放課後ピアノクイズ(後日談)

 さらに後日、逆茂木さんに付き合ってもらい、推理ゲームの答え合わせを行った。なおその内容が『ピアノの技術評価』にもなってしまうため、逆茂木さん以外の女子がいない場所で話をした。


 そしてその答え合わせによって僕たちの音楽センスの無さが浮き彫りになった。彼女たちの演奏に対して偉そうに考察を語れるような身分ではなかったのである。


「実力順の認識が違うんだよね。私が一番上なのは正しいんだけど、次が③の狭間紬か④の石垣深月で、②の堀詩乃が一番下」


「堀さんが一番下?」


 彼女を二番手と見ていた僕たちにとって、それは衝撃的な事実だった。


「彼女は小学生でピアノを習うのを辞めているし、ブルグミュラーの練習曲で挫折してるような子だからね。みんなの前で弾いているのも初級レベルの曲ばっかり。譜読ふよみは弱いし、和音も掴めないし、左手の動きがほとんど無いような……もしくはドソドソみたいな単純な動きを繰り返すみたいな曲しか弾けない。ただ速弾はやびきは得意で、それが派手に聞こえるのかもしれないね。で、彼女はとにかく根気がない。だからつむぎが挑戦しているみたいなクラシック曲は絶対に弾けないし、逆につむぎ深月みつき詩乃うたのが弾くような曲は選ばない──簡単すぎてつまらないから」


 それを聞いて、宗太郎が「狭間と石垣はどっちが上なんだ?」と尋ねる。


「うーん、難しい質問だね。つむぎはショパンとドビュッシーに憧れて三年くらい前からピアノを始めたんだ。まだ基礎的な練習曲をいろいろと弾けるようにしている段階だけど、好きな曲にも挑戦はしてるんだよね。『月の光』とか『亜麻色の髪の乙女』とか、みんなの前でなんとか弾いてはいたでしょ。まだスムーズに……とはいかないけど」


「どれが月の光だったのかも分からないけど、それってそんなに難しい曲なの? ゆったりとして簡単そうな曲ばかり弾いているなぁと思ってた」


 そう言うと、逆茂木さんが無言で僕のことを睨みつけてきた。どうやらまた地雷を踏んで爆発させてしまったらしい。


深月みつきは……まあ、小学生からやっているし、クラシックも『エリーゼのために』くらいのレベルの曲なら弾ける。でも正直なところ不器用な子だし、モーツァルトの『トルコ行進曲』とかは厳しいかもしれないね。ただ猪突猛進で好きな曲を練習しまくるから、結構難しい曲でも弾きこなしたりする……のだけど、人前で──特に異性の前で弾くと緊張のせいでボロボロになるのはご存知の通り」


「ちなみに逆茂木さんはクラシック以外の曲を弾くことを禁止されているんだよね。学校で気晴らしに別のジャンルの曲とか弾いてみたりはしないの?」


 かけるの質問に逆茂木さんはキョトンとした後、クスクスと笑い始めた。


「なるほど、あなたたちはそういう発想をするんだ。でもそれはと思っている人の発想だよ。クラシックが好きならそれを弾くこと自体で十分に気晴らしになるでしょ。私はまだクラシックを弾いていて退屈だとか息苦しいと思ったことはないよ」


 つまり答え合わせの結果として──


・そもそもの実力が不足している堀さんを選んだかける

・クラシックはつまらないから息抜きが必要……と見当違いな決めつけをして逆茂木さんを選んだ宗太郎。

・普段クラシックしか弾いていない様子を軽視して狭間さんを選んだ山田。


 この順に悪い選択をしたと言えるだろう。ミステリーオタクのかけるが最悪の選択をしていたのが、なかなか皮肉な結果である。



***



 なお罰ゲームのため、宗太郎は逆茂木さんに、かけるは堀さんに、山田は狭間さんにそれぞれ告白をした。みんな罰金の一万円よりも恥をかく道を選んだのである。


 そして


 すっかり取り残されてしまった僕は三人から回収した三千円を眺めながら、鬼の形相で僕を睨みつけていた──石垣さんの顔を思い浮かべていた。


 あの一件のせいで彼女からは口も聞いてもらえないほど嫌われてしまっている。さて、この三千円でなにを買えば彼女は許してくれるだろうか?





【了】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る