第二話 若人たちの昼食

フィビオル召喚士学院──ここフィビオル王国にある唯一の召喚士育成機関。

召喚士の才能を持つ少年少女が日々ここに通い、より良い召喚士になるために励んでいる。


学院で学べる事は様々ある。生物学や歴史学などのありふれた勉学、古来より続く人類が編み出した魔術、召喚士として何より重要視される実戦能力など。

中でも学位戦は実戦能力を試すための場だ。学院の生徒同士で戦い、勝利した者は学院内の実力序列が上がる。そして学位戦の結果によって学院の実技成績が決まるのだ。


そうして昼頃、学位戦を終えたアルマは学院の食堂に来ていた。

目の前のテーブルの上には先程注文した日替わり定食。今日のメニューはハンバーグ定食だった。

流石に今日は疲れたので、定食は大盛り仕様にした。戦いで疲弊した体を癒すべく食べ進めていると、


「珍しいわね。貴方が大盛りなんて」


横から声をかけられた。そこにはプレートを持った一人の少女が立っていた。


「リアーナか。今日は疲れたから大盛りにしただけだ」


「むしろ疲れてる時ってあまり食べられないものだと思うけど」


少女はプレートをテーブルに置くと、アルマの隣の椅子に座った。


リアーナ・エインフィール──それが彼女の名前だ。アルマと同じ学院の二年生であり、アルマの学友でもある。

カチューシャが付いた白銀の長髪と、エメラルドのような緑の双眸、窓から差す陽の光に照らされた乳白色の綺麗な肌。

まさに美少女と呼ぶべき容姿を備えている。


「それにしても、よくあんなに長く戦えたわね。いくら持久戦に重きを置いた戦い方だとしても、あのオルバ・ラヴァーグを相手にして、普通そこまで保たないわよ。一応彼って学院序列八位なのよ?」


「最後の方は俺もギリギリだったさ。まさかオルバ・ラヴァーグがあれ程の奥の手を隠していたとは思わなかった。さすがにセラを出さざるおえなかった」


「セラリエルねぇ……貴方の〈半身〉は本当に馬鹿みたいに強いわね」


「その分負荷は大きいし、技を使わせるための魔力消費も少なくない。もしセラを使うなら短期決戦、迅速に勝負を決めなくてはいけない。だからこそセラは俺の最後の切り札なんだ。本人はその扱いに納得してないみたいだが……」


「あーそうだったわね」


アルマの心境を察し、リアーナは静かに同情した。


「まぁいいんじゃない?ただ強くて便利な召喚獣なんて面白みに欠けるもの。癖の一つや二つあってこそよ」


「それを言うなら、君の〈半身〉は変わった癖も無い優秀な召喚獣じゃないか」


「ふふ〜ん。当然よ、私のケルディオスは凄いんだから」


リアーナは自慢気に自身の〈半身〉について語った。彼女にとってはまさに誇りと呼べる存在なのだろう。


「あ、そう言えば貴方に言いたい事があるの。もうそろそろ今年の『召喚士大戦祭』があるじゃない?それに備えて準備しようと思ってて」


「そう言えばもうそろそろだったな」


召喚士大戦祭──年に一度、フィビオル王国の王都で開催される一大イベント。フィビオル王国含め、周辺国の優秀な若き召喚士たちが集まり、競い合う日だ。

フィビオル王国では学院の中でも特に優秀な生徒だけが出場できる。召喚士大戦祭という誉ある舞台への出場権を得るために努力する生徒も大勢いる。

召喚士大戦祭が開催されるのは三週間後、かなり間近に迫っている。

ちなみにアルマとリアーナは既に出場が決まっていた。


「それで、君の準備に俺が何の関係があるんだ」


「ちょっと二人で遺跡行かない?」


「は?」


反射的に困惑の声が出た。


「遺跡?どうしてそうなる」


「もうそろそろ『バビロンの塔』の立ち入り許可が出るでしょ?だから入って魔導遺物アーティファクトを物色しようかなって」


「ああ、なるほど」


理解できた。リアーナは召喚士大戦祭に備えて少しでも戦力を上げるために、魔導遺物アーティファクトを手に入れるつもりのようだ。


「だが『バビロンの塔』は過去に何度か立ち入り許可が出てる。魔導遺物アーティファクトも先に入った人にいくらか取られてるんじゃないのか?」


「それは分かってるわ。だから私たちが目指すのは下層じゃなくて上層。そして手っ取り早く上層に行くために、今回は空から塔に侵入する」


「空からか。だが『バビロンの塔』の上層に直接入るのは……」


「厳しいでしょうね。上層の外壁は魔術による防衛機構が付いてるって話だし。簡単じゃないでしょうけど、早いのはコレよ。それに他の探索者も魔導遺物アーティファクトを先取りするために上からの侵入を目指すはず。一々下層から上がってたら間に合わないわ」


「それはそうだが……出来るのか?確かに君のケルディオスは空中戦には強いが」


「だから貴方の協力が欲しいのよ。貴方のセラリエルと私のケルディオスがいれば不可能じゃないわ」


確かに二人で挑めば確率は上がる。外部から上層への侵入もおそらく可能だ。


「もちろんタダでとは言わないわ。手に入った魔導遺物アーティファクトは二人で山分けよ。貴方だって召喚士大戦祭への準備になるし、悪い話じゃないはずよ」


「…………そうだな。なら俺も──」


「なんだなんだ?面白そうな話してんじゃねぇか。二人とも」


承諾しようとした瞬間、後ろから声を掛けられた。

聞き覚えのある声に二人が振り返った先には、一人の茶髪の少年がいた。


「ローグン?なんでお前がいるんだ」


「なんでも何も、ここ食堂だぜ?昼飯以外の理由があるかよ。まぁ俺はもう食べた後だけどな」


──ローグン・オルフェルンド。アルマにとっては同学年の知り合いだ。

ローグンはアルマの隣の椅子を引くと、そこに座った。


「それで、『バビロンの塔』だったか。良いねぇ、俺もちょうど召喚士大戦祭に備えて肩慣らしをしておきたかった所だ」


「待ってローグン。まさか貴方一緒に来るつもり?」


「ああ。ダメなのか?」


「ええ……ダメでは……無いけど。なんで貴方まで来るのよ」


「さっきも言っただろ。肩慣らしだよ、肩慣らし。俺もお前らと同じ召喚士大戦祭の出場者だからな。当日は強い奴が沢山出てくる。準備運動無しに挑んで間抜けを晒すような真似はしたくないんだ。お前もそういう口じゃないのか?アルマ」


「俺はリアーナに誘われただけだ。魔導遺物アーティファクトを手に入れるために上層から『バイロンの塔』に入ろうって言われて、それに乗った」


「あ、承諾してくれるのね」


「悪い話じゃないからな。俺も魔導遺物アーティファクトは欲しいし」


「なら俺が付いて行っても問題ねぇな。上層から入るなら戦力は多いに越した事はねぇ。学院トップ2の俺とお前が揃えば無敵だぜ」


「それは言い過ぎだ」


「学院最強様は相変わらず謙虚だな。ま、その最強も今年までだがな」


豪快に笑い、強い意志と共にローグンは宣戦してきた。


「今年は絶ッ対に俺が勝つ!今度はも用意してあるんだ。お前もしっかり準備しといてくれよ。じゃねぇと張り合いがねぇからな」


「そうか。ならその時はもう一度君を負かしてやる」


「ははッ!良いねぇ、それでこそ超える甲斐があるってモンだ。召喚士大戦祭でお前がどんな活躍を見せるか楽しみだぜ」


「勝手に期待しないでくれ……」


呆れ気味に言うアルマ。このやり取りも何度目になるか分からない。

過去にアルマはローグンと学位戦で戦った事がある。それも学院序列一位と序列二位という学院の頂点を決める大勝負。生徒も教師も多くの者が注目する試合となった。

なにせ方や召喚士の名家オルフェンド家の生まれである天才、強大な龍を〈半身〉に持つ召喚士、ローグン・オルフェンド。

対するは平民生まれの凡人でありながら、同じく強大な天使を〈半身〉に持つ召喚士、アルマ・ウィルキリス。

結果から言えば、試合に勝ったのはアルマだった。激戦の末に勝利したアルマは序列一位になり、負けたローグンは序列二位に。

アルマにとっては間違いなく最上の結果だった。序列一位となった事で多くの信頼を得られ、さらに学費面の優遇も効かせてもらえるようになった。平民出身のアルマとしては学費が浮くことは大助かりだ。

だがそれとは別に、一つ厄介なものが付いてきた。

学位戦以降、ローグンは度々アルマにこのような宣戦布告染みた事をするようになったのだ。

余程負けた事が悔しかったのだろう。ローグンからライバルのような扱いをアルマは受けている。

アルマもローグンの事は嫌いではないが、勝手に自分の中でライバルとして評価を上げてくるのは辞めてほしいと思う。

どこまでローグンの期待に応えられるか分からないから。


「それで、どうするリアーナ。ローグンを同行させるのか?俺は同行させても良いと思うが」


「そうね……確かに戦力は多い方が良いし、ローグンのガルヴァリオンは空中でも十分役に立つし……分かったわ。一緒に行きましょう」


「よしっ!なら後で予定について教えてくれ。俺はそろそろ行かなきゃなんねぇからな」


言うが早いか、席を立ったローグンは「じゃあな〜」と言って去って行った。


「………俺はこの後は寮に戻るつもりだが、リアーナは?」


「私は『バビロンの塔』についてもう少し調べておくわ。立ち入り許可が出るのは四日後。入れるようになったらすぐに行くつもりだから、貴方も備えておいてね。まぁ六位の私が一位の貴方に言うのもおかしな話だけど」


二人は空になった皿を乗せたプレートを手に席を立った。プレートを返却すると、そのまま食堂を出る。


「それじゃあ……その、貴方も頑張ってね。色々と」


「……ああ」


去り際に言われた同情を込めたリアーナの言葉に、アルマは気を重くした。

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