本名を逆から読んだだけ

知因子雨読(ちいんし・うどく)

本名を逆から読んだだけ

 知因子雨読(ちいんし・うどく)という筆名の由来は本名を逆から読んだだけ。本名を使わないのは有名なキャラと同姓同名なので変えたいなあと思っていて。厳密には漢字は違うけど読みは全く同じ。現実ではコナンと呼ぶ人もいたけど病院など知らない人の多い場所でフルネームで呼ばれるのが苦手。自意識過剰に思われそうだけど僕自身も著名人と同じ名前の人がいると顔を見てしまうので他の人もそうなのかなと勘繰ってしまう。書店員をやっていた頃に何故か名札がフルネームで平仮名だったため完全にコナンの本名と同じ名前で困惑していたら本屋なので当然ながらコナンの単行本を買う客もいて気恥ずかしい思いをした。といっても架空のキャラだから本人なわけないんだけど。漢字は「晴耕雨読」から取った。もともと本名を逆から読むとどうなるかというのは小学生の頃に学校で流行っていて僕もそのことを覚えてた。でも当時はまだ「晴耕雨読」という言葉を知らなかった。つい最近になって筆名を作りたいと考えた際に本名を逆から読むと「ちいんし・うどく」になることを思い出し「うどく」って「雨読」だなとようやく気付いた。しかもこれは読むというところが文章を書くための筆名としても相応しいのではないかと思った。「知因子」には深い意味はないが「因子」という単語があるので「因子を知る」という程度の意味合い。「雨読」と併せて考えると「雨の日に本を読んで因子を知る」という何となく意味あり気な感じの文章になる。謎を解く探偵のイメージもあるかも。

 

 ここまで書いたところで企画の募集目安が2千字程度であることに気付き数えてみるとまだ600字程度しかないので3分の1といったところ。何か書き足さないといけないが題名通り本名を逆から読んだだけの筆名について語るべきことはもう残っていないように思われる。しかしながら何か書かないことには応募できないのでここまでに書いたことを更に掘り下げてみる。まず本名が有名なキャラと同じなのは偶然で僕の方が先に産まれている。といっても珍しくない苗字と名前の組み合わせなので他にも同姓同名の人は結構いる。漢字だとキャラと同じではないので全く同じ人がいればそっちの方が面白い。実際そういう人がいるのも前に検索して知っている。有名なキャラや著名人と同姓同名だと名前を覚えてもらいやすいメリットもあるけど目立ちたくない場合にはデメリットにもなる諸刃の剣のような側面がある。最初に同姓同名の名探偵がいると聞いた時にはまだアニメが始まったばかりでこんなに続くとは予想していなかった。今や劇場版アニメが日本の興行収入の上位に常連となるほどの国民的キャラになってしまったものだから自意識過剰になるのも仕方ないだろう。他にも同じ境遇の人は多数いるはずなのでどう思ってるのか気になるところ。そういや僕がこういう立場になる前に学校の新入生に有名なアイドルと同姓同名の人がいて同級生と一緒にどんな人か顔を見に行ったらアイドルには全く似ていなくて同級生は残念がっていたけど名前が同じだからと言って顔まで似てるわけないのは当然のことだ。それでももしかしたらと思わせる魔力が名前にはある。おいそれと名付けて良いものではないのだ。それと同時に気軽に呼んでいいものでもない。


 映画『千と千尋の神隠し』でも名前を隠すことが呪術において非常に重要な要素だと描かれていた。それで主人公の千尋は本名を名乗ることを許されず千と名乗りハクは真名を呼ばれないと元の世界に戻れない呪いをかけられていた。宮崎駿監督は原作と脚本も手掛けているのでどういう意図で名前を重視したのか気になるところ。登場人物の名前をどうするかという問題は小説などの作者にとって非常に難しい事柄の一つだろう。普通過ぎると既存のキャラと被ってしまうし奇を衒い過ぎると覚えてもらうのが難しくなる。結局の所は好き嫌いの問題とも言えるけどそれこそ有名すぎるキャラと同じというわけにはいかない。僕の場合は自分の本名がそうなので筆名を使うべきだろうかとは以前から思っていた。既に本名で少しだけ執筆活動が表に出たこともあるけど大して知られてもいないことなので数に入らないようなものだ。小説の登場人物の名前に関する文豪のエピソードもある。19世紀に活躍したフランスの小説家オノレ・ド・バルザックは『人間喜劇』という小説の登場人物の名前をどうするか悩みパリ中を歩き回って店の看板などからヒントを得てようやく「マーカス」という名前を名付けたという。この件を日本で紹介したのは夏目漱石『吾輩は猫である』だが皮肉なことに吾輩には名前がない。名前探しの元ネタはバルザックの友人レオン・ゴズランの文章『スリッパを履いたバルザック』だと大学教授の泉利明が論文『『人間喜劇』と名前』に書いている。このように登場人物の名前は学術的命題にもなりうる興味深い事象なのだ。同様に登場人物を生み出す作者の筆名にも深い物語が潜んでいる。(了)

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