだから当たり前だろう。それで、何をするんだ?」
正直、わたしもあんまりよく分かっていない。そう言うわけにもいかないので、どうすればモヤっと出ている考えが伝わるかをあれこれと思案する。
「……何て言うか、説明がちょっと難しいの。とりあえずわたしと夜見川君が事故に遭った所まで行ってもらえるかな?」
そう言うと、バックミラーに映る竹川君が微妙な目つきになった。
「行けるけど……いいのか?」
竹川君の言いたいことは分かっている。あのポイントはわたし達誰にとってもトラウマを引き起こす場所だ。事故に遭ったわたしならなおさらと思うのも仕方がない。
でも、わたしはそんなことは恐れていない。
「うん。そこへ行くことに意味があるの」
「そうか。なんだかよく分からないけど、君が言うなら行くか」
そう言って竹川君がハンドルを切りはじめる。
目的地はかつて肝試しの舞台でもあり、流れ星を見に行った帰りにすべてを壊した事故現場でもある急カーブ。良くも悪くも思い出深い場所ではあるけど、あそこに行けばわたしの考えていることを実現出来る気がする。
「アレ、持ってきてくれた」
「持ってきたよ~。久しぶりだからどこに置いたか忘れかけていたけど」
竹川君の代わりに志穂ちゃんが答える。年相応に見た目は変わったけど、今だけは二十五年前のいたずらっぽい笑顔をそのまま現代に持ってきたようだった。まあ、わたしは年を取っている感覚なんて少しも無いんだけど。
「懐かしいよね。あれから二十五年だもんね。そりゃあたしのシワだって増えるはずだわ」
「俺も昔は腹筋が割れていたけど、今は……」
二人の自虐トークで車内に笑いが巻き起こる。
「ホント、仲がいいよね。昔から変わらない」
ほんのちょっとしたやり取りだけど、中学生だった時と変わらない関係が見られると、なんだかすごく安心する気がした。
そうだよね。こうやって昔の友達と一緒にいられること自体がとっても幸せなことだし、何もずっと深刻な顔でいなきゃいけないなんて法はないからね。そう考えるようにすると、ものすごく楽になってきた。
そうだよね。ずっと昔から言われていたもんね。好きな人たちといる時間は大切にしなくちゃ。
あの女性の霊は、探していた人に会えたのかな?
そんなことを思いながら、暗闇に包まれた山あいに想いを馳せた。
わたし達はそのまま、楽しく談笑しながら目的地へと向かった。
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