丙午の午前零時零分零秒の大吉配送センター 【読み切り短編】

ヒトカケラ。

零秒支局、開局

2026年1月1日、午前0時0分0秒。


 私は、カクヨムの「公開」ボタンを押した。


 ペンネームは織守紬おりもりつむぎ

 物語を織って、誰かの一日を守れたらいい——そんな願いを、名前に忍ばせた。


 新年の最初の一秒に、自分の言葉を置く。

 新人書き手の私にとって、年越しより大事件だ。


 ……なのに。


 画面が一瞬、真っ白になって。


 次の瞬間、見慣れない表示が出た。


縁起局えんぎきょく零秒れいびょう支局】

丙午ひのえうまプロトコル:火力過多につき、年始配送を臨時委託します。

火の絵馬便ひのえまびん』を起動してください。


「……は?」


 私は、もう一度「公開」を押した。反射みたいに。

 すると表示がずるりと崩れて、文字が砂みたいにこぼれ落ち——その中から、白い耳がぴょこんと出てきた。


 次に、ふさふさの尻尾。

 最後に、法被(はっぴ)。


 モニターの縁に前足をかけて、よいしょ、とこちら側へ降り立ったのは——小さな白狐だった。


「明けましておめでとうござ……じゃない! 時間が! 零秒が! 零秒が溶ける!」


「……きつね?」


「はい! 狐です! 正確には局員です! 私は玉藻たまも!」


 白狐——玉藻は胸を叩いた。法被の背中に、どでんと筆文字が踊っている。


 大吉


「所属は縁起局えんぎきょく零秒れいびょう支局・大吉課! 臨時配送担当!」


「えんぎきょく……演技局?」


「違います! 縁が起きる方! 縁起の縁起! でも寺社の“縁起(由来)”の縁起でもあります! つまり——」


 玉藻は、私の投稿画面を指さした。


「あなたみたいに“始まりの物語”を書こうとする人のところに、来やすい!」


「来やすいって……私、投稿しようとしてただけで……」


「しました! 押しました! だから契約成立です!」


「してない!」


「契約書はボタンです!」


 言い切った狐の目が、やけに真剣で、笑いそうになってしまうのが悔しい。


「……で。何をしろと?」


 玉藻は急に顔を引き締めた。


「今年は丙午ひのえうまです。丙も火。午も火。火力が二重。縁起の配達が、例年の二倍熱い」


「熱いって……」


「サーバーが熱暴走です!」


 玉藻は机の上に、いつの間にか小さなホワイトボードを立てた。

 そこには棒人間の笑顔と、燃えてるサーバーと、おみくじが描かれている。


「縁起局には“縁起エンジン”があるんです。えんぎでエンジン。笑います? 笑ってる場合じゃないです!」


「笑ってる場合じゃないのにダジャレ入れるのは何……」


「縁起は、余裕がある顔をするのも仕事です!」


 玉藻はホワイトボードを指でとんとん叩いた。


「大吉はね、本当は“引く”ものじゃない。“配る”ものなんです。燃料は——誰かが嬉しくなる言葉」


 胸の奥が、少しだけあたたかくなる言い方だった。


「だけど丙午で火力が強すぎて、局の配送センターがパンク。そこで臨時ルート——零秒支局の出番」


「零秒支局……?」


「零時零分零秒にだけ開く支局。あなたみたいに“零秒”に手を伸ばす人のところに、出現します」


 玉藻が尻尾で、私のスマホをちょいちょいと押した。


 見慣れないアプリが勝手に起動する。

 アイコンは絵馬の形。しかも、ちょっと燃えてる。


 アプリ名は——『火の絵馬便ひのえまびん』。


「……ひのえま?」


「気づきましたね! ひのえうま、音で言うと“火の絵馬”っぽいでしょう? しかも絵馬って、元は“馬の絵”です。午年にぴったり!」


 推し活みたいに語るな、縁起の機関が。


 玉藻は両手を合わせて拝むように言った。


「お願いです。七件だけ。七つの“小さな大吉”を届けてください。長文はいりません。一行でいい」


「一行……?」


「一行で人は救われたりします。火種ひとつで、灯りは点く」


 玉藻の言葉が、丙午ひのえうまの“火”とつながって、妙に腑に落ちた。


 画面に宛先一覧が表示される。


【火の絵馬便:宛先一覧(七灯ルート)】

1)万福マート夜勤

2)火守稲荷 参道列

3)初灯団地 5号棟

4)午来うまく駅 前広場

5)灯明総合病院 夜勤

6)未明書房(自室)

7)織守紬おりもりつむぎ(あなた)


「……最後、私!?」


「はい! 配送員が最初に受け取る大吉は、本人が自筆で書く。規定です!」


「規定なら仕方ない……のか……?」


「仕方ないです!」


 勢いで押し切られた。

 でも、不思議と嫌じゃない。


 私は深呼吸して、宛先1をタップした。



 送信ボタンに触れた瞬間、世界がひゅん、と軽くなった。


 気づけば私は、コンビニのレジ横に立っていた。

 看板には「万福マート」。万の福。満腹。どっちに転んでも縁起がいい。


 夜勤の店員さんが、眠そうな目で、でもちゃんと笑っている。

 客が「明けましておめでとう」と言って、店員さんが「おめでとうございます」と返す。

 たったそれだけで、年が変わった気がした。


 私はスマホに、一行を打った。


 『あなたの「いらっしゃいませ」は、万の福をひとつずつ配ってる』


 送信。


 店員さんのスマホが震える。ちらりと見て、目を丸くして——すぐに笑った。


「……誰だよ。……でも、悪くないな」


 玉藻が隣でガッツポーズをした。


「万福、点灯!」


「点灯って言い方、好きだね……」


「七灯ルートですから!」



 宛先2、火守稲荷。


 ひゅん。


 神社の参道。人、人、人。提灯が揺れている。

 灯りの列の先に、「火守稲荷」の文字。


 火を守る——燃やし尽くす火じゃなくて、灯し続ける火。

 今年の火力を、ちゃんと“良い火”にする場所だ。


 列の中に、手袋越しでも分かるくらい緊張している人がいた。

 隣の相手に言いたいことがあるのに、言えない震え。


 私は一行を打つ。


 『丙午の年は勢いが味方。言葉も一歩だけ、前に出していい』


 送信。


 その人はスマホを見て、深呼吸して、隣の人に顔を向けた。


「……あけおめ。……今年さ、一緒に——」


 続きは人混みに消えた。

 でも、相手が笑って頷いたのは見えた。


 玉藻が尻尾をぶんぶん振る。


「火守、点灯!」


「守ってるのに点灯するんだ……」


「守るために灯すんです!」



 宛先3、初灯団地。


 ひゅん。


 古い団地の廊下は冷たいのに、窓の向こうの街はところどころ明るい。

 表札に「初灯団地」。新年最初の灯り。名前だけで、少し心がほぐれる。


 部屋の中。こたつ。みかん。テレビ。

 ひとりで年越し番組を見ている人がいた。

 笑うでも泣くでもない、静かな背中。


 私は一行。


 『静かな夜ほど、あなたの灯りは遠くまで届く。消さなくていい』


 送信。


 その人がスマホを見て、肩を落としたあと、電話帳を開いた。

 指が止まった先は「孫」。


「……明けましておめでとう。声が聞きたくなってね」


 玉藻が嬉しそうに目を細める。


「初灯、点灯!」



 宛先4、午来駅。


 ひゅん。


 駅前の看板に、でかでかと「午来駅」。

 うまく。午が来る。午前の午。うまくいく。

 縁起局、隠す気ゼロだ。


 ベンチに、終電を逃した人がいた。

 寒さと、不安と、財布の心細さ。なのにスマホの地図は開いたまま——帰る意志はまだ消えていない。


 私は一行。


 『うまくいかない夜でも、帰る道は「うまく」残ってる。あったかい方へ』


 送信。


 その人が苦笑して立ち上がり、タクシー乗り場へ向かう。

 そこで同じように困っている人に声をかけた。


「……相乗り、しません?」


「え、いいんですか? 助かります!」


 車が走り出す。テールランプが、夜に赤い線を引く。


 玉藻が満足げに頷いた。


「午来、点灯!」



 宛先5、灯明総合病院。


 ひゅん。


 病院の廊下は白い。清潔で、静かで、忙しい。

 案内板に「灯明総合病院」。

 灯明は、誰かのために灯すお供えの火だ。


 ナースステーションで、マスク越しに目元だけ疲れた看護師さんが動き回っている。

 新年でも止まれない背中。


 私は一行。


 『あなたが灯してる分、誰かの夜が続いてる。あなたも休んでいい』


 送信。


 看護師さんはスマホを見て、一瞬目を閉じた。

 それから隣の同僚に言う。


「交代で休憩取ろ。……私、三分でいいから」


「うん、助かる」


 三分でも、灯りは増える。


 玉藻が小さく拍手した。


「灯明、点灯!」



 宛先6、未明書房。


 ひゅん。


 暗い部屋。パソコンの光。投稿管理画面。

 更新、更新、更新。数字が伸びない。心が沈む。

 ——見覚えがありすぎて、私は笑えなくなる。


 机の横に積まれた段ボールに、マジックで「未明書房」と書いてある。

 出版社じゃない。ただの自室。

 でも未明は夜明け前。まだ来てないだけの光だ。


 画面の前の人——同年代くらいの書き手が、眉間にしわを寄せている。

 書けるのに、止まっている。


 私は、迷わず打った。


 『未明は、明ける途中。あなたの続きを“必要な朝”が、ちゃんと来る』


 送信。


 書き手は通知を見て、泣き笑いみたいな顔をした。

 そしてキーボードに手を置き直す。


「……明ける途中、か。じゃあ、もうちょい書くか」


 文字が増える音が、部屋に戻ってくる。


 玉藻が尻尾をふわっと揺らした。


「未明、点灯!」



 宛先7。織守紬おりもりつむぎ


 私は、喉の奥がきゅっとなるのを感じた。

 自分に言葉を届けるのが、いちばん難しい。


「怖いですか?」と玉藻が聞く。


「怖い。読まれなかったら、って。滑ったら、って。……でも、届けたい」


 玉藻が頷いた。


「そのまま、一行にしましょう。火は燃やすだけじゃない。灯すものです」


 私は指を動かした。震えながらでも、書く。


 『丙午の火は、私が灯す。届くまで笑って、何度でも送る』


 送信。


 その瞬間、部屋の空気がふっと軽くなった。

 不安が紙みたいに薄くなる。


 スマホの時計を見る。


 0:00:00


 まだ、零秒だった。


「え……?」


 玉藻が誇らしげに胸を張る。


「ここは零秒支局。縁起が整うまで、零秒は溶けません。丙午なので、溶けやすいんです!」


「溶けるとか言わないで……!」


「言い方の問題です! さ、確認を!」


 私はモニターを見る。

 カクヨムの画面に、表示が出ていた。


【公開しました】


 ……ちゃんと公開されている。

 2026年1月1日、午前0時0分0秒。

 私は“始まり”に間に合った。


 外で、除夜の鐘が鳴った。遠い音が窓ガラスを震わせる。


 玉藻はモニターの縁に腰かけ、深く頭を下げた。


「本年も、よろしくお願いします。縁起は、縁から起きます。あなたが起こしました」


 胸の奥が、花火じゃなくて、台所の電灯みたいに明るくなる。


「……こちらこそ。よろしく」


 顔を上げると、玉藻はもう半分、モニターの中へ戻りかけていた。

 最後に尻尾をひらひら振って言う。


「ちなみに、読者の皆さんに伝言です。——この作品を開いたあなたへ。今年の最初の“受信”はもう届いてます。あとは、うまくいくだけです!」


 玉藻が消えた。


 部屋には静けさが戻った。

 でも、さっきまでの静けさとは違う。

 静けさの中に、点いたものがある。


 私は画面に向かって小さく言った。


「あけましておめでとう」


 その瞬間、スマホの時計が——


 0:00:01


 零秒は、ちゃんと溶けた。

 溶けたのに、私は少しも怖くなかった。


 だってもう、灯してしまったからだ。


(了)


※本作は生成AIを用いて本文を生成し、作者が編集・調整しています(AI本文利用)。

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丙午の午前零時零分零秒の大吉配送センター 【読み切り短編】 ヒトカケラ。 @hitokakera

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