第7話 〖Analysis〗


バタン


からからーん


喫茶店のベルが鳴る。


「いらっしゃ、小鳥遊クン?!」


僕はマスターに駆け寄り、角がマスターに刺さらないようにして胸元で気を失ってしまった。

会ってから日は経ってないがやはり、

彼が家を襲った老人などとは考えづらい、

…というか考えたくもない。


「_知ってる天井だ。」


外からちゅんちゅんと鳥のさえずりが聞こえる。

首を横に向けると、心配そうな顔をするマスターと保科さんがいた。


「小鳥遊、大丈夫?」


「起きた小鳥遊の顔も、グッド、ナイス、オーサ_」


ごつん


「言わせないよ、マスター。」


届きそうで、届かない幸せに、わははと笑う。


「小鳥遊クン、とりあえず何があったのカ、私に教えて欲しイ。」


「…分かりました。」


それから僕はマスターと保科さんに公安の特別災害対策部隊、通称SDTが現れたこと、そして


「家に帰ったら、母と、老人が居ました。」


「恐らく、公安の人だと思います。その人が、母を連れていきました。」


少し、情報を隠した。マスターと老人が似ていたなどと言えば、保科さんに余計な不安を与えてしまうと思ったからだ。


僕の話を、2人は静かに、だけど相槌を入れて聞いてくれた。

しかし、


「公安局長の前で公安の話をするのは、些か馬鹿げてるんじゃないかな、僕はそんな指示、出してないよ。」


この2人では無い誰かの声がした。

はっ、と起き上がり辺りを見渡す。

窓際の席に、銀髪で青い目をした男性がいた。

グレーの首まであるセーターに、深緑のジャケットを羽織る彼が持つコーヒーの湯気は、朝日に照らされてキラキラと光っていた。


「やぁ、初めましてかな。新人さん。」


「マスター、あの人は?」

恐る恐る尋ねる。


「小鳥遊クン、紹介しよウ。彼は現公安局長、浅井ルドルフ、ダ。」


「ルドルフでいーよ。」


爽やかな笑顔で手を振る。


「えっ、えぇ…」


もうよく分からない。

あれ、でも公安局長ってことは…


「僕を捕まえないんですか?ルドルフさん。」


無意識に口から出てしまい、慌てて口を覆う。

だけどルドルフさんは笑って返した。


「僕はここの常連だからね。小鳥遊君を捕まえることはないよ。いざこざが起きてここのコーヒーを飲めなくなるのは惜しいし。」


コーヒーを1口、啜る。


「それじゃあ、僕を人間として見逃すのは…」


「それは無理。そうしたいのは山々なんだけどね。」


「それに、僕の部下はもう動き出してる。現時点で逃げるのは不可能だと思っていい。」


「全員倒せたら、上も少しは言うことを聞くと思うけどね。」


僕は少し俯く。


「まだ31日ある。君がその力を使いこなせるようになったら、勝算はあるよ。」


「端的に言って、君の力には社会的な欠陥と、純粋に能力としての、大きな欠陥がある。」


ルドルフが二本、指を立てる。


「一つ。これは君も感じたんじゃないかな。『バレてはいけない』という恐怖そのものが変身条件のひとつになってしまっている。」


「とどのつまり、公安側が何もしなくても、小鳥遊くんは日常生活を送るうえで社会的に死ねるってこと。」


中指を折る。


「そしてもう一つ。これは戦ううえで、あってはならない矛盾だ。」


「君は、100%の力で相手を殴ることができない。例えば、今の実力では到底勝てない相手が、怖い、恐ろしいと思っている時の君は最強と言っても過言じゃない。」


「でも、強敵と戦うときはどうしてもその感情を捨てなきゃならない。」


「怖い、逃げたいと思いながら自分より強いやつを倒すことは、どう頑張っても出来ないんだ。」


『__殺意に変わったんダ。変身も解けル。』


あの老人の言葉が頭の中をぐるぐる回る。


「自分が死んでもいい、全てを懸けると覚悟を持って放つパンチが、平均以下の人間の弱いパンチだ、これほどの欠陥は無いよ。」


「…急にこんな話をして申し訳ないね。でも、本来敵であるはずの君にこれを教えたのは訳があるんだ。」


「…訳?」


「君は優しい。優しいから、恐怖するんだ。それはプレデターにはあるはずのない感情だ。」


「君は、世界でいちばん優しくて、それでいて臆病な破壊神だ。」


「上も下も頭が固くてね。ちょっとお灸を据えたいなって思うんだ。」


ルドルフさんの青い瞳が僕を吸い寄せる。


「まあ、ビビりで弱すぎるから公安とは相手にならないってのが本音だけど。」


……すべて事実なので、何も言い返せない。


「だから、ワタシが小鳥遊クンに、稽古をつける。」


マスターが胸をどん、と叩いて言った。


「ああ、マスターがやってくれるなら安心かな。お願いします、マスター。」


「ああ、任せとけケ。」


ぐっ、と親指をルドルフさんに向けた。


「じゃあ僕はこの辺でお暇しようかな。コーヒーおいしかったです。また来ますね、マスター」


カッ、と空になったコーヒーカップをテーブルに置く。そして去り際に僕にしか聞こえない声量でこう言った。


「シリウス隊長、いや、マスターは公安の中でも鬼って言われてるから、覚悟しなよ。」


そしてルドルフがノブを掴む。

しかし、その瞬間


ぎぃ、がしゃぁぁぁん


大正風のレトロなガラス張りのドアが音を立てて店の外の方向へと倒れた。


その場にいた全員が呆気にとられる。


ルドルフさんの首が、ゆっくりこちらを向く。


「…これってさ、小鳥遊くんのせいなんじゃ…」


「違うヨ。」

食い気味にマスターが否定する。


「修理代は小鳥遊くんが払うべきじゃないかなぁ、ほら、稽古つけるお金としてさ…?」


ルドルフの額に汗がひとつ、ふたつと滴る。


「知らないネ。」


「請求書、送っとくカラ。」


その後、マスターとルドルフさんで数分間の口論になったが、最終的にルドルフさんは諦めてトボトボ帰っていった。


…昨日は”プレデターのまま”ドアを勢い良く開けたのを思い出す。

大人ってズルいなぁ、と思った。


でも、マスターは信用できると思った。

だから、僕が公安に追われなくなったらマスターにあの老人のことを話そうと思った。


第7話 〖Analysis〗

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