法医学者、春山智晴の最終通信

『やっと取った!! 今どこにいますか!?』

『自宅です。今日は非番なので』

(女性が舌打ちする)

『今、××山の山小屋にいます。助けてください』

『……なぜですか?』

『後で説明します、助けてください』

『担当の者に取り次ぎますので、どうか落ち着いて、状況を教えてください』

『落ち着いてますよ! ××山の山小屋にいます、何かに追われています、助けてください。これで満足ですか!?』

『わかりました。すぐに向かいますので、電話はそのまま切らないでいてください』

(女性が荒い呼吸をする)

『いくつか質問をします。落ち着いて、ちゃんと答えてくださいね』

『それ今じゃなきゃダメですか?』

『はい。お願いします』

(女性が大きなため息をつく)

『……どうぞ』

『ご協力感謝します。それでは、なぜ追われているのか、心当たりはございますか?』

『……わかんないよそんなの。旧××神社に入ったあたりから急に何かの気配がして……』

『……旧××神社とは?』

『は? ……あぁ、あんたここの出身じゃなかったっけ。××山の麓に、××神社ってのがあるでしょ。アレもともと山の中にあったのよ』

『……そうなんですね。ではなぜ、そこに行ったのでしょうか? 何か理由が?』

『あんたが電話取らないからでしょ! 葉村昌紀の靴についてた花の特定が終わったのよ。特殊な花だから、ここらじゃ旧社くらいでしか咲かないはず』

『なるほど、すいません。では、花を探しに?』

『そう。花を探しに来たのよ。まあ、見つけることはできなかったんだけど』

『そうなんですね。では、何に追われているかの心当たりはありますか?』

『わかんないわよ! 気配がして旧社を出た後から、ずっと音がついてくるの! すぐ近くまで音が来てるのに、振り向いても何もいない! どうやって説明すればいいって言うの!?』

『すみません、できる範囲で構わないので、お答えいただけませんか?』

(女性が泣き出す)

『……春山さん?』

『……旧社に入ったら、すぐ後ろで何かが落ちる音がした。熊の首だった。腐り落ちたみたいで、体は木の上にあった』

『……続けてください』

『驚いちゃって、熊の体に近づいて、よく観察したの。そしたら、葉村昌紀の体に生えてたのと一緒の菌糸が、熊の体を覆ってた』

『菌糸……ですか?』

『そう、菌糸。蠢いてた。気持ち悪くて、後ずさりしたその時、木の後ろに気配を感じた』

『それが……追ってきた?』

『そうよ。ねえ、まだ救助は来ないの?』

『……来ませんよ』

『なぜ!? もうかなりの時間が経ってるじゃない』

『春山さん、あなたは今どこにいる、って言いましたか?』

『はぁ!? だから××山の山小屋だって!』

『……私は警部補になってまだ日が浅いですが、この街で巡査として働いてきました。子どもが行方不明になったとき、山小屋まで探しに来たこともあります』

『何の話をしてるわけ? 助けてってば!』

『そのとき、私たちは無線でやりとりをしてました』

『ねぇ、助けてよ』

『なぜ、電話が繋がっているのですか?』

(電話が切れる)

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