第1話 ③——「ヒュドラ九変化!」



「うっかり全身を止めちゃったけど……ほんとは、この舌の攻撃だけを止めたかったんだよね。だってこれ、ほとんどカメラに映らないくらい速いからさ」


〈流浪の探索者:確かに……現役探索者のワイでも、かろうじて残像を捉えるのが精一杯やったで。ありゃ完全に、ワイでなきゃ見逃してたな〉


「そうそう、カメラに映る限界近い速度だからさ。〝観測者ウォッチャー〟のみんなも、何が起きたか分からないと困るでしょ? だからさっきは、魔眼を使ってここだけ止めようと思ったんだけれど……ちょっとやり過ぎちゃった」


〈ニートの無職ん:それで、攻略法ってのは結局なに? 魔眼使って停止させて倒せってコト? アンタ以外に誰がそんなことできんの?〉


「いやいや、そうじゃねーから。これはあくまで、こうやって舌を突き出して目にも止まらぬ速さの攻撃をしてくるヤツもいるって教えようとしただけだから」


〈流浪の探索者:ぶっちゃけ魔眼使いとか、ワイでも数えるほどしか知らんレアギフトやし、なんなら夜の字の魔眼くらい意味不明に強い魔眼とか他に知らんので……これが攻略法と言われても困惑するしかないんやが〉


「だからぁ、攻略法は別にあるの。……ボクも今回は、ちゃんと段取り考えてきたんだから。まずはヒュドラの攻撃を全部見せるからね。じゃ、〝停滞〟解除するよ?」


〈アンチ太郎:マジでまんまゲームの一時停止なんだよなぁ、この絵面。そりゃ誰も本物のダンジョン探索だなんて言っても信じるわけない〉


「ふん……いいのさ、数は少ないけど、君たち〝観測者ウォッチャー〟が信じていてくれれば、ボクはそれで……」


〈流浪の探索者:すまんワイも別に信じているわけじゃないんや〉


〈アンチ太郎:誰も信じてるなんて言ってないが?〉


〈アンチ二号:バカにしないで、本物と偽物の区別くらいつくんだけど、この偽物が〉


〈ニートの無職ん:なんなら、そのウォッチャー呼びすら認めてないが?〉


〈†漆黒の堕天使ブラックエンジェル†:オレは信じてるぜ、†深淵†の〉


〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:夜ちゃんは周りの目なんて気にせずに、自分の道を進めばいいんだよ!〉


「……はいはい、それじゃもう、進行に集中するから、コメントには反応しないからね」


 そこで私はコメントへ向けていた意識を切り替えると、カメラの方から改めてヒュドラに向き直りつつ、魔眼を使って〝停滞〟を解除する。


 ビュンッ——!


 すると、伸び切った状態で止まっていた舌が、またたく間に元に戻っていく。

 それを皮切りに、動けるようになったヒュドラが攻撃を再開してきた。

 真っ先に動いたのは——こいつは、毒ブレスか。


『“毒霧吐息トキシックブレス”』


 ブワッ——と、一頭の口から紫色のいかにも毒々しい霧が噴き出す。

 広がるのは遅いので、回避はたやすいのだけれど……この霧の真価は他にある。


「はーい、これは、見たら分かるくらいに『毒の霧』だね。こいつは長い間その場に滞留するから、すごい邪魔なんだけれど……」


 そこで、新たに攻撃動作を開始した一頭を見た私は、しめた——と思う。

 そしてすぐさま、その頭と自分の間に毒霧を挟むような位置に素早く移動して——そこで地面にハルバードの石突いしづきを突き刺したところで……予想通りの攻撃がくる。


『“真空吸引エアロバキューム”』


 ビュオオオッッ——!!


 私を狙った〝吸い込み〟攻撃は——ハルバードを支えにその場にとどまる私を尻目に——毒霧をすっかり吸い込んでしまう。


「あいつは吸い込み攻撃をしてくる頭だね。こんな風に踏ん張ってないと吸い込まれるから厄介といえば厄介だけれど、今みたいに毒霧を吸わせて処理するのに利用できるよ。でもこれで終わりじゃないから注意してね、なんせアイツは——」


 言ってる間に吸い込みを終えた一頭と——それとは別の一頭も攻撃動作に入り、二頭が同時に攻撃してくる。


『“暴風息吹ギガストームブレス——毒霧噴流トキシックストーム”』

『“燃性粘液バーンミューカス”』


 ブオオオオオッッッ!!!

 ボシュッ! ボシュッ!


 高速で〝噴き出される〟毒霧と、連続して飛んでくる白いネバネバした飛来物の両方を避けるため、私はその場を大きく飛び退いていく。


「——こんな風に、吸い込んだ毒を勢いよく吐き出せるからね! あと、一緒に飛んできてる白いのは、触れるとネバネバしてて動きを止められるし、しかもやたらめったら燃えるというか、もはやダイナマイトかよってくらいに大爆発するから、炎のブレスを組み合わせたら凶悪なコンボになるんだよねっ。ってか普通にこれ、何度も連続して撃たれると徐々に足場が無くなってくるのも地味につらいんだよねっ……!」


 解説を喋りながらも激しく動き続ける私は、片時も止まることなく回避行動を取り続ける。

 それを追うように毒噴射もしばらく続き、さらにはそれに加えて白いネバネバ弾も、もはや逃げる地面を埋め尽くさんばかりに何度も連続して放たれる。

 それでもどうにかかわし続ける私に対して——勢いもしぼんできた毒噴射も、そろそろ終わろうかという頃合いで——さらに新たな一頭からの攻撃が襲いくる。


『“毒針連射ヴェノムバルカン”』


 ドゥルルルルルッッッ!!!


 機関銃もかくやという連射性と発射速度で飛来する毒針(もはや一本の線に見えるレベル)には、さしもの私も(事前に自分に課していた)〝今の縛り〟では、軽くけるというわけにもいかず……

 やむなく、ハルバードを高速で回転させ——幅広の斧刃部分を上手く使い——盾のようにすることでしのぐという手段に出る。


 キキキキキキキキキンッッッ!!


「これはっ、毒針の連射攻撃だね……っ! 一発でも刺されば致命傷になる猛毒を持つ針がっ、こんだけいっぱいっ、しかもっ、あんな速度で連射されるんだからねっ、勘弁してほしいよねっ……!」


 さすがに音がうるさいので、私の声も自然と大きくなるし、全身を使ってブンブンとハルバードを振り回しているので、言葉の節々ふしぶしで息がはずんでいる。


 そんな、はたから見れば、必死になって生き延びているように見えているはずの私に——しかしまるで構うことなく、むしろ情け無用に追い詰めるとばかりに、新たな一頭がいよいよ動き出す。

 その——似たり寄ったりの九本首の中で唯一、一目で分かるほどの違いとして硬質そうな鱗を有している一頭は、そのいかにも硬そうな見た目からは意外すぎるほどの柔軟さで長い全身をしならせると、巨体からくる鈍重そうな想像を超える素早い動きでもって、全身を鞭のように使ったダイナミックなぶちかましを、私のいる地面に向かって勢いよく叩き込んできた。


 ドゴオォッッッッッ!!!!


 これまでで最大の爆音と衝撃を撒き散らしながら——素早く飛び退いてかわした——私の目の前に落ちてきた、太くて、硬くて、黒光りしている胴体は……むしろ今、まだ続いていた毒針攻撃を防ぐ障害物となった。

 そのことにニヤリと笑い、フッとひと息つく間もなく——さらなる脅威がトドメとばかりに襲いかかってくる。


『“豪炎息吹ギガファイアーブレス”』

『“九頭全能ナインズヘッド——豪炎息吹ギガファイアーブレス”』


 最初のブレスからの再使用待機時間インターバルを終えた一頭と、すべての頭の能力を切り替えて使える一頭が、同時に左右から挟み撃ちするように豪炎の奔流を畳みかけてくる。


 ボオオオォォォォッッッ!!!

 ボオオオォォォォッッッ!!!


 カッッッ——バァァァァァンッッッッッ!!!!!


 そして——それとほぼ同時に、、目がくらみ鼓膜が破れるほどの大爆発を巻き起こした。


〈ニートの無職ん:いやコメントする暇ないほど白熱した戦い(素人の目には凄さが分からないくらいたぶんすごい)を演じていたと思ったら——なんか最後に大爆発してて草超えて爆草〉


〈流浪の探索者:現役探索者のワイ、これがリアルなら探索者としての位階はいかほどなんやと想像して震えが走る〉


〈ねっこ寝子ねこ:無事だよね?! やっしゃん、どこなの!?〉


〈アンチ太郎:アイツが爆発くらいでやられるわけないけど、どこだよ、煙で何も見えんぞ〉


「……今の、炎ブレスが二つあったけど、あれ、片方の頭は特殊なヤツで、他の頭の能力を自在に切り替えながらすべて使えるっていうヤツなんだよね」


〈ニートの無職ん:何事も無かったかのように解説再開してて草〉


 いまだ爆煙がくすぶる地面を位置から、私は続きの解説を話していく。

 炎ブレスの攻撃に巻き込まれないように慌てて地面から引き上げていった黒光り——の素早い動きに、これまた素早く反応した私は、とっさにハルバードの出っ張った部分をヤツに引っかけることで、実はちゃっかり自分もついでに上に運んでもらっていた。

 さらに、爆発の瞬間は黒光りを盾にするようにヤツの後ろ側に隠れていたので、地上の爆発の影響もほとんど受けておらず、私は無傷だった。


〈流浪の探索者:つーか解説の内容もエグいやろ、なんやねん全部の能力を切り替えて使えるとか、ちょっとふざけ過ぎやろソイツ〉


「うん、まあ……そういうことで、一応はこれで、全部の頭の能力を紹介できたね。じゃあ次は、それを踏まえてどうやって攻略していけばいいのかっていう、その辺の具体的な方法を話していくよ」


 そう言って私は——私が引っ付いていることに気がついて、今更ながらに暴れ出した黒光りに足の力だけでしがみ付き、平気で乗りこなしながらもハルバードを振り回して……ちょうど手近に迫ったいくつかの首を、ついでとばかりに連続して切り落としていく。


〈ニートの無職ん:なんかあの黒いの、味方も攻撃してるんだけど、なにあれ、バカなの? 死ぬの?〉


〈流浪の探索者:いやアレは違うで。あの背中に夜の字がおるんや。んで、黒いのの動きに合わせて、なんならその勢いを利用して、他の頭をズバズバ切り落としとるんや〉


〈ニートの無職ん:じゃあなに、アレが攻略法ってこと? 何それ、バカなの? 死ぬの?〉


「ち〜がうから〜、こ〜れはただ〜、ついでにやってるだけ〜、だから〜」


〈ニートの無職ん:声めっちゃ間延びしてて草〉


〈ツッコミ番長:ジェットコースターに乗ってる人かよw〉


 三つほど首を飛ばした辺りで、黒光りが何かおかしいと気がついて動きを止めたので、その隙に私も黒光りから飛び退いて地面に降り立つ。


「ふぅ……じゃあここからは、ちょっと本腰を入れて戦っていくよ。攻略法も、戦いつつ説明していくからね」


〈ニートの無職ん:腰の抜けた戦いでアレなのマジで草〉


〈流浪の探索者:いやそれ、腰抜けの意味完全に間違ってるやん……〉


〈浮世の社畜ん:そもそも攻略法とかひいさまにはまったく必要ないと思うんだが、そうなるといよいよ誰のための配信なのか分からなくなってくるな〉


〈キチガイバーサーカー:考゛え゛る゛な゛感゛じ゛る゛ん゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉ゛!゛!゛!゛!゛〉


 さて……いよいよ見せ場がやってくるね、張り切っていくぞ——!


 

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