放課後ピアノクイズ(ルール編②)

「よし、分かった。じゃあ……いくら賭けようか?」


 宗太郎の発言に、かけるがまた表情を歪める。


「宗太郎。このゲームは推理を楽しむものであって、賭け事をするためのネタじゃないんだよ」


「おいおいかける、なにを言っているんだ。麻雀だってポーカーだってゲーム自体は楽しいのに賭け事に使われているだろ。酒にはさかな、ケーキには紅茶かコーヒー。美味しいものだからこそ、引き立て役というのが必要なんだよ」


「金なんか賭けたら、どっちが酒でどっちがさかななのか分からなくなると思うけど……」


 僕がそう言うと、宗太郎はにやりと笑った。


「ほう、マロンちゃんは負けるのが怖いのか」


「いや、こんなくだらないことでお金を使いたくないだけだよ……」


「くだらないこと?」


 今度はゲームの企画者であるかけるが反応する。どうやら僕は言葉の選択を誤ったらしい。


「あ、ごめん。そういうつもりじゃなくて……。くだらないっていうのはゲームがくだらないって意味じゃなくて……」


「だったら賭けられるよね?」


かけるは賭け事やらないんじゃないの?」


「よく考えたら推理小説を読みまくっているボクが推理ゲームで負けるはずがないんだよね」


 かけるは僕の失言をきっかけにスイッチが入ってしまったようである。こうなると僕がなにを言っても意見を変えないだろう。


「山田、お前はどうする?」


「俺はどっちでも良いけどねぇ。ジュース代くらいなら」


「バイト代たんまり貯めているんだろ。よし、各自一万ずつにしよう!」


 宗太郎は言いながら自分で怖くなってきたのか、咳払いしてから言い直す。


「というのは冗談で千円ずつにしよう。山田、これならどうだ?」


「俺は構わないけどねぇ。マロンちゃんは大丈夫?」


 まったく自信のないクイズに千円も賭けるというのは賛同しかねるところだけど、当たったときの嬉しさを想像してしまい──僕は頷いてしまった。


かけるも問題ないか?」


「ふふ、僕は一万円でも構わないよ。だって絶対に当てる自信があるからね」


 すっかりノリノリになったかけることを言う。それを聞いた宗太郎が(おそらく)ルールを追加しようとする。


「じゃあもう一つ賭けるか。確かに千円だけだと緊張感が足りないよな」


 彼は言いながらバッグからボールペンとノートを取り出して、綺麗な字でスラスラとルールを書き始めた。


・四名の女子(逆茂木、堀、狭間、石垣)のうち誰が放課後に「残酷な天使のテーゼ」を弾いているのかを当てる。

・賭け金は千円。各人、四名のうちの一名を選んで賭ける。

・一人が二名以上に賭けるのは不可。また一名に対して二人以上が賭けるのも不可。選択対象が重なった場合はじゃんけんで決める。

・結果として、四名の女子は全員誰かから選ばれることになるため、的中なしのケースは発生しない。また二人以上が同時に的中するケースも発生しない。この前提により、予想を的中させたもの(勝者)は賭け金を総取りできる。

・敗者は全員、罰ゲームを受ける。

・罰ゲームの内容は、各人が賭けの対象として選択した女子に対しての告白! または罰金一万円とする。


「罰ゲーム……?」


 僕の呟きに宗太郎は首肯で応じる。


「ああ、この方が盛り上がるだろ。かける、賭け金は一万でも構わないって言ったよな」


「うん……まあ、ボクは的中させるだろうし、罰ゲームとか関係ないからね」


 言いながら、かけるは少し青ざめていた。今更、失敗するのが怖くなってきたのだろう。


「山田はどうだ?」


「罰ゲームはねぇ。困ったねぇ。リアルの女の子にはあまり興味ないんだけど、一万円払うのも嫌だからねぇ」


 山田の目つきが真剣なものに変わっている。負けられない戦いがここにはある。


「マロンちゃんは……まあ頑張れ」


「僕には拒否権ないの?」


「もう多数決で決まっているからな」


 そう言われて渋々ながら──僕も覚悟を決めた。



***



 しかし納得できていないことが一つあった。それは宗太郎がルールを追加した理由である。


 彼がルールを追加した理由はおそらく『罰ゲームを言い訳に女の子に告白してみたいだけ』である。たぶん四名の中に彼の好きな人が混じっている。


 僕の好きな人と重なってなければ良いのだけど……。

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