祝ってもらえたぜ
仁志隆生
祝ってもらえたぜ
あれは勇者達との長い旅の途中の事だった。
アホみたいに冷えるから野宿なんて御免だ、宿に泊まるぞと押し切り、
「おい、今日は夜通しで騒ごうじゃねえか」
俺は言ってやった。
こいつらいつもくそ真面目だから、今日くらいはと思ったが。
「え? いやそう言われても」
勇者が頭を振って言いやがる。
「あのなあ。たまには息抜きしねえとどっかで倒れちまうぞ。そうなったら世界平和なんて実現できなくなるだろが」
「……うーん」
悩んでやがる。
勉強の為だと言ったらするかもだが、今日はそんなの抜きにしてえしなあ。
「あのさあ、なんで今日くらいはなのよ?」
戦士の嬢ちゃんが聞いてきやがった。
「今日は年の終わりだろが。そんで新年を迎えながらだよ」
「なるほど。けどねえ」
嫌なのかよ。
「そうですよ。騒がずにお祈りして新年をお迎えしましょ」
僧侶の嬢ちゃん、おめえはそう言わず勇者となんかしろや。
「あたしは早く寝たいわ。お肌荒れちゃうし」
魔法使いの嬢ちゃん、まだ若えんだから一日くれえ夜更かししたってたいしたことねえだろ。
「……年が明けて昼になって、祝いながらじゃダメ?」
勇者が妥協案でも考えたのか、そう言ってきやがった。
「ん? まあそれもありだが、おめえはその方がいいのか?」
「うん。皆はどうかな?」
「いいわよ。考えてみたらこの時期は誰も攻めてこないしね」
戦士の嬢ちゃんが賛成し、
「昼間からお酒だなんて」
「そう言ってるけど賛成なんでしょ、あたしもね」
僧侶の嬢ちゃんと魔法使いの嬢ちゃんも賛成した。
「んじゃ明日の昼からな」
ふう、なんにせよ乗り気になってくれてよかったわ。
これで俺も遠慮なくだしよ。
そして年が明けて昼になり、宿の食堂兼酒場で。
「おらおら、もっと飲めや」
「そんな一度に飲めないってば」
「飲まねえと嬢ちゃん達にセクハラすっぞ」
「したらコロスよ」
本気の目をするな。
「おっさん、あたいと飲み比べしようぜ」
戦士の嬢ちゃんが言ってきやがった。
「おう、だがおっさん言うな」
「じゃあジジイと言おうか?」
「おっさんでいいわ」
勝負が始まった。
いつの間にかギャラリーが増えていて、どっちが勝つかと賭けてる奴らもいた。
……何杯飲んでもキリがないので俺が降参した。
戦士の嬢ちゃん、なんか知らねえが酒めちゃくちゃ強えんだよなあ。
ふふ、見た目からして俺が勝つと思ってた奴ばかりだったようだな。
こっそり賭けてた僧侶の嬢ちゃんが一人勝ち。やるじゃねえか。
その後で勇者に聞いてみた。
「ところでよ、なんで昼からにしたかったんだ?」
「……ほんとは夜通しでもよかったんだけど、ちょっと手配が遅れたんで」
「は?」
なんだ手配って?
「お誕生日おめでとう」
「え?」
「おめでとう、おっさん」
「おじさま、おめでとうこざいます」
「おめでとねー」
嬢ちゃん達がでっけえケーキを持ってきやがった。
「やっぱり忘れてたんだね。今日はヴォルフスさんの誕生日でしょ」
「あ……そ、そうだったか」
てか名前呼ばれたの初めてな気がするわ。
そうそう、俺はヴォルフスだったわ。
「ってああ、ケーキが来るのが昼になるからって事だったのかよ」
「うん。ごめんなさい」
勇者が謝ってきやがったが、
「いやいいってば。しっかしこのご時世によく用意できたな」
「勇者様のお願いとあっちゃあ何を置いてもですよ」
食堂の女将が来て言う。
「そうかい、ありがとさん」
俺だけじゃそうはいかなかったわな。
「大将、さっきわざと負けてたでやしょ?」
ギャラリーのいかつい男が言ってきやがった。
「マジでやっても負けてたわ。なんならおめえが挑めや」
「見てるだけで無理だって分かりやすぜ。ま、それより俺達も一緒に祝わせてくだせえ」
「おういいぜ」
「じゃあ、改めて乾杯!」
勇者の音頭が食堂全体に響いた。
そこからはもうどんちゃん騒ぎだったわ。
お、僧侶の嬢ちゃんがどさくさ紛れに勇者に抱きついてやがる。
戦士の嬢ちゃんも一緒に。
魔法使いの嬢ちゃんはなんかゴロツキ燃やして……やめてやれ。
俺も皆に酌されてで、いい思いさせてもらってるわ。
ケーキなんて食った事あったっけってくらいだったが、なんつーか今まで生きてきた中で一番美味えもんだったわ。
……ところでな。
いや、言わないでおくか。
俺、自分が生まれた日なんか知らねえってことを。
あのギルド、なんか登録する際に生年月日も書けって言うから適当に書いただけなんだよなあ。
それを勇者達は覚えてたってことか。
ほんとくそ真面目な奴らだわ。
だがおかげでよう、誕生日ってもんを祝ってもらえたわ。
へん、楽しませるつもりが楽しませてもらっちまったぜ。
……ほんとありがとな。
俺、おめえらに会えてよかったぜ。
祝ってもらえたぜ 仁志隆生 @ryuseienbu
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