あの日の月に君を見る

月狂 四郎

プロローグ

 ピンク色をした、やわらかな雲。


 わたしはそこでたゆたい、心地よい波のような揺れに身を任せる。


 ここはどこなのだろう?


 わたしはどこから来て、どこへゆくのだろう?


 分からないけど、この揺れはとても気持ちよくて、油断すると眠りに落ちそうになる。


 ……声?


 誰かがわたしを呼んでいる?


 桃色の空を、泳いで移動していく。本当は飛ぶと表現した方がいいのかもしれないけど、手足を動かすと進んでいくのだから、やはりわたしの感覚では空を泳いでいる感覚になる。


 桃色の空に、光の差す場所がある。わたしを呼ぶ声は、そこから聞こえてきた気がした。


 ねえ、そこに行けばあなたに会えるの?


 何もかもが分からないことばかりだけど、わたしは引き寄せられるようにその光の差す方へと向かっていった。


 まぶしくて、手で視界をふせぎながら雲の間を泳いでいく。


 先へ進んでいくと、光がどんどん強くなる。手をひさしにしても、わたしの視界は光に包まれて見えなくなっていく。それなのにどうしてか怖さは無くて、この先へ行くべきだと本能に似た何かが言っていた。


 なんだか分からないけど、その先へ行ってみよう。そこに何があるか分からないけど、誰か、大切な人がわたしを呼んでいる。


 まばゆい光の中を進むわたしの視界は、すっかりと真っ白になって見えなくなった。


 目を閉じて進むと、温かい光がわたしの体を包んでいく。


 そのぬくもりを感じた時に、わたしの頬にはなぜか一筋の涙が伝った。

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