葉村昌紀のカメラに残された映像データ

 これは葉村の所持していたカメラに残された映像データである。しかし、完璧な復元ではないため、一部雑音や映像のゆらぎが見える。


 砂嵐が入る。しばらくの雑音のあと、不意に画面が映し出される。遠くから鳥の鳴き声が響く。コンビニの袋を手に下げた葉村が映る。

『……今から我が論文の最終段階へと移行する』

 葉村が旧××神社境内に足を踏み入れる。

『ここには、花蔵遼太郎が生まれ育った黒真島くろまじまと同じ曰くが存在する。神域に立ち入った者は死ぬって曰くがな』

 葉村が社内に侵入する。

『だが、それだけじゃ呪いは始まらない。条件があるんだ』

 葉村が袋から缶ビールを取り出す。

『神域を穢すこと、それが条件だ。例えば……』

 葉村が社内に備えられた花を踏み潰す。

『備えられた花を踏み潰す、とかな』

 鳥の鳴き声が消える。葉村が辺りを見渡す。もう一度足元に視線を落とす。

『この花は、花弁が潰れたとき、触れたものを腐らせる粘性の毒を発する。それが呪いの正体だ。』

 葉村が花を蹴り飛ばす。社に空いた穴に花は消える。

『この土地に黒真島と同じ曰くがあるのは、たまたま気候が似てたから、そんだけだ』

 葉村が缶ビールの蓋を開ける。

『そして、これは強いアルコールで解毒できる』

 葉村が自身の靴にビールをこぼす。

『……こんな単純なことだったんだ』

『こんな単純なことだったのに……あいつは……』

 葉村が空き缶を投げ捨てる。

『……ふざけやがって、憧れてたのに……尊敬してたのに……!』

 葉村はメモ帳を取り出すとビリビリに破り捨てる。宙を舞う紙片が映る。一部に花蔵遼太郎の論文に似た文章が見える。

『……帰ろう。もう、どうだっていい』

 葉村が踵を返す。

 彼の後ろで水が滴る音がして、葉村の動きが止まる。ゆっくりと振り返る。

 カメラがゆっくりと向けられる。

『……何も、ない?』

 もう一度、水が滴る音がする。しかし、何もない。葉村が駆け出す。

 葉村の荒い息遣いがする。山の中を下に向かってあてもなく走る。

『何だよ、何だよあれ、気味が悪い』

 葉村が転ぶ。小さな呻き声がする。葉村が周囲を見渡す。

『もう……大丈夫なのか?』

 葉村がため息をつく。その頭上で木の葉の揺れる音がする。葉村が目を見開く。

『あ、ああ、うわぁああぁ』

 悲鳴を上げて葉村が駆ける。途中何度も転びながらも、山小屋に辿り着く。

 中に入り息を潜める。

 夜が更けていく。

 一時間が経過する。何も起きない。

 二時間が経過する。やはり何も起きない。

 三時間が経過する。空が白み出す。

 三時間半が経過する。葉村は恐る恐る外に出る。

 何も起きない。

 葉村は安堵のため息をつく。長い、長いため息を。そのせいか、葉村が咳き込む。何度も、何度も。

 葉村が口元を押さえていた手を見る。目を見開く。手に、何かが付着している。

 それは蠢く。まるで生きているかのように。

 葉村は叫ぶ。街には届かないというのに。

 葉村は突如、腹部を押さえ出す。なぜか急いで服を捲り出し、それをカメラで撮影する。

 腹部の手術痕に沿って、何かが付着していた。先ほど、葉村の手についていたものと同じものだ。

 葉村は叫ぶのをやめ、ただ泣き出した。

『痛い……痛いって、やだ、やだよぉ』


(画面が乱れて消える)

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