消えない流れ星
@k2_in_da_house
第1話
「くそ、エッチまでしたのにふざけんな」
隣のスツールに座るセイヤが、
カクテルグラスの中身を一気に飲み干す。
5杯目。
いや、6杯目だったか。
酒を飲むペースが早いのも、
今日は仕方がないのかもしれない。
「それあんまり男の側から聞けるセリフじゃないよね」
私は自分のネイルを眺めながら答える。
今回のネイルはパープルをベースにしてある。
爪先にはワンポイントのホワイト。
紫は欲求不満の色だと聞いたことがあるが、
あまり気にしていない。
「なんだよ、男だって言っていいだろ別に。」
メニュー表を手に取りながら、
セイヤが口を尖らせる。
「で、なんで彼女に振られたの?まだ付き合って2ヶ月くらいじゃなかった?」
泣きじゃくるセイヤから、
支離滅裂な電話がかかってきたのは2時間前のことだ。
「愛が重いんだってさ。なんだよ重いって。愛されないよりいいだろ。そもそも俺の愛は何キロあるってんだよ。何キロオーバーだよちくしょう」
セイヤはだいぶ酔いが回ってきているらしい。
もともとアルコールにあまり強い方ではないことは、
長い付き合いだからよく知っている。
メニュー表を眺める目が少し眠そうに見える。
アルコールは心の傷を消毒してはくれないが、
それでも飲まないとやっていられないのだろう。
「まぁ女は星の数ほどいるんだから」
私はありきたりな慰めの言葉をかける。
「女は星の数ほどいる、か。」
不満そうにセイヤが呟く。
「そ、振られたなら次に行けばいいじゃない」
「あのな、女が星の数いても流れ星はほんの一握りなんだよ。人生でそう何度も巡り合えるもんじゃないだろ」
メニュー表を一旦カウンターに置いてセイヤが頬杖をつく。
「空を見上げない人間に流れ星なんか見えるわけないでしょ」
私は呆れ気味に返事をする。
「ずっと空なんか見上げてたら首が痛くなっちまうよ。それに、運良く流れ星に出逢ったとしてもすぐに消えちまう」
まったく、この男はああ言えばこう言う。
「比喩よ比喩。なによ首が痛くなるって。」
思わず出そうになるため息を、
グラスの中のカクテルと一緒に飲み込んだ。
「お前は流れ星見たことあるのかよ」
「見えてる」
「は?」
私はセイヤの顔がまともに見れず、そっぽを向く。
「ずっと見えてるわよ。今も。」
自分にしては少し思い切った発言だったかもしれない。
顔が火照っているのはきっとアルコールのせいだ。
「お前、、」
セイヤの声が背中越しに聞こえる。
心臓の鼓動が早くなる。
「ここは店内だし、今お前が見てるのは壁だぞ?」
私は思わず笑った。
「うわ、なんで急に笑ってんだよ。壁を見て流れ星が見えるって言ったり。お前って変な奴だよな」
「あんたには言われたくないわよ」
消えない流れ星 @k2_in_da_house
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