第2話:ギルドの水晶が爆発しそうだったので、設定を弄ってみた
王都の喧騒は、追放された後の俺には少しばかり眩しすぎた。 手には、さっき銅貨から書き換えたばかりの「純金貨」が詰まった袋。……重い。 (これ、いきなり宿で出したら強盗に遭うか、偽造通貨の疑いでしょっ引かれるよな。……まあ、いいか。とりあえず身分証を作ろう)
俺は大きな木の扉を押し開き、冒険者ギルドへと足を踏み入れた。 その瞬間、俺の視界に飛び込んできたのは、ギルドの喧騒を忘れさせるほどの「暴力的な美」だった。
「いらっしゃいませ。本日は登録でしょうか? それとも、依頼の報告かしら?」
カウンターの奥で微笑んでいたのは、紫の長い髪をサイドに流した、驚くほど美しい女性だった。 タイトなギルドの制服は、彼女の豊満な胸元と、きゅっと引き締まった腰のラインを容赦なく強調している。というか、ボタンが弾け飛ばないかこっちが心配になるレベルだ。
「あ、えっと、登録……をお願いします」
不覚にも、声が裏返った。 彼女が少し身を乗り出すと、甘い香水の匂いが鼻をくすぐる。 ……ダメだ、思わず視線が吸い寄せられる。俺、さっきまで追放されて絶望してたはずなのに、今は顔が熱くてしょうがない。
「あら、可愛い新人さん。私は受付のセリアよ。ふふ、そんなに赤くならなくても取って食ったりしないわよ?」
「い、いや、赤くなってなんて……」
セリアさんはいたずらっぽく微笑むと、流れるような動作で書類を取り出した。 俺は動揺を隠すように、大急ぎでペンを走らせる。
名前:ハルト
スキル:改変者(リライター)
(正直に書くとまた『ゴミスキル』って馬鹿にされるよな。セリアさんの前で格好つかないのは嫌だし……よし、書き換えよう)
俺はスキルの欄を指でなぞり、『生活魔法』へとリライトした。……よし、これで万全だ。
「はい、記入できました。……『生活魔法』? ふふ、地味だけど便利そうね。では最後に、こちらの『魔力測定の水晶』に手をかざしてください」
セリアさんがカウンターに出したのは、禍々しい輝きを放つ大きな水晶。 ……いや、待て。 俺の目には、その水晶の周囲に浮遊するシステムメッセージがはっきりと見えていた。
【魔力測定装置:モデル4G】
最大許容数値:99,999
※現在の数値を色と輝きで表示します。
(これ、俺が触ったら確実に爆発するやつだ。今の俺、レベル999だし。セリアさんの綺麗な顔に破片が飛んだら大変だ)
俺は冷や汗を流しながら、水晶に指を触れる直前で止めた。
「あ、ちょっと待ってください。……えい」
俺は水晶の『最大許容数値』を指でなぞり、そっと書き換えた。
リライト・パッチ 1.03 適用:
・魔力測定装置の最大許容数値を 99,999 から 無限(∞) に変更しました。
・ついでに、測定結果が派手すぎると恥ずかしいので、出力演出を 90%カット しました。
「よし、これで大丈夫だろ」
俺は自信満々で水晶に手を触れた。 ……が。
ギュイィィィィィィィィンッ!!!!
「……えっ?」
演出を90%カットしたはずなのに、水晶が真っ黒な太陽みたいに輝き始めた。 「まぶしっ!?」「なんだこの魔圧は!?」とギルド中の冒険者たちが椅子から転げ落ちる。
「きゃっ!? な、何これ、数値が読み取れないわ……!」
セリアさんが豊かな胸元を抑えて後ずさる。 水晶の表面には、見たこともない古代文字のようなエラーログが高速で流れ始めた。 最大値を『無限』にしたせいで、水晶の演算回路が完全にパンクしたらしい。
「なんだ、この騒ぎは!」
奥の部屋から、いかにも「強キャラ」な雰囲気を纏った大男が出てきた。ギルドマスターのバドさんだ。 彼は顔面蒼白で、俺と水晶を交互に見ている。
「貴様、この国宝級の水晶をどうした! セリア、これは一体……」
「わ、わかりません! ハルト君が触れた瞬間に……!」
「いや、ちょっと魔力を込めただけで……。あ、すぐ直しますね。これ、設定が極端すぎたんだな」
俺は慌てて、空中に指を走らせた。 今度は『出力演出』をさらに絞り込み、さらにバドさんの「驚き」という感情パラメータがうるさかったので、少し弄ってみることにした。
リライト・パッチ 1.04 適用:
・ギルド内の全装置の演出を 99.9%カット に固定しました。
・ついでに、ギルドマスター【バド】のステータス「驚愕」を「極限の平穏」に書き換えました。
その瞬間。 水晶の光がふっと消えた。 そして、激昂していたバドさんの表情が、まるでお釈迦様のような慈愛に満ちた笑顔に変わる。
「……ふむ。問題ない。すべては宇宙の摂理、あるがまま。……ハルト君と言ったかね? 君、今日からSランクでいいよ。うん、細かいことはどうでもいい」
「え、いきなりSランク? それはそれで目立つから困るんだけど……」
バドさんは悟りを開いたような顔で、俺の肩をポンと叩いた。
「いいんだよ。ランクなんて所詮は人間が作った概念……。あぁ、セリア君、今日の夕飯はカスミソウがいいな……。私は少し、宇宙と一体化してくるよ……」
「マスター!? 宇宙と一体化って何ですか!? 目が、目が座ってますよマスター!」
バドさんはそのまま、立ったまま深い眠りに落ち、白目をむいてガクンと膝をついた。
「マスターが死んだー!?」
「誰か蘇生魔法をー!」
ギルド内は、さっきの光の騒ぎ以上の大パニックになった。 俺は気まずくなって、バドさんの横にそっと予約パッチを置いておくことにした。
リライト・パッチ 1.05 適用:
・バドの「覚醒状態」を 10分後に100% に戻るよう予約しました。
・ついでに、この場にいる全員の記憶を「なんか凄い夢を見た」程度にダウングレードしました。
「……ふう、これでいいか」
俺は呆然としているセリアさんの元へ戻った。 彼女は乱れた髪を直しながら、上目遣いで俺を見つめてくる。
「ハルト君、あなた……本当は『生活魔法』なんてレベルじゃないわね?」
「あ、はは……。まあ、ちょっとしたコツがありまして」
セリアさんは、潤んだ瞳で俺の顔をじっと見つめると、耳元でそっと囁いた。
「……今度、その『コツ』、お姉さんに詳しく教えてくれるかしら?」
「っ! は、はい! 喜んで!」
俺は心臓が口から飛び出しそうなほど跳ねるのを感じながら、ランク「計測不能(ERROR)」のカードを受け取り、逃げるようにギルドを後にした。
(お姉さんパワー、恐るべし……。世界のシステムを書き換えるより、あのお姉さんの視線の方がよっぽど心臓に悪いわ)
俺は真っ赤な顔のまま、賑やかな通りへと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます