不死者殺しの悪役貴族~死にゲーのチュートリアルボスに転生した俺、廃人ゲーマーのスキルと現代知識で絶望的な無理ゲーを攻略する~

雨雲雷太郎

第1話 火葬の死使徒

 ――約束の地、ミスカリア。


 竜の血を分け与えられし王を戴く、万古不易の王国。

 だが、永遠の秩序と繁栄は一夜にして崩れ去った。

 呪われし王の降誕と、灰の瘴気の出現によって。


 いまや世界は終わりかけ、瘴気がすべてを覆い尽くしている。

 白と黒が混ざり合い、曖昧になり、人々は生きることも死ぬことも許されない。


 ゆえに、ミスカリアは欲しているのだ。

 終わりかけた世界に、真なる終わりをもたらす者を。


 来たれ、不死者よ! 死を超克せし稀人よ!

 汝、瘴気の淵源へと向かい、始まりと終わりの王殺しを果たし給え―― 


   ◇◇◇


 神ゲーの定義とはなにか?

 一つ、明確な基準がある。プレイ時間だ。

 具体的に言えば、千時間以上。

 それだけの時間を費やせたなら、少なくとも当人にとっては間違いなく神ゲーだろう。

 

 俺にとって『ダムドファントム』がまさにそうだった。

 容赦のない高難易度と陰鬱な世界観の死にゲーでありながら、世界的な大ヒットとなったタイトル。

 発売から約三年が経った現在も売上本数を伸ばし、アップデートも定期的におこなわれ、オンラインは常に賑わっていた。


 その日も俺は『ダムドファントム』をプレイしていた。

 いつものごとく起きてから寝るまで、ほぼすべての時間ディスプレイに向かってコントローラーを握っていた。


(――は?)


 それはまったく突然に起きた。

 自室の椅子に座ってゲームをプレイしていたはずの俺は、異質な光景の只中に立っていた。

 すべては一瞬の出来事。画面が切り替わるような唐突さで、俺を取り巻く世界が一変していた。


 そこは崩壊した、かつては荘厳な神殿だったとおぼしき施設だった。

 周囲には溶岩が沸き立ち、崩れた壁の奥には活火山が見える。

 俺が立っているのは石造りの床で、半径五〇メートルほどの領域が溶岩の侵食を免れていた。


 一変したのは周囲の景観だけにとどまらない。俺自身の姿も変化していた。

 今身につけているのは部屋着のスウェットではなく、豪奢な仕立てのローブだ。

 中世の貴族が着るような衣装だが、生地は色褪せて擦り切れ、いたるところに血痕が見られた。


 なにより変化が大きいのは俺自身の肉体だ。

 右の腕を見下ろす。皮膚は異様に青白くなり、軟体動物を思わせる半透明の質感となっている。その内部では神経網らしき繊維が淡い明滅を繰り返していた。

 現実離れした異常極まりない現象。だが俺にとっては見慣れたものだった。


死使徒ししとッ……!?)


 もちろん現実ではなくゲームの中で、だが。

 散々やりこみ、今しがたもプレイしていた『ダムドファントム』の設定。

 ゲームの舞台『ミスカリア』は全土が『瘴気』に侵されており、人々は「人ならざる者」に変容している。


 大多数の一般人は、生ける屍である『屍人』に。

 一部の特異な才能の持ち主は、物質と精神の狭間を生きる『半霊体』に。

 そして特別に呪われた者だけが、人外の怪物たる『死使徒』と化す。

 俺は自分が「誰」に変わったのか瞬時に理解していた。


 ――火葬の死使徒、ラディスラフ。


 『ダムドファントム』に登場するボスキャラクターだ。

 つまり結論は一つ。どうやら俺はゲーム世界に転生してしまったらしい。

 ありえない。そんなことが起きるわけがない。これは夢か幻だ。

 そんな否定の声は、残念ながら頭の中で大きくならなかった。


 なぜか? 俺の直感が、本能が、魂が、この状況を現実だと認識し受け入れてしまっているからだ。

 誰しもそうだろうが、現代日本で日常生活を営んでいるとき「自分がいるこの世界は果たして現実なのか?」なんて疑問を抱いたりはしない。

 

 それと同じ感覚が俺の意識を満たしていた。

 疑問の余地はない。ここはゲームの中、もしくはそれと酷似した世界だ。

 その現実を受け入れてなお、不思議と俺の精神に動揺はなかった。

 死使徒と化したことによって、ラディスラフは「人の心」を失っている。

 その設定が反映されているのかもしれない。


 俺は首を振って左右を見渡す。やはり勝手知ったるロケーションだ。

 ラディスラフとのボスバトルエリア『火の屠殺場』である。

『ダムドファントム』において、プレイヤーキャラがゲーム開始直後に訪れる場所。

 ラディスラフは最初のボスとしては異常なまでに強く、ゲームを始めたばかりのプレイヤーではまず勝てない。


 だが問題はない。ラディスラフ戦は死にゲーのお約束「冒頭の負けイベント」であるため、敗北してもゲームオーバーにはならずストーリーは進行する。


 再戦の機会はゲーム中盤、「火の屠殺場」を再訪した際だ。

 そのころには初戦時と比較にならないほどレベルが上がり、装備も充実し、知識も増え、なによりプレイヤースキルが磨かれている。

 そのため意外にあっさり倒せたという感想が多いボスだった。


(どうせ転生するなら主人公にしろよな……)


 俺は胸中で嘆息して愚痴をこぼす。

 ゲーム世界に転生するなら主人公が第一希望、次いで第二希望はラスボスだったのだが。


 それが、よりにもよってラディスラフとは当たりが悪い。

 こいつはストーリーの進行上、撃破が必須のボスである。

 つまり、中盤で倒され死亡する運命が決まっている――


 ゾクンッ! 直後、背筋にただならぬ怖気が走った。

 死。約束された敗北。避けられない運命。

 ここが『ダムドファントム』の世界だというなら、俺にそれをもたらす者は――


 ギギギッ、と巨人が呻くような音が響き渡る。

 俺の正面にある巨大な鉄扉が、向こう側から左右に押し開けられていく。


 そして、扉の隙間から闖入者が姿を現した。

 使いこまれた鉄の鎧を身に着け、頭部を兜で完全に覆った人物。

 目が離せない。俺の中の記憶と、知識と、寸分たがわず完全に一致する出で立ちだ。


 素性は騎士。初期装備として右手にロングソード、左手に鉄の盾を携えている。

 顔は見えない。性別すらも不詳。だが、俺はそいつが何者なのか誰よりもよく知っていた。

『ダムドファントム』の主人公。プレイヤーの分身たるキャラクター。


(不死者――!)


 俺は先ほどの怖気の正体を知る。死の恐怖、いや、死の顕在化だ。

 不死者。その名の通り、決して死ぬことのない肉体と魂を持つ者。

 死にきれぬ世界に真なる死をもたらす来訪者。稀人。

 瘴気に蝕まれた者すべての天敵――


 一切の躊躇なく、不死者は剣と盾を構えて距離を詰めてくる。

 戦闘前の会話はひと言もない。忠実にゲームの内容通りだ。

 一般的なRPGと違って『ダムドファントム』は作中の会話が極端に少ない。

 中ボス級のラディスラフは、ボスエリアに入ったとたん戦闘が始まる仕様だった。


(くっ……!)


 向こうは完全に俺を殺す気でいる。

 説得は不可能。はなから選択肢にも入らない。

 話が通じる相手ではないだろうし――なにより死使徒と化したラディスラフは声と言葉を失っている。


 なぜ、こんなことになってしまったのか? わかるはずもないし、考えている暇はない。

 ただ一つ、確かなのは。

 戦わなければ俺は殺され、死ぬ。

 ゲームではなく現実の死。存在が消滅して二度と元に戻ることはない本物の死。


 やるしかない。異名の通り、ラディスラフは「呪われた火の魔法」の使い手だ。

 しかし剣や弓ならまだしも、魔法なんてどうやって使えばいい?

 ゲームと違ってボタン一つで簡単に発動するわけもない。


 敵は待ってくれない。不死者はダッシュで距離を詰め、右手の剣を鋭く振り下ろしてくる。

 ロングソードのダッシュ通常攻撃モーション。

 発生が速い、ロックオン時の誘導性能が高い、リーチがそこそこ長い、後隙が少ないと、総じて優秀なモーションである。


 自身でも数え切れないほど繰り出し、対人戦では幾度となく喰らった技。

 だが、すべては画面越しでのこと。

 直接、自分自身に向かって放たれる斬撃はなにもかもが違った。

 俺はとっさに両腕を交差して防御するが、左の二の腕が深々と裂かれてしまう。


 俺はバックステップで距離を取る。

 不死者は追撃に移らない。慎重な立ち回りに努めているようだ。

 斬られた箇所を見る。生身の人間ならば骨まで達している大怪我だが、痛みはまったくない。


 血の代わりに白い体液が噴出したものの、すぐに止まる。

 さらに傷口はたちどころに再生し元通りとなった。

 人外の死使徒ならではの肉体。とはいえダメージはしっかり受けている。

 ゲームと違って数値の表記やHPゲージの減少はないが、自分の生命力が幾分か削られたという確かな実感があった。


 とはいえ、死に至るまではまだまだ猶予がある。

 この戦闘の段階では彼我のステータスに雲泥の差があった。

 もちろん俺ことラディスラフが圧倒的に上だ。


 さらにゲーム開始直後の不死者は回復手段を持たず、必殺技に該当する「魔力武技」も使えず、サポートキャラである「守護霊」も召喚できない。

 普通であればまず俺が勝つ戦い、不死者にとっては「負けイベント」だった。


 具体的には、不死者がラディスラフを撃破するには、通常攻撃を三〇回以上当てる必要がある。

 対して不死者がラディスラフの攻撃に耐えられるのはせいぜい二発まで。大技を喰らえば即死だ。


 そこまで考えて、やっと心に余裕ができた。死の恐怖がやわらぎ、意気が奮い立つ。

 だが油断は禁物だ。相手が「普通」ではない可能性もないわけではなかった。


 可能性その一。不死者がゲームクリア後の「二周目」以降である場合。

 幸い、これは一撃喰らったことで違うと確定した。

 もし周回プレイヤーであったなら、一撃で俺の生命力は半分以上が削られたはずだ。


 可能性その二。不死者が廃人級の戦闘技術を有していた場合。

 ゲームにおけるラディスラフとの初戦は「負けイベント」であるが、熟練のプレイヤーであれば初期レベルかつ初期装備でも撃破は可能だ。


 かくいう俺もわりと早い段階で達成済みである。

 ラディスラフの攻撃は予備動作が長く、モーションがわかりやすく、ダメージ判定が短く、直線的な軌道のものばかり。


 パターンさえ覚えてしまえばノーダメージ撃破も難しくない、という評価が現在では定着していた。

 問題は、相手の不死者が廃人級なのか否か、だが――

 まだわからない。一度の攻防で判断は下せない。


 だがこの戦いに限っては、たとえ相手が廃人であっても不利にはならない。

 なぜなら前述の通り、ラディスラフを「操作」する俺もまた廃人だからだ。


 負けるわけがない。負けていいわけがない。

 これだけ有利な状況で敗北しようものなら、俺は二度とゲーマーを名乗れなくなる。

 なにより『ダムドファントム』に費やした膨大な時間が、本当に無駄で無益だったと確定してしまう。


(そんなことになってたまるかよ……!)


 普通にやれば勝てる。ラディスラフの火の魔法を使えさえすれば。


(こうかっ――!?)


 記憶しているモーションを真似て右腕を下から振り上げる。

 地面にそって火炎を噴出させる攻撃、通称『火走』。

 だが不発。発動条件が満たされなかったようだ。


(くそ、なんでだっ……!)


 魔法や武技の仕様にはМPが必要――というのは不死者のみの話だ。

 敵キャラかつボスエネミーであるラディスラフにМPという概念はないはず。

 ならばなぜ? 一体なにが不足していた……?


 不死者が動く。魔法の不発を見てか、一転して苛烈な連続攻撃を浴びせてくる。

 俺はそのすべてをまともに喰らってしまう。

 ラディスラフに限らず『ダムドファントム』の大半のボスエネミーはほとんど回避行動をとらない。

 ボスの回避性能まで高かったら、強すぎてゲームにならないからだ。


 いちおう、大きく距離を離すバックステップは存在する。

 ただしこのモーションは後隙が甚大で、ダッシュで簡単に距離を詰められてしまう。

 反撃しなければ着実に命を削られていく。

 三〇という数字は、自身が積み上げていくには気が遠くなるほど大きな数だが、自分から差し引かれていくにはあまりにも心もとない小さな数だった。


 もう一度『火走』の発動を試みるも、やはり不発に終わってしまう。

 焦るな。冷静になれ。一から魔法の使い方を思い出せ。


 あくまでも不死者の場合だが、魔法を使うには第一に「知力」や「信仰」といった必要ステータスを満たす必要がある。

 第二に、使いたい魔法をあらかじめ「術式回路」にセットしなければならない。

 この二つの条件は当然に満たしている。ないしは敵キャラには関係ないはずだ。


 ならば、あとは使いたい魔法を選んで対応したボタンを押すだけでいい。

 ゲームではそうだ。しかしここで問題が生じる。

 肝心のボタンがどこにもない。あるはずもなかった。


 だから俺は、脳内のイメージと体の動きがボタンの変わりだと考え、実行に移した。

 しかし当ては外れてしまった。

 仮に魔法の発動に、特殊な思考法や精神統一が必要なのだとしたらお手上げだ。


(ぐぅっ……!)


 不死者の猛攻はつづく。あれよあれよという間に攻撃回数がカウントされていく。

 ついに一五回、ラディスラフのHPのおよそ半分を削られる。

 直後、ふいに膝が崩れて俺はその場で盛大な隙をさらした。


(し、しまった――!)


 俺としたことが「体勢崩し」を失念するとは。

『ダムドファントム』には「体勢値」というシステムが実装されている。

 これはHPとは別の内部的な数値で、攻撃を受け続けると減少し、ゼロになると一定のあいだ無防備な姿をさらしてしまう。


 通常攻撃ではいっさい怯まないボスも、このときばかりは身動きが取れなくなる。

 不死者にとっては最大のチャンス。

 なぜなら体勢を崩した相手にのみ発動する強力な攻撃があるからだ。


 ――絶命の一撃。


 不死者は俺の心臓にロングソードを突き刺し、背中まで貫通させる。

 つづけて左足で体を蹴りお飛ばしながら刀身を一気に引き抜いた。

 ラディスラフの体から大量の体液が噴き出し、不死者の体を白く染め上げる。


 まさに常人ならば一突きで絶命に至る攻撃。

 人外のラディスラフですらただでは済まない。

 一撃で通常攻撃八回分ものダメージを受けてしまう。


 いよいよ追い詰められた。あと七回、たったそれだけで俺は死に至る。

 俺という存在が終わる。そして十中八九――いや、確実にコンティニューやリセットもできない。

 仮にそんな仕組システムが存在するとしても、プレイヤーキャラたる不死者だけの特権だ。


 不死者は最後まで手を緩めない。

 勝利が近づいても焦って攻め急いだりせず、機械のごとく最適解のムーブを取り続ける。


 攻撃を受ける。あと六回。

 差し迫るリアルな死に、俺の心は絶望に満たされていく。

 しょせんこんなものか。俺が無双できるのはゲームの中だけで、現実の戦闘では一方的に処理される弱者でしかないのか。


 攻撃を受ける。あと五回。

 当たり前だ。現実の俺は命がけの戦いどころか、喧嘩すらしたことがないのだから。

 最初に気づくべきだった。実際の肉体を動かすこととコントローラーを操作することはまったく違う。


 攻撃を受ける。あと四回。


(……まあ、いいか)


 どうせ、ゲームをする以外に意味も目的もなかった人生だ。

 俺が死んだところで誰も大して悲しまない。両親ですらそうだろう。

 そもそもこの世界に転生した時点で、俺は行方不明扱いとなっているはず。

 ならば死んでしまったところで大差はない――


 攻撃を受ける。あと三回。

 ある意味これで良かったのかもしれない。

 現代日本にずっといても、俺はろくな死に方をしなかったはず。

 大好きな『ダムドファントム』の世界で死ねるならいっそ本望――


 攻撃を受ける。あと二回。


(――馬鹿か俺はッ!?)


 死ぬのはまあ仕方ない。現代日本に生きていたって、事故や病気で急死する可能性はゼロじゃない。

 これも事故の一種と考えれば、自身の不幸を嘆いて最終的には受け入れるしかない。


 問題はそこじゃない。最悪なのは死ぬことじゃない。

 最悪なのは、諦めて投げ出すことだ。


 それもゲームで、よりにもよって人生で一番やりこんだ『ダムドファントム』の世界で投了するなんて――ありえない。

 たとえHPが瀕死ミリになって、回復も尽きて、敵の体力はまだ半分以上残っているとしても、俺は絶対に諦めず勝利への道を模索しつづける。


 攻撃を受ける。ついにここまで来てしまった。あと一撃で俺の命は潰える。

 問題ない。これまでやってきたことを、いつもやっていることを、今ここでやれ。

 必ずできる。なぜならここはゲームの中、『ダムドファントム』の世界なのだから。

 ディスプレイの前に座り、コントローラーを握っているつもりで挑め――


(あぁ、そうか)


 土壇場で閃きがもたらされた。

 なぜ、魔法が発動しないのか? 俺が初っ端で間違ったからだ。


 ――ゲームと違ってボタン一つで簡単に発動するわけもない。


 その認識が根本的な誤りだった。

 間抜けな話だ。ここを九分九厘ゲームの世界だと認識しておきながら、肝心要のところで常識を頼ってしまった。


 正解は逆だった。この世界ではボタンを押さない限り魔法は発動しないのだ。

 ボタンがどこにあるのかといえば、決まっている。

 俺の脳内しかありえない。

 ラディスラフの肉体を直接動かすことはやめ、イメージの中でコントローラーを具現化する。


 不死者がロングソードを振り上げる。

 確実な死をもたらす一撃が迫るが、俺はまったく動じていなかった。

 どこまでも冷静に、最適かつ最速の操作で、不死者をロックオンし仮想のボタンを押し込んだ。

 瞬間、ラディスラフの右腕が鋭く振り上げられ、地面から一直線に炎が噴き出した。


 ――呪われし火の魔法『火走』。


 どの攻略サイトを見ても、ラディスラフ戦でもっとも注意すべき攻撃と書かれている技。

 発生が非常に速く、射程も長く、そのくせ威力もかなり高い。

 

 ゴォッ! 後出しにも関わらず、ロングソードの攻撃判定が発生する前に魔法の炎が不死者を焼く。

 不死者が怯んで動作がキャンセルされたことで、俺は急死に一生を得た。


 同時に俺の勝利が確定した。

『火走』が初期の不死者に与えるダメージはHPの三分の二ほど。

 だが最速で『火走』を再使用すると連続ヒットチェインが確定してしまう。

 ゲーム内のラディスラフはプログラムに従って動くため、滅多に二連続では使ってこないが――


 俺は迷わず『火走』を再発動した。

 最終局面で人による操作の強みが出た形だ。

 二度目の炎に焼かれ、不死者のHPがゼロになる。


 ザシュッ……! 特徴的な効果音――命の糸が断たれたような音が響く。

 不死者は炎系の攻撃で死亡したとき特有の、ひときわ甲高い断末魔の悲鳴を上げる。

 男とも女ともつかない声だった。

 

 ゲームと同じく、絶命した不死者は死体を残さない。

 その体は装備している鎧や武器ごと、光の粒子に還元されて消滅した。

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