悪魔の懺悔室

羽露憂ゐん(はろ うぃいん)

第1章 第1話 当主と悪魔

1960年代、英国の更に北にある謎の栄えた島国。文化や言葉は英国と同じで、仏国や伊国、勿論、英国とも交流を続ける、色んな所がちょっとだけ貴族の時代に置いてけぼりな此処ここは天から舞い降りし天使を代々一族の執事として従える『魔法界』。

魔法界にはの通り、天使が蔓延はびこっている。魔法省だって、此処まで浸透している天使の脅威に怯え、天使に入れ込んでいる。此れじゃあ、天使の計画のてのひらで転がされているだけだ。

……そんな魔法界で、私達『フェルオーパス家』は忌み嫌われていた。何故なぜかって?



――『悪魔』を執事にしているからだ。



「お早う御座います、お嬢様。……早く起きなさい、ルシェル。」

何時いつもの声が聞こえる。ルシファーの声だ。

「……煩い、ルシファー。今起きるから……」

目を擦りながら、私は何とか答えた。


私はルシェル。

ルシェル・ブルー・フェルオーパス。此の魔法界で忌み嫌われる『北領貴族féruopus家』の第666代目当主。

そして、私の隣にいる慇懃無礼敬語執事顔だけはいいスカした奴は、我々一族……今は私だけの執事であり契約相手のルシファー。

原初の人間達に知恵禁忌とされる果実を渡し、直々に神から追放された美しい元天使で、今は地獄の暴君。

フェルオーパス家と契約をしていて、フェルオーパス家の当主に使える『義務ルール』がある人物。

……というか悪魔だ。


「今日の朝食Breakfastは?」

未だ寝ぼけながら私は質問する。

「ポーチド・エッグとベイクド・ビーンズ、ダージリン・ティーで御座います。」

冷静にルシファーは答えた。

やはりルシファーは完璧執事だ。

……ムカつくが顔がいいし声もいい。

「そうか。南領貴族Southclouの奴らは?」

今日も商談だ。全く、毎日商談とは疲れるものだ。

「午前10時にいらっしゃるそうです。」

時間も完璧把握。私が覚えていなかっただけかもしれないが……

「わかった。……英国等の進歩した技術を北領にも持ち帰れると良いが……」


着替えや支度を済ませ、予定を確認し、私とルシファーは食堂へと向かう。

かなり大きな屋敷だが、両親や他の執事・女中メイドは居ない。

何故なら、もうとっくにとうに亡くなってしまったからだ。


私が産まれてすぐの頃、神からの加護を一番に受けていたルシファーを憎んでいた天使達が魔法界に舞い降り、私の両親……スケイル・ブルー・フェルオーパスと夫人の命を奪った。更に、他の使用人達も次々に命を奪われ、散っていった。

しかし、天使達の1番の目当てであるルシファーだけは殺せなかった。ルシファーは歴代の天使達の中で1番力を持っていたからだ。

ルシファーの力を恐れ、逃げていった天使達は魔法界の由緒正しい一族と契約を交わし、天使達が魔法界に加護をもたらすと教え、その力を広めていき、我々の契約の話を『悪魔と契約をする忌まわしい一族』と広めたのも此の頃からだ。

此の頃から、魔法界の家系は必ず、天使達が仕えてくれるものだという『常識』が広まったのだった。

此れこそ、天使達の計画。魔法界に天使達を広め、魔法界を支配し、いつかはルシファーの命を奪うというものだった。


「いいかい?ルシェルだけは絶対に守ってくれたまえ。彼女はきっと此の腐った世の中を変えるはずだ。」

私の父……スケイル氏はこう言ったらしい。

「ルシェル、ですか…?」

此の襲撃の日は流石のルシファーも動揺したらしい。

ルシファーの動揺に対して、スケイル氏は答えた。

「此の子の名さ、君には未だ言っていなかったね。

それと、此の子には僕のミドル・ネームを受け継がせるよ。彼女は、晴れやかな青空ルシェルブルーになってくれるから。」

……と。

「……」

その輝かしい目にルシファーは黙るしかなかったらしい。

……本音を言うと、その目を見てみたかったが、もう叶わない。

「今日此の日から、契約主御主人様はルシェルに代わる。彼女がフェルオーパス家の当主になる。君は命を懸けて、此の子を守るんだ。

…嗚呼、愛子MyPumpkin。僕、呆気なく逝っちゃうだなんて、寂しくなっちゃうなあ。…君の手で必ず守り給え、信じているからね?」

此れがスケイル氏の遺言だったそうだ。

フェルオーパス家の執事として、ルシファーは1言こう答えた。

「…御意As you wish…」


こうして私は当主となり、今の12歳、『最年少当主』に至るわけだ。

…当主としての仕事にも関わって来る事だが、此の魔法界は4つの領土に分けられている。

北・南・西・東。方角によって分けられ、必ず1つの領土は1つの大きな貴族が治めているのだ。

その北の貴族が我々フェルオーパス家で、今日は南の貴族、『サウスクロウ家』との商談がある。


「幼い御身体で毎日ぎこちなく商談をされているわけですが…大丈夫なのですか?当主なんて。貴方様に勤まります?」

ルシファーは生意気に当主に問いかけてくる。

だが、私には覚悟がある。

「…煩いぞ、私は当主だ。当主の仕事は私の使命、やり遂げるしかないんだ。」

「幼い?最年少?生意気?小娘?何とでも言うがいい、1つの領土も治める権利をもらえなかった、嫉妬深い上流貴族暇人どもめ。」

「…それでも私は、此の一族の当主だ。」

私はルシファーに語った。

此れが、私の覚悟だ。

「フフ、成程。他の貴族暇人どもとは覚悟が違うわけですね。」

ルシファーは笑って言った。

「理解したか?ルシファー。」

「ええ、勿論です。…では、お客様がお待ちです。」

ルシファーに言われ、私は玄関へ向かう。

「行くぞ。」

私の1言に、ルシファーは答える。

「…御意As you wish…」


身支度は整った。朝食も平らげた。此のだだっ広い屋敷も埃1つない。


―さあ、商談の時間だ。

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