AWESOME!!!

第1話 〖ANOMALY〗

「ありがとうございましたー」


缶ビールと卵サンドウィッチ。仕事終わりのこれは格別だ。中でも特に…


「おっ、あたりだ。」


ガリガリくんは外せない。大人になった今でも、こんなものを求めるとは俺もまだまだ子供なのだろうか。中心が残るガリガリ君をくるくる回しながらふと、物思いにふける。


「氷河期世代ねぇ…」


ニュースや新聞ではたびたび流れてくる。かくいう俺も内定に落ちまくり結局は地元の零細企業だ。

…ずっと一人でこんな生活をしていて明日はどうなるんだ。明後日は?来年は?


「あーー、もうやめた!」


アイスを頭からかぶりつく。頭にキーンと走る痛みは考えたくないことを忘れさせてくれる。


ふと、星を見る。田舎のいい所は満天の星空がよく見えるところだ。

アルデバランの宝石のような深紅の瞳が俺をじっと見る。


「あれ…なんだ?」


アルデバランの横に緑色の星がある。あんなもの、図鑑には載ってなかったはずだが…

そう思ったのもつかの間、それはどんどん大きくなっていく。そしてアルデバランを飲み込み、俺に近づいてきて


「綺麗ばい。」


そう言う俺の頭上を通り過ぎて行った。


「__じゃあ次は教科書202ページを開いてー」


「1999年、11月15日。ここ、今の第二東京都である旧茨城県に隕石が落下しました。この中には宇宙人、もといプレデターが入っており、人類に甚大な被害をもたらしました。」


カッカッとチョークの音が教室に響く。


「2010年、12月25日。」


「この日は何が起きたでしょうか。小鳥遊くん、答えてみて」


「…なんて言いましたっけ?先生。」


「小鳥遊くん、授業は真面目に聞きましょう。…」


先生の顔が怒りを通り越して呆れてるように見えた。


「…いいですか。よく聞いてくださいね。」


「2010年12月25日。現在の旧東京都で新種のプレデターであるサタンが出現しました。みなさんが生まれたばかりの頃ですかね。これを東京サタン事変と言います。」


「サタンの活動の影響で、東京の首都機能が壊滅し、日本のGDPは世界7位を下回りました。ここの年号にはマーカーしておいてください。」


授業のチャイムが鳴る。もう昼食の時間だ。


でも、プレデターは悪いことだけをしたわけでは無いと僕は思う。なぜなら


「おばちゃん、プリンひとつ。」


「あい、ポイント3つね。」


このプレゼント制度があるからだ。

社会奉仕などでポイントを貯めれば、

なんでも交換できるというもの。

昔はこれでプレデターが地球を支配しようとしたらしいがどうやってしたのかはよく分からない。

他にもプレデターが人類にもたらしたものは沢山あるが、

それはおいおい説明しよう。


太陽が沈む。

そんな大災害があったのにも関わらず、十年程経つと人々の恐怖は砂時計の砂のように減っていった。

それは新型コロナウイルスや、弱体化した日本を狙った中国との第2次日中戦争と同じようなものだ。


しかし、プレデターのその深緑の角は、今でも恐怖の象徴であり、恐れられると同時に人類の叡智を超えたものと崇められてもいるらしい。


商店街だった道を通る。

シャッターが風にあたりがしゃんがしゃんと叫ぶのにはどこか寂しささえ感じる。


「…?」


いや、この音はそうではない気がする。何か、人が叫んでいるような…


そう思うのと同時に僕は勝手に音の主へと駆け出していた。


「ほら、俺達といい事しようよ、」


金髪のモヒカン男が口を開く。

周りの2、3人の坊主は取り巻きだろうか。

モヒカン男の言葉にそうだそうだと喚いている。


肉屋だった場所の隣の路地裏では、誰かがナンパされていた。相手は…


「保科さん?!」


「小鳥遊?!」


互いに目が合う。まさか同級生だったとは。

急いで、助けなければ、早く、速く!


「…なぁそこのボクちゃん、立ち止まってるだけで何してんの?」


「…えっ?」


足が、動かない。

小鹿のようにビクビク震えるだけで動くことができない。

モヒカンの後ろでは、保科さんが目をわっと見開いて僕を見ている。


なんで、なんで。動けよ、僕の体!!

この感情、僕はどこかで感じたことがあるような気がする


これは、


ああ、あの時か。東京に住んでいたあの頃。

思い出さないでおいた記憶。


「__お父さん、今日くらい遊んでよー」


1人の子供が言う。


「お父さんは仕事忙しいから、また後でな。」


キッチンから良い匂いがする。今日はカレーか。

まぁ、遊ぶのはまた今度にしてやろうと少年が思った途端


バジャア


視界から少年の父が消えた。

半壊した家と同じくらいの大きさのプレデターが少年の父を食べるのを、少年は何も出来ずにただ、膝から崩れ落ちながら見ることしか出来なかった。


その感情は、


「とりあえず、ボクちゃんこっちおいでよ、中々可愛い顔してるし__」


どんっ


何かが壁にぶつかる音がする。恐る恐る目を開けると

目の前ではモヒカン男のモヒカンが壁にめり込んでいた。

いや、それよりも。

僕の手の血色が悪くなっている。

だけど少し筋肉質になってるような…?


保科さんを見る。取り巻きも逃げたようだ。

とりあえず保科さんの無事を確認しなければ…


「キャアアアアア」


保科さんが金切り声をあげる。カラスが2、3羽飛び立った。


「小鳥遊…だよね?」


「うん、そうだよ。」


少し声が野太いが、まぁ変声期だろう。


保科さんがさっきよりも目を見開いているように見える。


そして鞄から手鏡を取り出し、僕の前に出して見せた。


蛍光色の緑の皮膚、

白目のない真っ黒な目と耳まで裂けた口。

そして頭には、


僕の拳ほどの大きさの深緑の角が1本、生えていた。


これは人間と言うより…


「ぷれ…でたぁ?」


ボイスチェンジャーで変えたような低い声でそう呟く僕はどさっと倒れてしまった。


大丈夫と声をかける保科さんの声が

どんどん遠のいていった。




「__知らない天井だ。」


手を挙げて見る。色は薄橙で血も通ってる。やはりさっきのは夢だったか。


…そう思いたいのだが。


「寝顔も良かったケド、元気なキミの顔もグッド、ナイス、オーサム!!!」


僕の眠るソファの隣には黄色の着物姿で坊主に眼鏡、オマケにアフリカの血を感じさせる肌の色をした男がいた。

思わずソファから離れカウンターの椅子に背中をぶつける。


「すみませんが、どちら様で…」


「とても失礼で、私サッドネス!」


「あっ、起きた?小鳥遊。」


緑色のエプロンを着た保科さんに少しドキッとする。


「驚きしかないだろうけど、紹介しておくね。」


「この人は、シリウス・オー・サムさん。」


「マスターって呼んでネ」


「見てわかる通り、ここはマスターの経営する喫茶店。私のアルバイト先で、いつも良くしてもらってるんだ。」


「えっと…まだ飲み込めないとこばかりだけどさ。」


「保科さんはなんでその、マスター?の所に僕を連れてきたの?」


「あー、それは…」


「私、モトモト公安の人間。」


「えっ」


「プレデター結構詳しいヨ」


「なんでわかんない事にわかんないことを積み重ねるの…」


ため息混じりに保科さんが言う。


「…マジメな話をするネ。」


眼鏡が白く光る。

辺りの夜が彼に味方しているように感じる威圧感は

痛みすら感じる。


「キミ達の知っての通り、プレデターは今でこそそう思われてないが、この世の悪で、憎むべき存在ダ。」


「保科サンの願いだから入れたケド、キミがプレデターなのか、人間なのかは分からない。」


なるほど、と思った。でもどうやって人間だと証明するんだ。


「保科サン」


「えっはい。」


「ナンカ秘密の質問とかないノ??」


マスターの顔がニンマリとする。初めからこれがしたかったのか。


「………」


「そしたら、小鳥遊。私の目を見て。」


保科さんのキリッとした目と目が合う。ボーイッシュなウルフカットは彼女になかなか似合うと思う。


「なんか別のこと考えてない…?」


「…いいや、じゃあ質問するね。」


マスターの固唾を飲み込む音が聞こえる。


「小鳥遊が___をした時の___は?」


「___。」


即答であった。朝飯前であった。食い気味であった。


殴られた。ニヤニヤしてるマスター共々。


「これでいい?」


保科さんの語気が強めになる。


「ウン、分かった…」


「まあ、気を取り直しテ、ネ?」


お前が始めたんだろ、と突っ込む気力にもならない。


「本当に真面目な話をするネ。」


「私は本当に公安の人間だっタ。これは信じて欲しイ。」


「東京が壊滅したあと、日本の省庁は参勤交代制になった。これは知ってるかイ?」


「はい。東京サタン事変の反省を活かして一極集中を防ぐために首都水戸市以外にも沖縄や北海道各地に2つづつ省庁を配置したんですよね。大臣はそこに参勤交代みたいに行ったり来たりするみたいな。」


「例えば、警察庁は福岡とここ水戸市にあったりね。今は水戸市に警視長が居たっけ。」


保科さんが補足する。


「それが、僕がプレデターになったことに関係が?」


「ウーン、あるとも言えるシ、ないとも言えるシ…」


「ハッキリ言ってわかんないのキミ。プレデターが人に戻るのは公安でも聞いた事ない。」


「つまりは…?」


「キミは謎の存在。政府に見つかったラ即ペット。」


「一生日の目を見ることはないネ。」


顔から血の気が引ける。


「そういえバ、キミはどうやって変身したノ?」


「確かに、私も気になる。」


「あの時は確か…」


今一度、あの時を振り返ってみる。


「…怖かった。保科さんがどうなるのか分かんなくて、親父みたいになったらどうしようって…」


「恐怖、ネ。今はまだ仮説段階だけどなんとも皮肉だネ。」


「…もう帰ってもいいですか?夜も遅いですし。」


喫茶店の中にある鳩時計は21時を指していた。


「オフコース、と言いたいんだけド…」


「保科サン、手鏡を。」


手鏡を受け取る。


「…は?」


血の通った薄橙の肌には


先程より大きくなった深緑の角が生えていた。


「だから、しばらく家も学校も行けないカモ…」


いや、でも明日は…


「期末考査が…あります…」


「…ジーザス。」


茶色の坊主頭がペチンと音を立てた。


第1話 〖ANOMALY〗

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