クビにならない謎のダメ社員

あっぴー

クビにならない謎のダメ社員

 波奈津摩美はなつまみは、名前通りの鼻つまみ者社員だ。

 仕事もできなければ愛想も悪く、見た目も良くない上に身だしなみが雑で、しかももう改善が難しいであろう、いい歳だ。


 猪狩益代いかりますよも、そんな彼女を嫌っているうちの一人だった。

 まだお客様対応をしない、事務の中でも雑用担当だからマシとはいえ、樫子以蔵かしこいぞう社長は何を考えて彼女を雇い続けているばかりか、優しくしてやっているのか。


 摩美がいつものようにくだらないミスをした時、益代はつい言ってしまった。

「あーもう……

 何回言っても覚えない波奈津さん、ほんっと嫌い……」

 言いすぎたかしらね……

 でも、ちょっとは反省するといいわ、


 ……えっ?

 堪えてないばかりか……

「なに、嫌いって言われてニヤニヤしてんのよっ!」

「だって、猪狩さんって、嫌いな人ばっかりでしょう?

 陰ですぐ、あの人頭おかしいだの、怠け者だの能力ないだの言うじゃない。

 そんな人に嫌いって言われても響かないっていうか、嫌いの大安売りだなっていうかぁ」

「た、たしかにそうだけど、他の人はあなたほどではないわよっ!」

「だったら本当に嫌ってるのは私だけだって、態度で示してくださいよ」

「わかったわよっ!」


 かくして、益代は他の人に優しくなり、摩美以外の陰口も言わなくなった。

「よくやった。

 これで、対・波奈津さん以外の人間関係が、また更に改善されたよ」

 樫子社長は摩美を労った。

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