てのひらまほう
もにゃむ
第1話 覚醒
「おにゃかしゅいた…」
孤児院の粗末な建物の裏、地面に座り込んで建物の壁に凭れながら、ぎゅるるるっと鳴るお腹を擦りながら、2歳のジーンは独り言ちた。
ジーンが暮らすのは、ある特殊な孤児院。
孤児院に益となる子どもと認められるまで、その扱いは過酷だ。
入所して暫く、ジーンは好待遇を得られていたらしい。
そのおかげで他の子どもたちよりも少しだけしっかりした体を持っている。
赤ん坊の時に入院して2年間は孤児院で一番上の待遇を受けていたジーンだったが、好待遇が与えられていた理由の信憑性が無いと判断され、一段階下の待遇を受けることになった。
ジーンと同時期に孤児院にいた小さな子どもたちは奇跡的にすれておらず、誰に影響を受けたのか他者を思いやることができ、つらい環境の中で助け合って生きていた。
ジーンたちちびっこは、ある体の大きい乱暴な男の子に毎食数人が食事を奪われていて、食事を奪われたちびっこたちに他のちびっこたちが自分たちの少ない食事を分け与えて、何とか生き延びていた。
ちびっこたちは足りない食事量に、いつもお腹を空かせていた。
厳しい環境であっても比較的平穏な日々を送っていたちびっこ孤児たちの中に、ある日突然異物が放り込まれた。
数日前に孤児院に
助け合い精神で生きてきたちびっこ孤児たちは、彼が食事を抜かれる度に、少しずつ自分たちの食料を彼に分け与えていたのだが、今日の夕食時にちびっこたちから分け与えられたものだけで満足できなかった彼は、ジーンたちちびっこたちのご飯をすべて奪うという暴挙に出た。
すぐに彼は管理者に取り押さえられ、孤児院の地下の独房に入れられた。
引き取り先が決まるまで、彼は地下の独房から出てこられないだろう。
生きて出てこられればいいが、生きていなくても行き先はある。
ここは、そんな過酷な孤児院だった。
卵と呼ばれる魔力を持つ3歳以上の子どもたちの食事は1日2食、いつも生きるためにギリギリの量しか与えられない。
その1食分をすべて奪われたのだ。
管理者たちから追加で食事を与えられることはない。
ここでは何があっても自己責任である。
「
食事を奪われた他の子どもたちは、食事を奪われたことで連鎖的に大泣きし、泣き疲れてそのまま眠ってしまった。
泣くことなく空腹で眠れていないのはジーンだけだった。
ジーンはまだ2歳。
普通の2歳児にない思考能力と言語能力であることに、本人は気付いていない。
「
ジーンは両手の小指側を水を掬うように合わせて、そこに食べものがあることを想像した。
物心ついた頃から無意識にやってしまう、ジーンの想像遊びだった。
喉が渇いていれば水があると想像して、てのひらから水を飲んだ気になる。
お腹がすけば食べ物があると想像して、てのひらの中に顔を突っ込んで口をもぐもぐ動かして食べた気になる。
強い思いが体に錯覚を起こさせる遊びをすることを覚えたのだ。
いつも想像するのは、自分が今まで食べたことがあっててのひらの上に載せられるもの、毎日食べている黒くてジーンの歯が立たないほど硬いパン、ここでは黒パンと呼ばれているものだ。
今日も想像した。
強く。
強く、強く。
…黒パンを柔らかくするためのスープが無いから、できれば柔らかくて美味しいのがいいな、と雑念を混ぜながら。
2歳になったことで、強く想像する集中力が上がったのだろうか。
今まで想像だけで頭の中にしかなかった食べ物が、てのひらの中に見えた。
見えた食べ物は、想像したものと違っていた。
見たこともない白い三角形のそれは、質量も伴っていた。
「お……に…ぎ…り……?」
それを認識した途端、ジーンの頭の中に膨大な量の情報が流れ込んで来た。
ジーンが見たことがない建物、たくさんの人、多種の食べ物、見たことのない動物……
「
止むことなく頭の中に流れ込み続ける情報。
普通でない赤ん坊、父親らしき男の人、温かい空間、温かい存在、血の匂い、雨の冷たさ……
とても大切な情報であるとは感じたものの、目の前のおにぎりが幻でないことを確かめる方が先だった。
ジーンはてのひらの上の小さな小さなおにぎりに噛り付く。
「
ジーンはおにぎりをあっという間に食べ終わり、もう一つおにぎりがてのひらの上に載っているのを想像したところで、意識を手放すように深い眠りに落ちていった。
てのひらまほう もにゃむ @monyamu
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