その手の子供

なかむら恵美

第1話

しかし父も、受難であった。

そして我々も、何度も聞いた。しつこかった。

「聞いておこうや」

「お父さんに限って、まさか」

「そのまさかが、曲者(くせもの)じゃんか。光彦(みつひこ)叔父さんだって、

晴美(はるみ)伯母さんだって、揉めてたの、お前、聞いただろ」

血は争えまい。

「そうね。キチンと聞いておいた方がいいわね」

弟の提案を、わたしが飲んだ形だ。


喜寿近くになった父が、長くないと悟ったのは早かった。

若い時から愛煙家であり、甘いモノ好き。自宅では飲まなかったけど、外では浴びるように飲んでいたらしい。

「現代の医学では、一寸」

内臓である。

最期の時に後悔しないよう、ちゃんと面倒を見てやろう、出来る限り揃って毎日、見舞いにゆこうねと、弟と約束をしていたのだ。


病院の大部屋。

仕切られた空間で、我々が父と話をしていると、担当医師が来る。

担当看護婦が来る。各々、今後の予定をざっといい、3,4分で次へと廻る。

「分かりました」

「ありがとうございます」

親子で丁寧に礼を言い、落ち着いた頃。今度、父は我々に詰問攻めにされる。

「隠し子は⁉」

「いるんだったら、正直に言ってね。後々、面倒臭いから」

「叔父さんとこだって、大変だったの、親父も覚えているだろ?」

弟が重ねる。

「いないッ!」

「いる訳ないだろっ!」

その度、真っ赤になって首を横に激しく振っていた。

「そうよね、いる訳がないと私たちも思うんだけど、一応、聞いておかないと」

「そんな話、山とあるし。イザ相続って時に突然、来るらしいから」

「いないったら、いないッ!ホントに俺はいないんだっ!」

(何なの、田畑さんとこは)

トンでも話に関係者はさぞ、ビックリしただろう。


時期を見計らって、ある日突然、現れる。一回忌迄、要注意。


葬儀の諸々、一連が過ぎ。

「さぁて、そろそろ始めますか」

幸いにも(?)父が断じていたように、三回忌を過ぎても、その手の子供は現れなかった。

「受け継がれない血もある、って事ね」

「ンだな」

わたしが言うと、弟は、妙に静かに納得した。


                                  <了>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その手の子供 なかむら恵美 @003025

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画