魔獣の卵
ちかえ
害獣の卵vs新人魔法使い
男は目の前の大量の卵を前にほくそ笑んでいた。
俺は天才だ、という言葉が彼の頭の中を駆け巡っている。
これらはみんな魔獣の卵だ。ありとあらゆる種類の魔獣の卵を採集して来たのだ。
男も普段は魔法使いとして魔獣を狩っている。でも、死闘を繰り広げないと魔法の素材が集まらないというのはきつい、とも思ってしまう。
そこで考えたのがこの作戦なのだ。
幼体はそんなに危険はない。なら、孵化する前に集めてしまえばいいのだ。そうすれば、楽に素材が取れる。
この中には倒すのに危険が伴う害獣の卵もある。害獣は人に危害を与える魔獣の事で、退治するととても感謝される魔獣だ。
幼体から倒してやれるのだからみんな自分に尊敬の念を抱くだろう。
それもただの害獣ではない。人を惑わし、考える力を奪い、倒れた所を食らってしまう恐ろしい毛むくじゃらの害獣、『パンタシア・ラーナ』の卵まであるのだ。
きっと、幼体ならちょっとぼうっとするだけで大した事はないだろう。そして倒せば、自分は一躍有名になるに違いない。『パンタシア・ラーナ』を退治するというのはそういう事である。
独り立ちしたばかりとはいえ、未だに子供扱いしてくる母親にも認めてもらえるに違いない。
母は男の魔法の師匠でもあるのだ。でも、自分の仕事場に来て『ちゃんとやってるかい?』とか言われると腹が立ってくる。
それにその母親も害獣を倒すのに創意工夫は大事、などと言っていたし、きっと褒めてもらえるだろう。
よくこんな作戦思いついたね。最高の弟子だわ、なんて母が言っている姿を思い浮かべて男はニンマリとする。
その時、カタカタと卵が動いたのが見えた。パンタシア・ラーナの卵だ。
パンタシア・ラーナは幼体でも大きいという。それを倒すのは庭がふさわしいだろう。男はワクワクと卵を抱えて家の外に出た。
マナを込めた武器を構え、孵化を待つ。
「ああ! これで俺も一人前の魔法使いの仲間入りだ!」
揺れる卵を見つめながら男は満足そうに呟いた。
目は卵から離れない。それはきっと高揚感からだろう。集中しているからなのだ。
卵にヒビが入る。この害獣の幼体は始めてみる。どんな姿をしているのだろう。
幼体を見る事しか考えられない。でも、男はそんな違和感には気づかなかった。
卵がかえる。綺麗な青い毛をまとった生き物がそこからあらわれた。
男はそこから目が離せない。武器も手から滑り落ちる。
そのまま、男は膝から地面に崩れ落ちそうになった。
「ルーチョ、危ない!」
その瞬間、眩しいほどの光が満ちる。ギャアアアア! という悲鳴が何度も何度もあたりに響き渡った。
続いて頭に馴染んだ衝撃が振り下ろされる。
「何やってんの!」
男がそっと目を開けると、杖を構えた母が仁王立ちしていた。
しかも、目の前にはもう倒された後のパンタシア・ラーナが何故か大小二頭いた。何故増えたのか男にはさっぱり分からない。
「えっと、これ、何?」
「自分の子供をを攫われたって気づいたパンタシア・ラーナが、卵にいる子供と連携して、誘拐犯をどうにかしようとしたんだねえ」
たった今、自分で倒したばかりなのに、男の母親は他人事のようにそんな事を言っている。
どうやら母は、パンタシア・ラーナの怒りのマナが息子の家に向かっているのを感じて慌てて飛んで来たらしい。
きっと母が来なければ自分は殺されていたのだろう。そう考えて、男は体を震わせた。
なんでこんなものを持って来たんだ、と尋ねる母にきちんと経緯を説明する。母は呆れたようにため息をついた。
「害獣の強さをきちんと調べないでズルをしようとするからバチが当たったんだよ!」
それはその通りだ。男はがっくりと項垂れた。
「やだ。お隣の幻獣の卵もあるじゃない! 幻獣は人間に協力する魔獣だから退治しちゃダメ!」
家の中に入った母が何故か彼の卵のコレクションを見て大騒ぎをしている。
「あんたまさか盗んで……」
変な嫌疑までかけたれた。あまりの濡れ衣に男はムッとする。
「いや、お隣さんからは卵を買ったんだ……」
「まさか倒すためとは思ってないだろ。その幻獣を使役すると思ってるんだよ、きっと。倒したって聞いたら卒倒するわ! 返してきなさい! それかちゃんと責任を持って育てなさい!」
なんだか犬や猫を拾って来たような言い方をする、と男は苦笑した。
独り立ちを返上してこっちでもう一回しっかりと修行させたほうがいいか、とまで言われる。
この師匠には敵わないのだろう。
どうやら害獣退治にこういうズルはいけないようだ。男はしょんぼりとうつむいたのだった。
魔獣の卵 ちかえ @ChikaeK
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