想いを届ける AI

 夜見川君の「手紙」を読み終えると、わたしの頬には涙が伝っていた。


 ……ズルいよ、こんなの。


「わたしだって、愛してるよ」


 誰にも聞かれることのない言葉は、その言葉を受け取るはずだった人のいた部屋に溶けていく。


「うう、ぅええ」


 堪え切れない涙が溢れてくる。部屋の外に声が漏れないように、枕に顔を押し付けて泣いた。


 夜見川君は、わたしのことを忘れてなんていなかった。それどころか、ずっとわたしとの思い出を大切にしてくれていた。そう思うと、涙が止まらなくなった。


 バカだよ、君は。こんな死んじゃった女の子をいつまでも忘れずに、こんな手紙までこっそりと書いて誰にも知られずに持っているなんて。


 でも、ありがとう。なんだかわたしの人生が、この手紙を読んだだけですべて報われた気がした。皮肉なことに、生きようって思ったよ。


 でも、不思議だよね。


 なんとなしに、夜見川君はこの手紙をわたしが本当に読むと知っていた気がする。彼はどんな思いでこの手紙を書いたのだろう?


 分からない。それは本人に訊かないと分からない。それなら――


 一つだけ言えることがある。それは、わたしにはまだやることがあるってことだ。


 ――夜見川君に会いに行こう。


 もう一度、彼に想いを伝えなくちゃ。いつかのポッキーゲームでうっかりキスした時、帰りに夜見川君は「初めての思い出にしたいなら、最初から言えよ」って言っていたんだっけ。そうしてもう一度ファーストキスをやり直したのは憶えている。


 言わないと伝わらないことって、たしかにあるよね。


 わたしにはたしかに、彼に伝えるべきことがある。


 彼はきっとまだ、あそこにいる。あそこで待っている。会いに行かなくちゃ。ずっと待たせているのだから。


 でも、その前に――


 わたしはノートパソコンを見遣る。これからの計画を組み立てる。


「もしかしたら、わたし達の夏はまだ終わっていなかったのかもしれないね」


 そう言ったらおかしくなって、思わず声を上げて笑ってしまった。

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