あの子の生首が欲しい

緋色 刹那

(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎

 告白する前にフラれた。


 告白すらできなかった。


 帰り道、私ではない女の子と仲睦まじく並んで帰っていた、あの子。となりには、誰からも好かれる人気者の彼女がいた。


 お似合いのカップルだと思った。思ってしまった。


 泣いた。怒った。悔やんだ。苦しんだ。


 どうしたらこの気持ちを解消できるのか考えた。考えて、考えて……たどり着いた答えは、「あの子の生首を奪う」という、おぞましい所業だった。


 考えるうちに、思い出した。私があの子のどこに惚れたのか。なぜ、ここまで恋焦がれたのか。


 私はあの子の顔が好きだった。

 さらさらと風に揺れる、毛質の細い髪が好きだった。

 吸いつくような色白の肌が好きだった。

 わずかに茶色がかった瞳が好きだった。

 時折、髪の毛の隙間から見える耳が好きだった。

 ついつまみたくなる、小さな鼻が好きだった。

 形の良い、チューリップ色の唇が好きだった。

 透き通った声が好きだった。


 好きだった。好きだった。好きだった。


 ずっと手元にあったらいいのに。そうすれば、ずっとあの子と一緒にいられるのに。あの子の顔を見て、触れて、嗅げるのに。


 だから、私は殺したのです。

 大好きなあの子の、大好きな生首を手に入れるために。


 無防備なあの子の背後へ立ち、細い細いワイヤァを巻きつけ、切り落としたのです。


 一瞬の出来事でした。ワイヤァを首へ巻きつけた瞬間、あの子は悲鳴を上げました。


 何度も何度も私の名前を呼びました。そのまま私の名前だけ呼んでいればいいものを、「助けて」や彼女の名前までも口にしました。


 もはや迷いは消え、私はワイヤァで悲鳴ごと、あの子の首を落としました。首の骨はワイヤーを擦りつけ、切断しました。


 ついに、念願の生首を手に入れ、私は歓喜しました! 服が血で汚れるのも厭わず、抱きしめ、頬を寄せ、接吻しました。


 あの子の顔は恐怖で歪み、口を大きく開けていました。私は美しい理想の顔に整え、大事に抱えて、家へ持ち帰りました。


 もうあの子と私を引き裂く者はいません。彼女は首のないあの子の死体を見て、さぞ恐怖していることでしょう。すがりつき、泣きじゃくることでしょう。


 しかし、その亡き骸はあの子ではないのです。あの子の人格が入っている脳は、私の手の中にあるのですから。


 私は部屋に閉じ籠り、あの子の生首を抱きしめ、眠りにつきました。いずれ、あの子の生首が腐り果て、警察が私を捕まえる瞬間まで。


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あの子の生首が欲しい 緋色 刹那 @kodiacbear

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