第4話 布団の中

 アルバムを閉じて、テレビをつけてだらだらしていたら、もういい時間になっていた。寝るかということになって佳祐の部屋に上がり、そこで一悶着があった。


「いや、おかしでしょ。同じベッドって」

「しょうがないだろ、来客用の布団なんて、どこあるか知らないし。多分ないんじゃないかな」


 泊まれというのだから布団くらい出してくれるかと思いきや、一輝の背中を押して、佳祐は自室のベッド前まで平然と連れてった。そのまま、さっさと布団に入り込み、壁側によって布団を少しだけめくり、一輝に入るように促す。


「布団くらい探せばあるって。それかリビングのソファーで寝るから……」

余りに佳祐が堂々としているので、一輝の方が弱腰になる。

「まぁいいじゃんか、寒いし。隣に寝てもらえればあったかいし。エアコンないんだよ、この部屋。もともと物置だったから」

 

 佳祐がそう言うので、一輝は部屋を見回す。広くはない。確かにもとは納戸だったようだ。以前、部屋の覇権争いで妹に負けた、と佳祐が言っていたのを思い出した。我の強い男だが、妹のほうがより気が強いらしい。

 クローゼット周りや教科書の並んだ学習机は、ゴチャついているが、壁際の棚には、カメラやレンズの撮影道具が整頓されている。佳祐らしい部屋だった。


 壁には、佳祐が撮影した気に入りの写真が引き伸ばされて貼られていた。県外まで撮りに出かけたという、朝霞の煙を感じるような白樺林や、雨に霞む、どこかの工場を金網越しに捉えた写真など。その隣にどこぞの有名な写真家の撮った風景写真のポスターも並んでいる。前に名前を聞いたのだが、その方面に疎い一輝はすっかり名前を忘れてしまった。ただ、それらの写真に対して、佳祐の写真も負けていないと思うのは、贔屓目が勝っているからだろうか。

 前にそれを直接佳祐に言ったら、「そうかな」と照れつつ嬉しそうにしていた。


 一輝は机の足元に、石油ストーブを見つけてそれを指さした。

「……ストーブあるじゃん」

佳祐は残念そうに首を振った。

「って思うだろう?昨日灯油が切れたんだよ」 




 結局いつも流されていると思いつつ、ベッドの端の方に横たわった。

「あんまり端だと落ちるだろ」

と言われたので、一輝はため息を付いてから、仕返しとばかりに、背中で佳祐を壁に強く押しつけた。


 何となく話しているうちに佳祐のほうが先に寝たようだった。その呑気さにまたため息を一つついて、一輝も目を閉じた。




 その夜、夢を見た。目が覚めて一輝は眼の前に佳祐の胸があるのに気がついた。寝返りをうった拍子に近づいてしまったらしい。

 枕元のデジタル時計は24時近くを示していた。近くにある佳祐の身体の微かな匂いを意識して嗅ぎ取ってしまって、気恥ずかしくなった。離れようとも思ったが、佳祐の腕が伸びてきて、一輝の肩に回された。寝ぼけているのか。


 佳祐の腕が思いのほか重たくて、また寒い部屋の中だと、二人分の体温で温まった布団に眠気を促されて、すべてが面倒くさくなって、一輝はまたうつらうつらと眠りの淵に引きずり込まれていく。肩に回された腕が重たい。そして、眠たかった。


 夢か現か境界が曖昧になった頃、佳祐の声が聞こえた気がした。


(一輝ってさ、ホントおれのこと、好きだよな)

(……お前、とうとう言ったな)


それが夢の中だったのか、そうでなかったのか。目が覚めた一輝には分からなかった。

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