第38話 見られる
男の目が、私を捉えた。
その瞬間。
体が、固まった。
まるで。
蛇に睨まれた、小動物のように。
動けない。
呼吸も、浅くなる。
「可愛い子だな」
男が、近づいてくる。
一歩。
また一歩。
私は、後ずさりたい。
でも、動けない。
「緊張してるのか?」
男が、笑う。
優しい笑顔。
いつも見ていた、上司の笑顔。
でも、今は。
違う。
何かが、違う。
「緊張しなくていい」
男が、私の目の前に立つ。
近い。
息がかかるくらい、近い。
「一人じゃなくて」
男の手が、私の顎を持ち上げる。
「たくさんの人に、見てもらいたいんだろ?」
「アイドルとして、売れたいんだろ?」
アイドル。
売れる。
私は、震える声で答えた。
「は、はい…」
演技。
純情な女の子の演技。
「それだったら」
男が、にっこりと笑う。
優しい笑顔。
でも、目は笑っていない。
「俺の言うことだけを聞いて」
その言葉が、胸に突き刺さる。
俺の言うこと。
だけを。
聞け。
「はい…わかりました…」
私は、従順に答えた。
演技を続ける。
でも、体が震えている。
「いい子だ」
男が、私の頭を撫でる。
まるで、ペットのように。
「りお、こいつ気に入った」
男が、りおに向かって言う。
「ありがとうございます」
りおの声。
従順な声。
でも、どこか震えている。
「さて」
男が、ソファに座る。
「まずは、自己紹介してもらおうか」
私を見る。
「名前は?」
「の、のぞみです…」
「のぞみか。いい名前だ」
男が、頷く。
「年齢は?」
「24です…」
嘘をついた。
本当は26だけど。
女の子の設定として、若い方がいい。
「24か。若いな」
男が、ニヤリと笑う。
「アイドル、やりたいのか?」
「はい…」
「どうして?」
「みんなに、笑顔を届けたくて…」
用意していた答え。
りおと練習した答え。
「いい答えだ」
男が、満足そうに頷く。
「じゃあ、まず」
男が、立ち上がる。
私の前に来る。
「体を見せてくれ」
「え…」
「アイドルは、体が商品だ」
男の声が、冷たくなる。
「だから、チェックしなきゃいけない」
「回って」
言われるままに、回る。
ゆっくりと。
男の視線を感じる。
全身を舐め回すような視線。
「いいスタイルだ」
男が、近づいてくる。
そして。
手が、私の腰に触れた。
「細いな」
「あ…」
声が、漏れる。
「脚も、綺麗だ」
手が、太ももに触れる。
スカートの上から。
でも、肌に触れているような感覚。
「胸は…」
手が、上に移動する。
「やめ…」
思わず、言いかけて。
止める。
演技。
従順に。
「いいサイズだ」
男の手が、胸に触れる。
服の上から。
でも、感触がわかる。
揉まれる。
「あ…んっ…」
声が、出る。
恥ずかしい。
でも、止められない。
「感度もいいな」
男が、満足そうに笑う。
「合格だ」
手が、離れる。
私は、その場に立ち尽くす。
体が、震えている。
「りお」
男が、りおを呼ぶ。
「はい」
「今夜は、この子を使う」
「はい、わかりました」
りおの声が、震えている。
「のぞみ」
男が、私を見る。
「これから、色々教えてやる」
「俺の言うことを聞けば」
「必ず、売れるようにしてやる」
その言葉に。
ゾッとした。
これから。
何をされるんだろう。
りおが受けたような。
ひどいことを。
でも。
私は、選んだんだ。
この道を。
ポケットの中の、お守り。
りおのパンツを、ぎゅっと握りしめる。
大丈夫。
りおが、一緒にいる。
耐えられる。
きっと。
「さあ」
男が、にっこりと笑った。
「始めようか」
長い夜が、今、始まろうとしていた。
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