第3話 困ってる
「具合は?」
仕事中だったのか、端的に聞いてくる。しかし、その声が心地よかった。
「熱だそうだ」
「解熱剤を飲んで」
「うん。どのタイプでもいい?」
「写真を送って」
「はい」
「せっかく行ったんだから、早く治して楽しんで」
「それが、困ってる」
「どうした?」
「黒澤さんちで、問題が起きた」
「大変なの?」
「わからない。治ったら帰ろうか考えてる」
「焦らず今は寝たらいい」
「そうだな」
「お大事に」
「はい」
また、と言って電話が切れた。薬の名前と画像を送ると「OK」と連絡がくる。薬を飲んで再び横になる。いつのまにか静かになっていた新居に取り残される。
寒いのに、身体は熱い。熱いのに、他人の熱は欲しい。内側から、熱を注いでほしい。昔はあんなに拒絶していた他者の熱が、今は恋しい。知りたかったが、知りたくない熱だった。
晶に接触治療を頼んだ日、彼女は「悪くないが、良い、に変わるようになる」と自分に言った。その後、晶に身体を沈めた。想像し得なかった感覚と刺激の強さに、パニックを起こしかけた。本当に死ぬかと思ったが、おかげで自分は正真正銘の人間になれたような気がした。
それから、晶と過ごす時間が増えたのは自然な流れだった。「悪くない」が「良い」に変わり、人並みの生活をスタートできたことで少々浮かれている自分がいた。ふとした時に、気づけば晶の顔が浮かぶ。こんな時に何を考えているのだろうか。額に手を当て、深く呼吸をする。
意識を変えようと、端末からホログラムパズルを展開させた。星のようなピースが室内を漂う。彼は仰向けに転がり、旋回するピースを眺めては摘み取り、型に当てはめていった。いびつな形のパズルを見ていると、今度は黒澤たちの方が心配になってくる。考えるとまた熱が上がりそうだ。やがて朦朧とし始める。この熱はやっかいだ。思考も体力も奪っていく。伊野田は少しだけ瞼に蓋をした。
体中が熱い。この熱は、どこから来ている? 彼は自問した。考えたくないのに、考えることが多すぎる。
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