第20話 過ぎた不安

あの日をきっかけに、悠真の元を訪れる人数が増えてきた。大体暇をしているので呼びかけに応じて出掛けると、ほぼほぼ日が沈む頃に帰ってくることになる。減ったり増えたりするものの、例外無く貨幣の入った袋を手にしている。


 「今日も盛況でなによりです」

 「まーな、疲れるけど……何もできなかった以前よりは大分マシだ。コレで一人暮らしも夢じゃないよな」

 「いえ、それは無理ですね」

 「くそー!俺はいつまでレオンのお世話になるんだ!」


 いつものように袋を受け取ったレオンだが、違和感を覚えた。なにやらズシリと重い、中を確認すると一枚の金貨が原因だった。


 「コレは……」

 「綺麗だろ?俺にはよく分からないが……どれくらいの価値が有るんだ?」

 「普段の十倍ですね」

 「じゅ……!?」


 ヘラヘラ笑っていた悠真の動きがピタッと止まる。


 「な、え……は?」

 「良かったじゃないですか、誰から貰ったんです?」


 眉間にシワを寄せた悠真が必死に記憶の破片を引き寄せる。


 「恰幅の良い、俺より年上のオッサンだったな……いつも俺のことを悠真様って呼ぶんで覚えてたんだ」

 「おや、多分その方はユーマさんの事を高官か何かと勘違いしてるんでしょうね」


 レオンの口調は楽しげで、クスクスと笑っている。


 「この黒髪のせいでか?」

 「えぇ、以前にも言いましたが黒髪は能力の表れですので」


 渋い顔をして思案を重ねた悠真が重たい口を開いた。


 「すまんレオン、その金貨は俺に預けてくれ」

 「勿論です、やっと物欲が湧いてきましたか?」

 「違う、キチンと説明して謝ってくる。騙して金を巻き上げるのはフェアじゃない」


 思わぬ返答にレオンは虚を突かれた。


 「後々バレたほうが面倒だし、そうなるとレオンの顔に泥を塗ることになる」

 「ユーマさんの選択に任せますよ」

 「居候の分際で偉そうな事を言って悪いな」


 金貨を受け取った悠真は内ポケットに大切にしまった。


 「また会う時まで無くさないようにしなきゃな」


 後日、いつものように呼ばれた悠真は釈然としない表情で戻ってきた。


 「なにかトラブルでも?」

 「いや……例のオッサンに金貨を返そうと思ったんだけどな……」


 広げた手のひらには依然として金貨が乗っている。


 「そのまま返された。俺の地位じゃなく行為に払ったんだと言われて……」

 「こうなったら、素直に受け取るべきですよ」

 「胃が痛いわ……なんか疲れた……」

 「いつもソレくらい貰えたら、一人暮らしできますけどね」


 レオンが金貨を含め、貨幣の入った袋をしまいに行く。


 「金を稼ぐって……塩梅が難しいな……」


 悠真は今までに感じた事の無い疲労感で、椅子の上でグッタリとしていた。

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