家族を捨てた魔法少女、千景【お題フェス11】【祝い】

夕日ゆうや

始まりの日

「これでお前も立派な大人だな!」


 がはははと豪快に笑うのはわたしの義父である勇夫いさお


「そうね。これで私たちのお役御免と言ったところかしら?」


 上品に笑うのは母である葵衣あおい



 わたし、千景ちかげはというとげんなりした気分で手前に用意された赤飯を見つめる。


 何も嬉しくなんてない。


 初潮なんて。


 気持ち悪いだけ。


 わたしは大人になったという両親だが、わたしには全然嬉しくなんてない。


「お前、初潮が来たんだって?」


 義兄がニマニマとした顔を浮かべている。


 わたしの初めては奪われた。


 この義兄である啓矢けいやに。


 両親それぞれの連れ子だったわたしたちは十歳の時に出会った。


 それからずっと義兄には性的暴行を加えられて生きてきた。


 わたしはただ耐えることしかできなかった。


 そして今日、わたしは初潮を迎えてしまった。


 これでは義兄の子を産むことになる。


 それは耐えがたい苦痛であった。



 赤飯を頬張りながら、この現実から抜け出したいと願った。


「ほら。千景も食べて」


 母はわたしが医大を目指していることを知っている。


 頭がいい。そう思ってくれているらしい。


「千景も大人になったか~」


 義父はわたしには優しい。


 いつもそうしてくれる。


 ありがたい存在だ。



◆◇◆



 初潮をお祝いしたその日の夜。


 わたしの部屋にこっそり入ってくる者がいる。


 恐らく義兄だろう。


 きっと今晩も襲いに来たのだ。


「千景ちゃん、いるかな?」


 その声は義父だった。


「どうしたのですか? お義父様」


「いや、なに。どうせならキミも俺の女にしてやろうと思って」


 背筋がざわつく。


 危機感を感じた。


《ねぇ。キミ、助けて欲しい?》


 義父とは違う声が脳髄を刺激する。



「なに、痛くしないよ」


 義父は近寄ってくる。


 わたしを壁際に追い詰めると、そのごつい手で衣服を脱がしにかかってくる。


「あら。あなた。いいことしているじゃない」


「お母さん! 助けて!」


 抵抗するが、義父の力には敵わない。


「ふふ。あなたも私と同じくらい綺麗だもの。仕方ないわ」


「な、んで……?」


 わたしは抵抗することすらできない。


 そのまま行為が始まった。


 だが、先ほどの幻聴は強くなっていく。


《キミを助けられるのはボクだけだよ?》


《ボクに任せてよ》


 嗚呼。こんなことなら確かに任せてみようと思う。


 これが精神的な苦痛からくるものなのか。


 それとも本当に悪魔のささやきなのかはわたしには判別できない。


 だから。


「わたしを助けて……! 悪魔さん」


「ああん?」


《悪魔なんて酷いな。ボクは魔法を使い者。ギフティアだよ》


 義父の訝しげな視線を浴びつつも、ギフティアに助けを請う。


 瞬間、謎の波動がわたしを包み込む。


 弾かれた義父は母の腕に収まった。


 刹那。


 わたしの身体には魔法少女らしく、ピンクのフリルがついた衣服があしらわれる。


「なんじゃ、こりゃ!」


 義父が驚いている間に、わたしの手には杖が握られていた。


 ハートの形をしたステッキだ。


《まずは攻撃魔法。リリスアート!》


「リリスアート!」


 叫ぶと杖の先端から熱線が飛び出す。


 それが一直線に義父を貫く。


「す、すごい……っ!」


 悲鳴を上げる母。


 だが、もう母とも思っていない。


 わたしを生け贄にしたんだ。


 母だけを置いて、さっさと出ていこう。


 実父のくれたノートだけを持って、玄関へ向かう。


「お。千景。コスプレか?」


 玄関には最大の敵、啓矢がいた。


 腹の底からこみ上げてくる熱を抑えきれない。


「あんたが、いなければ!」


 わたしは再びリリスアート、と叫ぶ。


 熱線が啓矢を撃ち抜く。



◆◇◆



 空が真っ暗だった。


 行く当てもない。


 わたしはこの街で独りぼっちだ。


 でも、それでもわたしは生きたい。


 そしてこの世界に問い続けたい。


 なんで生まれてきてしまったのかを。



 でもわかる。今なら。


 魔法処女になった理由が。


 だって魔法少女はみんなを笑顔にするものだから。





 わたしは夜空を駆ける。




 今日は魔法少女になった祝いの日だ。

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