ルミナ様の魔力、召喚獣共により浪費中

しゃぼの

第1話「竜王、MPに酔う」

「はぁ~ルミナたんのMPうめぇ~」


巨竜が胡坐あぐらをかいて座っている。顔に威厳がない。つま先から頭のてっぺんまで弛緩しきっていた。顎門あぎとに長い葉巻をくゆらせて実にご機嫌な様子だ。


「ドラグノア殿、聖女様は命を懸けていらっしゃるのだ。言葉を謹んでは如何か?」


煤けた洞穴で掣肘せいちゅうを加えれば、かの竜は目をかっと見開き私を睨みつけるではないか。


「黙れ三下! 竜巻しか起こせない小童が。この竜王神に説教など十万年早いわ! 我をこのような粗末な空間に閉じ込めるのだ。己が魂と引き換えなど当然の事よ! そんな事も分からぬとは言わせぬぞ」


「左様。とは言え、あるじの魔力を嗜好品のごとく言い散らす言動は捨て置けぬ」


愛刀を下段に構える。例え相手がかの竜王であろうと、我が主への侮辱は許せないのだ。


「ほほぉ~!? 抜くか? 良いのか? 良いのんか~?」


ごつごつした巨体を揺らしてにじり寄って来た。見上げれば竜のあご先に炎の奔流が渦巻いている。


「正気か? このような狭い場所で、インフェルノ・ブレスを吐けば、貴殿も無事ではすまんぞ?」


「残念だなぁ。我の鱗は実に素晴らしい耐火力を備えているのだよ」


洞穴に響き渡る哄笑は不気味で、神獣のものとは思えない。頭蓋を侵すそれは葬送曲だと言わんばかりだった。せめて一太刀浴びせてから死ぬと決めた時の事である。


『はい! はい! そこまでだよ! ドラ君、ゼフ君はさ、ピュアなんだよ。大人の対応をして。竜王神なんだから! ゼフ君も喧嘩しない。いいね?』


鈴の音のように澄み渡る声が、殺伐とした空間を浄化していくのが分かる。辺り一面が花のような香気に包まれていくようだ。


「ああ! ルミナ様の魔力の何とかぐわしいことか!」


慨嘆して竜の方へと向き直れば、かの王は腹を抱えて笑っている。何度も地面を叩き、地鳴りがしばし止まないのだった。



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