原風景

光雨

原風景


私の心の在処

私の心が帰る場所

他に持ち合わせていなくても

帰る場所がここにあるから良いのだと

そう思えていた

だから私は幸せでいられた


帰る場所はここにしかない

疑わなかった

その割には

悲しさや孤独を感じることがあった


それでも

排して


排して


この場所だけを愛して


私たちだけの場所

私たちの場所

依存していた


流木が流れ着くあの海と

目には夕暮れ水平線

雲が滅多に飾らせはしない

縹色の天頂下

凪の世界で風は息を止む

頬を撫でるのは潮騒で

同じ波が引いては寄せた


安らぎは変わることのない日常にある

理由もなく何度も訪れたあの場所が


私の見ていた原風景


変わってほしくなかった

あの場所も

あの人も


あのままで居たかった

あのままが痛かったとしても


壊したのは私だけじゃない

私の理想とあなた達の変化

より多く壊したのは私

だからってもう

今更あなたに謝りたくない


帰りたかった

独りで帰りたくなった

綺麗な思い出しか見ていないけど

もうその中にあなたはいない


『歩けばまだ、辿り着けますか』


『この距離感を埋められますか』


そんなことはもう、考えはしない


硬い弦のように私たちを強く結ばせていた

あの風景を断ち切って

今の形を知らないあの風景に

私独りの過去を重ねて


『あの頃のままでありますように』


そんな戯言

本気で願っていた


独りになるタイミングで

都合悪く思い出す

足跡が散らかる

美化されたあの場所を。

砂はまだ待っている気がする



孤独を飾る海が独りの海岸線


私の見ている現風景









 

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原風景 光雨 @HikaRi_aMe

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