国罪 ――地図に載らない罪と、静かな狂気
I-kara
■第1章「違和感」:一話(検索できない島)
その島の名前を、インターネットで検索することはできなかった。
正確に言えば、かつては存在したらしい痕跡がある。
学生が差し出したスマートフォンの画面には、スクリーンショットだけが残っていた。
リンク先はすでに凍結され、投稿者のアカウントも存在しない。
引用元とされる資料は、いずれも「ページが見つかりません」という無機質な表示に変わっている。
「先生、これ、知ってます?」
ゼミ室で、学生がそう言った。
長崎県北東沖。
大正時代、金鉱の発見によって急速に発展し、学校や劇場、祭りまで備えた島。
そして戦後、地図から消えた場所。
高島は画面を見つめながら、違和感を覚えていた。
噂話にしては、あまりにも構造が整いすぎている。
人が集まり、資本が流れ、独立した社会が形成され、やがて衰退する――
それは彼が長年研究してきた「繁栄と衰退の典型例」そのものだった。
「怪談には、数字は出てこない」
彼は呟く。
だが、その投稿には、産出量の推移、人口増減、鉱山設備の名称までが記されていた。
しかも、それらは高島の知る一次資料と、微妙に食い違いながら一致している。
おかしい。
合わないのではない。
“合わせ直されている”。
その夜、高島は研究室に残り、古い統計資料を洗い直した。
戦時期の海域調査報告書。
鉱山労働者名簿。
ある地点だけが、抜け落ちている。
まるで、誰かが後から消しゴムをかけたように。
気づいたとき、高島の名前は、大学の来年度講義計画から消えていた。
事務のミスだろう、とその時は思った。
だがそれは、始まりにすぎなかった。
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