肝試しのはじまり AI

 数日後、わたし達は本当に夜の月美津峠へとやって来た。中学生が夜中に集まるのは難しいから、それぞれが親を上手いことだまして、絶対にバレないアリバイ係の友人の家へ泊りに行ったことになっている。


 わたしと志穂ちゃんが竹川君に付き添われて月美津峠へ行くと、先に着いた夜見川君が「よう」とわたし達を迎えた。


「夜見川君、本当に来たんだ」

「邪魔だったか?」

「ううん。なんか、意外だったというか」

「まあ、最初は俺も断ったんだけどな」


 そう言って夜見川君は竹川君へと意味ありげな視線を投げる。竹川君は気付かないフリをしているけど、どうやらいくらか強引な手を使って夜見川君を引っ張ってきたみたい。


「まあいいじゃないか。今日は絶対に思い出の夜になる。中学生生活ももう半年だって残っていない。ここで一つ、一生の宝物になる経験をしようぜ」


 竹川君も口が上手いから、わたし達の注意はナチュラルに肝試しへと向かっていく。これが上位グループの力というやつか。太陽になれないわたしは密かに感心する。


「それじゃあ、今日の重要なアイテムを手渡すね」


 竹川君の言葉を引き継ぐように志穂ちゃんが口を開く。細い指先には、月の意匠が付いたペンダントがぶら下がっていた。


「お、なんだそれ。なんか高そうだな」

「でしょー。でも、祭りの夜店に行って一つ千円で作ってもらったアクセサリーだから、そんなに高くないよ」


 そう言って志穂ちゃんはペンダントを揺らす。月の光が金属に反射して、すごく綺麗に見えた。


 わたしがペンダントに見とれていると、志穂ちゃんが説明を始める。


「ここの幽霊って禁断の恋が叶わずに亡くなった人たちらしいからさ、こういうペアリングみたいなやつを持ってくると反応して出てくるって言われているの」


 ああ、それが例の亡霊にケンカを売るようなアイテムってことか。幽霊に会えるどころか、呪われそうな気がしないでもないけど。


 そんなわたしの思いも知らずに、志穂ちゃんは四人分作ったペンダントをそれぞれに手渡していく。ただ、デザインは綺麗だから身に着けるのには抵抗がなかった。


「わーこれ、すごくいい。みんなで付けるとテンション上がるね」


 志穂ちゃんがペンダントを付けた他の三人を見て声を上げる。こういうことがナチュラルに言えてしまうから志穂ちゃんはどこへ行ってもヒロイン的な扱いをされるのかな、なんて思う。


 夜見川君も素直にペンダントを付けていた。そういうことを絶対にやらなそうなキャラだったのもあって、なんだかそれだけで面白い。でも、よくよく見れば夜見川君もイケメンではあるんだよね。


「よし、それじゃあ男女の組み合わせを決めるか」


 竹川君が楽しそうに言う。彼もお揃いのペンダントを見てテンションが上がったのかもしれない。


「それじゃあ誰と組みたいかを「竹川君は当然あたしと行くよね?」


 最後まで言い終わらない内に、志穂ちゃんが筋肉質な腕を引いて持っていく。竹川君は「え?」と困惑したような顔をしてから、観念したように志穂ちゃんに連れて行かれた。


 一瞬だけ「助けて」っていう顔をしたけど、見なかったことにした。このイベント自体、志穂ちゃんが竹川君に告白するためにやっているようなものだし。ここでわたしが割って入れば、志穂ちゃんから永遠に怨まれることになる。


 夜見川君が小さくため息をつく。


「まあ、仕方ないか」


 そう呟いてから、わたしに視線を向ける。その目は少し照れくさそうだった。なんだか意地悪したくなって、夜見川君の手を取る。


「それじゃあ、行こう」


 急に元気になったわたしに、夜見川君が戸惑いながら引きずられて来る。わたしは彼の顔は見ないで、暗くて不気味な心霊スポットを軽やかな足取りで歩いていった。


 かくして中学最後の思い出作りになるであろう肝試しがはじまった。


 月美津峠を眺める。海に面した、美しくも不気味な景色。時折高速で通り過ぎる車のライトを手掛かりにして、わたしたちは夜の心霊スポットを進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る