初日の出inダンジョン──蕎麦はそこらのモンスター──

数理教 教祖

初日の出inダンジョン──蕎麦はそこらのモンスター ──

前書き:初日の出を見る予定がある方は、その時に読むといいと思う


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探索者というのは実に不運な職業だ、俺は今日という日ほどそう思ったことは無い。

少なくとも、俺がエンジニアやコンサルタントだったなら、今頃は上の神社で神様とやらに祈りつつ初日の出を待ち望んでいた筈だ。

はああ、と、溜息をつく。


「も、申し訳ありません。何か不手際がありましたでしょうか」


俺の大きなため息に驚いた様で、係員のお姉さんがそう声をかけてきた。慌てて俺は「いえ、全く。驚かせてすみません」と謝罪を口にした。


「それより、ここの掃討って今どんな感じですか」

「いえ、全く……」


全く? と、思わず疑問を口にする。

緊急招集がかかってから、既に三時間。遅刻したかと焦って駆けつけた俺が、最初の到着者だなんて、まさかそんな事があるものか。


「何か、特異個体が出現したのでしょうか」


言いながら、心の中で否定する。そんな事があれば、担架と死体袋でこの辺りは埋め尽くされている筈だからだ。


「いえ……その」


お姉さんは言い淀んだ。何処か申し訳なさそうな表情で、俺というより寧ろ奥の鳥居──正規の神社ではなく、ダンジョンの構造物だろう──を見ていた。


「そのですね、ほら、今は年末じゃ無いですか。だからその、いえ、形式上は“連絡がつかない”という扱いなのですが……」


つまりは、すっぽかしていると、そう彼女は暗に言った。何という事だ、俺は天を仰ぐ。

そりゃあ確かに年末にユニークダンジョンの掃討などしたく無いのはわかるが、それでは

────


「──俺が馬鹿みた──ああいえ、何でもありません」


思わず口に出てしまっていたらしく、慌てて訂正する。が、お姉さんは柔和な笑みで語り聞かせる様に口を開いた。


巣山踏哉すやまとうやさん、規則を守らない人間が多いからと言って、守った人が馬鹿だなんて事は、決して無いんですよ」

「そう……ですね」


それは全くの正論であったし、俺もそうであるべきだと思う。ダンジョンの掃討をすっぽかすのがなんて事になったら、たちまちダンジョンの暴走スタンピードが起きてこの街はお終いだろう。


「巣山さんが、恋人や友人と過ごす事よりも、こちらを優先している。それは素晴らしいことでは無いかと思うのです」

「ゲッ」


思わず変な声が出た。いかに強力な探索者であろうと、不意打ちにはかくも脆弱なのだ。


「何ですか?」

「いえ、何でも……あ、ゲテモノダンジョンを生業としている訳ですし、そんなに大層なことでは無いですよ」


大層なことではない、というのは本当であるが、真実は今自分が言った事よりもなお大したことでは無いのだ。

そう、この大晦日、俺には友人も恋人も居ない。したがって、そもそも執着自体がさしてない。

その事実が胸に鋭い穴を開け、キリキリと魂を締め上げる。

そこから逃れようと、俺は「それじゃあ、もう行って来ます」と、足早に去ろうとした。


「ああ、少し待ってください。あと一人連絡が取れている人がいるんです」

「本当ですか」


それは俺なぞより遥かに崇高な理念を持った人か、或いは俺の同類か。後者であって欲しいと思わず願う。

「そろそろ来る筈です」とお姉さんが言うと同時に、入り口の辺りで「あのー」と言う声がした。

思わず振り返る。それは単に人が来たからと言うよりも、随分と聞き覚えのある声だったからだ。

まさか、アイツは友達と過ごすなどと言っていたではないか。リア充に対する妬みからかしっかりと覚えているぞ。と困惑を胸に浮かべつつ振り返ると、しかし。


「え゛っ」

「すみません、ここであってますか───って、何でアンタが!?」


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「それで、美咲みさきさんよ。友達と過ごすだの何だの言ってたアンタがどうしてここにいるんだい?」

「何よその口調、気持ち悪いわね。……別に、何でもないわよ」


昨日散々煽られた分を煽り返してやろう、と意気込んで俺は声をかけた。モコモコとした、しかし体の線にフィットしたジャケットと、この季節には似合わないチェックのミニスカ。大層気合いが入っている……いたと見えた。間違いなく効果覿面だろう。

その精神性が出会いを遠ざけている?それはそうかも。


「何でもないって事はないだろ」

「何でもないの、ええ、何でもないわ」


そう突っぱねる彼女にさらに突っ込もうとした矢先に、彼女の方が濁った目をこちらに向けながら口を開いた。


「……私に緊急招集がかかった事を口実に、友達が彼氏の所に行っただけよ。何と言う事もないわ」


ああ、と俺は思い出した。時々忘れそうになるし、事実こいつの方がランクは上ではあるが。


「お前も、“年末に余る側”だったなあ」

「何よそれ、言い様のない失礼さを感じるわね」


俺は武器を取って立ち上がる。何となく気が楽になって来た、仲間がいると言うのはいいものだ。


「それじゃ、余り物同士討伐に励むとしますか」

「ちょっと、一緒にしないでくれる!?」




大晦日ダンジョン、とは、いわゆるE指定ダンジョンの一つだ。E、というのは除外Excludedの意で、決してEダンジョンでは無い。冗談みたいだが、この勘違いで毎年何人も死んでいる。

その特徴は、一つは年末年始の1月1日の0時から六時までの計六時間だけ発生するダンジョンであること。

二つは、内装がものすごく綺麗で、具体的には日本家屋みたいである事。

もう一つは──


「──中のモンスターが年末仕様である事だ。ほら、ソバワームがそっちに向かってるぞ」

「見りゃ分かるわよ、せいっ!」

「あ、おい、話を聞けって!」


彼女の電撃がワームに直撃し、忽ちにいい匂いと共に所々炭化した蕎麦の塊が出来上がる。

俺はそれに唖然として、すぐに駆け寄り、そして食えそうな部分にナイフを当てた。


「何よ、普通に倒せたじゃ無い……って、何やってるの?」

「何って、早く食わないと蕎麦が不味くなる!」


蕎麦良し、麺つゆよし。プラコップを手にし、そこに蕎麦つゆを注ぐ。蕎麦はさらりと潜らせるだけでいい、長くつければ味がボヤけてしまう。


「んー、美味い!」

「わー、美味しそー……じゃ無いわよ!」


ぴん、と、彼女は俺の額にデコピンをする。俺はそれに大袈裟に痛がると、彼女は呆れた様にコップに目を向けた。


「何を言い出すかと思えば、まさかモンスターを食い出すとは思わなかったわ。お腹壊すわよ?」

「いや、ここのは食っても良いんだって。ほら、招集案内にも書いてただろ?」


彼女が全くピンと来ていないという様子で首を傾げるので、俺は仕方なくスマホの画面を見せる。


「えーっと、ほら、これだ」

「あー、ね。“飲食物あり”と。……普通そんな意味だとは思わないわよ!」

「そうは言っても、現にそうなんだから仕方ないだろ」


うぐぐ、と、彼女は押し黙り、それから溜め込んだ息を大きく吐き出した。


「……頭痛くなって来た」

「なら蕎麦を食うべきだな、ほら」


俺が新しい箸とコップを渡すと、意外にも彼女はすんなりと受け取った。


「渡した側が言うのも何だが、今日は素直だな」

「……人間はね、慣れる生き物なのよ」


まあ、彼女を連れ回すこともこれが初めてでは無いし、当然と言えば当然だろう。

受け入れれば早いもので、彼女は瞬く間に幾つかのソバワームを無傷で手に入れた。生体電気をかき乱すことで即座に失神させる、お得意の技である。


「……蕎麦に生体電気?」


何やら不可解な事があった様な気がする。

ダンジョンだからだろうか、そう納得する事にしよう。


「それで、これをそのまま食べるの?」

「そうだな。あ、中にある緑色の臓器はワサビが入ってるから、好みだったらつゆに溶かすと良い」


うげえ、と彼女は言いながら、それでも悩んだ末にワサビと思しき緑のペーストをつゆに溶かした様だった。

そこからも悩ましげに蕎麦を掴んだまま箸を右往左往させていたが、やがて意を決したように口の中に突っ込んだ。


「どう?」


俺はそう問いかける。彼女は最初不安と後悔が入り混じったような表情をしていたが、少しもしないうちに大きく目を見開いて、また一口啜って「美味しい!」と声にした。


「何よこれ、そこらのお店の蕎麦より美味しいじゃ無い」

「だろ?」


彼女にも魅力が分かってもらえたようで良かった。彼女がずるずると絶え間なく(しかし、上品な感じで!)蕎麦を口に運ぶと、忽ちに二匹のソバワームはわずかな内臓を残して消えてしまった。そうしてなお、彼女は食べ足りないと言った様子だった。


「ねえ、早く進みましょ」


そう言う声は、とても弾んでいるように聞こえた。


──────────


「ねえ踏哉、あれも食べられるのかしら」

「勿論」


あれ、と言うのは、目の前で浮遊している黄色い物体──フライミカンである。

剥かれた皮を羽根のように上下にはためかせ、その大きな房を宙に浮かせている。

忽ちに皮を剥かれ、身も剥かれ、彼女の胃袋に収まった。


「あれは?」


ハシゴを下った先、B2フロアに居たのは伊勢エビ──ではなく、ボイルオオシュリンプである。彼俺が答えるよりも先に、彼女は電撃を纏ったナイフを投げた。

結論から言えば、彼女はどうやらエビの皮剥きが苦手らしかった。


「ぬーっ!」

「……剥こうか?」


必死の形相で身を引っ張る彼女に、俺は見かねて手を差し伸べる。


「大丈夫!」


何が大丈夫なのかは分からないが、彼女は思い切ったようにナイフを突き立て、ギチギチと甲殻を抉り取った。


「ほら!」

「自慢げに無惨な残骸を見せられても困るんだが」


それを聞いた彼女は、「文句ある?」と俺の口にもそのぐずぐずを詰め込んできた。

見た目と味は、やはりさして関係がないらしかった。



そこからも、彼女の電撃を前に多くの魔物が破れ去り、その大半は彼女の胃袋に収まった。

俺はと言えば、巻き込まれないように壁の隅あたりに立ってそれを観察し、時折おこぼれに預かるだけ。

楽ではあるが、妙に疲れるような感覚もした。主に心がね。


「ふー、食べた食べた!」

「そうだな……」

「何やつれてんのよ」

「や、別に」


彼女は、入って来た時の様子が嘘のように元気になり、はしゃぎ回っては虐殺の限りを尽くしている。

場所は既に5層目に差し掛かっていた。


「ここでこのダンジョンは終わり見たいね、梯子がないわ」


いつのまにか探索も済ませたらしい彼女は、栗きんとんと思しきペーストを舐めながらそう言った。


「しかし、ボスモンスターが居ないな」


俺はそう疑問を口にする。このダンジョンは比較的は居ない方なのだから、ボスに当たる何かがあって然るべきだろう。

俺達が疑問符を浮かべながら歩き回っていると、すっかり食の悪魔と化した彼女が、目ざとく何かを見つけた。


「何かしら、あれ」


それは、黄金色の餅のように見えた。

俺は何となくどう言うことか察して、不用意に触るな、と言おうとしたが、やはり彼女の行動は早い。

しかし、そろそろ立ち止まる事を学んでほしい。俺は今回も切に願った。


「いただきま……ひゃっ!えっ!?」


呑気に突っ立ってる彼女の襟首を掴み、こちらに強く引き戻す。

瞬間、何処からか飛んできた杵が、凄まじい轟音を立てながらそこを貫いた。


「え、えっ」

「お前な……」


やっと状況を把握して来たらしい彼女が顔を青くするのを見て、俺は呆れて思わず声を出す。


「もしかして、……またやっちゃった?」

「そうだよ」


そんな事を言っている間にも、さらに何処からか臼が飛んできて、杵とともに宙に浮く。その形態は、生憎と俺の記憶にはなかった。


「初めてみるな……オオウスゴーレムとでも名付けようか」


そう言いながらチラリと横を見ると、何故か大鎌を取り出し、バチバチに電気を漲らせていた。今にも攻撃しようとしていた。


「おい」

「……な、なんにせよ、倒せば良いのよ!」


「死ねい!」とおよそ少女が使うとは思えない言葉を発して切り掛かった彼女は、しかし


バチッ


「え」

「あ」


その攻撃は、大きな音を立てて紫電を散らし、……しかしそれで終わった。


「え、な、なんで」

退!」


俺は慌てて一息に言いたい事を全部言い、出来の悪い後輩を引き戻そうとするが、向こうのほうが一息早かった。

奴はヒョイ、と彼女を杵で掬い上げると、臼の中に入れる。同時に、臼は力を失った様にストンと落ちた。


「ひゃああああ……え?」


彼女は困惑した様にその中にへたり込む。俺も少しばかり何なのか分からなかったが、──直ぐに理解した。


「武器で体を守れっ!」

「えっ」


彼女が武器を掲げた、その次の瞬間。轟音とともにその中に杵が振り下ろされた。ぎしり、と槍が撓む。また次も、どん。目の前で展開される圧倒的な力に体を縮こまらせながら、彼女は何とか口を開く。


「わ、私、餅にされちゃう!!」


その発言は中々に冗談の様なものだったが、眼前の光景は冗談で済まされるものでは無い。

彼女の槍は見る見る折れ曲がっているし、それに比例して彼女も見る見る涙目になって体を小さくしていく。終いには「助けてっ!」と言う声が飛び出した。

意にも介さず、オオウスは意気揚々と杵を振り下ろす──が


「っと、やっと捕まえたぞ。俺を忘れてた様だな」

「トウヤぁ!」


中々素早い動きで手こずったが、止まったところを掴めばこちらのものだ。俺は暴れる杵を片手で押さえつけ、地面にねじ伏せる。


「踏哉、こ、腰が、腰が抜けちゃってぇ……」


情けない事を漏らす彼女に、俺は例の如く嗜虐的に口を開く。


「美咲さんよ」

「……な、何ですか」

「助けてもらいたいならな」


びくり、と体を震わせる彼女に、俺は続ける。


「例の如く勝手に突っ走った事を謝れるか」

「はい………」

「二度としないと誓えるか」

「はい…」

!?」

「はいい!!」


宜しい。俺が力を軽くこめると、べきりと言う音を立てて杵が真っ二つに砕ける。その片方を掴み、臼に向かって全身を使って投げつけた。

臼は耐えられなかった様でぐるりと一回転し、彼女をこちらに吐き出す。俺はそれを空中で抱き抱えると、残る片方の杵も投擲した。


「舌噛むぞ、口閉じろ」

「ひゃ、」


臼は障子を3枚突き破り、畳をいくつか引き剥がしながら土煙とともに床に倒れた。尚も動こうとするそれを、俺は片足で蹴り、お望み通り宙に浮かす。


「ほら、動けよ」


また反対側から蹴り、強く地面に叩きつける。臼の表面にピシリと亀裂が走り、悶絶する様に小刻みに揺れた。

最早震えるしか能の無くなったそれを、俺は掴み上げ、眼前に近づける。


「俺はなあ、正直とてもムカついてる」


臼がびくりと震えた。腕の中の少女もびくりと震えた。


「今年こそは真っ当な初日の出を拝むと言う計画がおじゃんになったことにも、その時もこの後もぼっちであると言う現実にも」


フルフルと震えるその挙動は、自分に言われても……という困惑にも思えた。だがしかし、こいつが全て悪いのだ。俺はそう思うことにした。

臼に口無しである、恨むならさるかに合戦に出演できなかった事を恨む事だ。


「挙句にてめえが可愛い後輩を美味しくもない餅にしようとした事に、とってもムカついてんだ」


ぎしり、臼が軋む。震えが明らかに大きくなる。

俺はその残骸を投げ捨て、それから彼女を床に下ろした。


「あ、ありがと……後ごめんなさい!」

「ああー、………いいよ。適当に言っただけだし」


頭の何処かでスイッチが切れると、自分は何をやっているんだろうとだんだん冷静になって来た。そう言う瞬間が、誰しもあると思う。

彼女は尚ももじもじとしながら、何かを言い淀んでいた。


「あの、その……可愛い後輩、って」

「あー」


改めて考えると、勢いに任せて言ったが、だんだんと恥ずかしく思えて来た。

どう繋ごうかと思って、中身のない空気だけを肺から吐き出す。ああ、俺はそう言えば非モテ、コミュ障だったのだ。と、いまさらに思い出した。


「えーっと、その、あれは……」


否定しようかと思ったが、それも何か彼女に悪い気がする。

悩んでいると、彼女の方がこちらを向いて、ビシッと指を指して言った。


「ま、まあ、私は可愛いし、強いし、アンタの自慢の……うう……」


途中から尻すぼみになって、ぷいと向こうを向いてしまった。


「美咲?」

「な、何でもないわよ」

「こっち向いて?」

「無理!」


美咲は時々こうなる。高飛車な性格とは裏腹、と言いたいところだが、最近はこの方が納得感がある様に思えている。

まあでも面白いので覗き込もうとしていると、途端に「あ」と彼女が声を上げた。

指差された方を見て、俺も「あ」と声を上げた。


ボロボロになった臼から、光り輝く金色の餅が浮かび上がり、部屋中を暖かく照らしていた。


「「………初日の出?」」


少し間を空けて、お互いにそう口にして、互いの顔を見合わせて

それから、どちらともなく両手を合わせた。


「初日の出……inダンジョン」

「なんて?」


俺は思わずそう返した。

彼女は「忘れて!」と叫んだ。


──────────


新年とは、地球が公転軌道を一周したと言うことに過ぎない。次の一年と前の一年は、全く同じ軌道を歩む。

なら、それの特別さは、何かが変わった様な気がするのは、ひとえに俺たちの側の問題なのだろう。世界を薄く照らす朝日を見ながら、俺は久々にそう感傷的な気分に浸っていた。

時刻は六時二分、ダンジョンはいつの間にか消え去り、俺達は初詣客が生み出す喧騒の中にいた。


「ねえ」


美咲が俺に声をかけた。俺はぼんやりとした頭で、「何?」と答える。


「これから、予定ある?」

「あるわけないね」


当たり前だろう、と俺は返した。今年もお一人様で生きていくぞ、とカスの様な抱負を心の中で打ち立てていると、彼女は驚くべき言葉を続けた。


「じゃあさ、……私と、初詣行かない?」

「え」


俺は驚きの言葉を上げる。

彼女は少ししてから、慌てた様に「あ、と、友達が彼氏とホテルに行っちゃったらしくて、し、仕方なくね!」と付け加えた。


「……行くか、初詣」


俺が同意すると、彼女もまた誤魔化す様にはにかんで、「うん」と言う。

俺は初日の出金色の餅をアイテムボックスの奥、大切な物入れに放り込み、それから気持ち大ぶりに足を踏み出した。

彼女もまた、同じ様に足を踏み出す。


「そうだ」


俺はようやく、大切な事を言い忘れてたと思い出した。


「なによ」


彼女をじっと見てから、俺は言葉を紡いだ。


「あけましておめでとう」


彼女は少し呆気に取られた様な表情を浮かべて、それからクスリと笑って、言った。


「こちらこそ、あけましておめでとう」

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