第10話 予想外の無能力さ
昨夜のスープの残りを啜りながら、悠真は悩んでいた。異世界に居るはずなのに日本文化の欠片が混じってくる違和感もそうだが、それよりなにより……
(思いの外何も出来ん……)
魔術を扱えることが前提のこの世界に置いて、能力の無い悠真は当然火をつける事すらできないのだ、何せ相手は指先をライター代わりにしているのである。となるとマッチすら無い。そもそもマナーもタブーも分からないので、今の悠真にはそこら辺が全て立入禁止領域に見えた。
(余計な事をせず飯食って寝るだけが安全策だとは思うが……いくらなんでも申し訳無い……)
どうぞ食べてくださいと鍋に用意されたスープを食べないことも躊躇われ、せめて具は減らすまいと液体だけを啜っている。
(あぁ……無駄に思考が後ろ向きだ……分かってはいるが止められない……)
心の奥底の憂鬱がスクスクと育っているのを感じていると、玄関の扉を叩く音が聞こえた。
「レオンー、ユーマー、いるー?」
(この声は昨日の……セリアさん?だったかな……勝手に開けるのは……いや、俺の名前を呼んでるよなぁ)
しばし考えたが、放っておくのも悪いと思い対応に出る。
「なんだ、いるじゃない」
「残念ながら俺一人なんだ、家主は色んな手続きに出てて……」
言いながら、セリアの後ろに男が立っているのが見えた、レオンより余程大きくガッシリとした筋肉質な体、特徴的な燃えるようなうねった赤い髪、腰に何かぶら下げていて、そのシルエットは斧のように見えた。男は二カッと豪快に笑う。
「よう!お前が噂のユーマか?俺はガルドって言うんだ、よろしくな!」
差し出された右手を反射的に握り返す、記憶に近いのは柔道家だがそれよりも肉厚で重く……そして熱い。
「おぉ、そうそう、俺は悠真だ……よろしく」
「アンタの話をしたらね、ガルドが興味持って会いたいってさ」
「俺のことを話したのか……セリア……さん」
「別にセリアで良いわよ」
「なぁ二人とも、ココじゃなくて中で話そうぜ!」
ガルドの熱気に押しやられるように、悠真とセリアは室内へ入っていった。
「はい、お水」
勝手知ったる他人の家とばかりに、コップに水を注いで配るセリア。
「ありがとう、で?何だって俺なんかに興味を持ったんだ?」
一瞬でコップを空にしたガルドが顔を向ける。
「なぁオッサン」
「オッサンて……まぁ良いけどな」
「森の中でスライムに会ったらしいな?」
(スライムは通じるのか……ああもうイチイチ反応するのも面倒くさい。そういうものとしとこう)
「そうだが……何か変か?」
「目の前を通り過ぎたらしいじゃないか」
「そうだな、ナメクジみたい……って言っても分からないか、取り敢えずズルズルと動いて行ったぞ」
話を聞いていた二人が各々考える仕草をする。
「そう言えば、魔物が人を前にして何もしないなんて……聞いたこと無いわね」
「だろう?オレもだ」
「そうなのか?」
(この世界の基準がイマイチ分からないな)
顎に手を当てて宙を見ていたガルドは、目線を悠真に定めた。
「是非!見てみたい!」
「マジか……」
(つっても、何かしらの役に立つならその方が良いよな……)
「よし、行こう……とは言え、俺が行って大丈夫か?」
「心配しないで、ガルドは凄く強いんだから」
「そうだ!安心しろ、俺に敵う奴はいない!」
(騒がしい奴だ)
(でも……なんだかんだ言って楽しいな)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます